天文ガイド 惑星の近況 2012年10月号 (No.151)
堀川邦昭、安達誠
木星は明け方の東天高く昇るようになりました。まだ西矩前ですが、梅雨明けと 共にシーイングが良くなり、高解像度の画像が多くなっています。南西天ではス ピカ近くで火星が土星に追いつき、良い観望対象になっていますが、地平高度が 低いため、惑星表面の観測には不向きです。

ここでは7月後半から8月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

北半球では大変動が続いていて、北赤道縞(NEB)から北温帯縞(NTB)にかけては、 これまで見たこともない異様な光景が広がっています。NEBとNTB南組織(NTBs)は オレンジ色が鮮やかで、特にII=200°台では北熱帯(NTrZ)も赤みを帯びて薄暗く なっているため、NEBからNTBsまでが幅広いオレンジ色のベルトのように見えま す。これを青黒いNEB南組織(NEBs)とNTB北組織(NTBn)が縁取っていて、色調の違 いが際立っています。II=120〜300°のNEBは幅広くなっており、北縁が北緯20° 付近にありますが、その他の経度では北緯17°付近で、平均的な位置になってい ます。

[図1] 暗化して一体となったNEBとNTB
大赤斑のすぐ後方には赤化したBAが迫る。撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)

NEB南縁の至る所に見られる青黒い暗部や暗斑からは、赤道帯(EZ)に向かって フェストゥーン(festoon)が伸びています。このような模様は2008年以降、数少 なくなっていましたが、今年は5年ぶりに復活しています。EZの中央を東西に横 切る赤道紐(EB)は、I=200°台で赤みが強く明瞭ですが、その他の経度ではあま り目立ちません。シーズン初めは全周で顕著でしたので、淡化傾向にあるのかも しれません。

南半球では南熱帯(STrZ)のストリーク(dark streak)が衰退を始めたことにより、 大赤斑(GRS)南側のアーチが消失し、大赤斑本体が1年半ぶりに復活していますが、 まだ淡く赤みもほとんどありません。II=181°にある大赤斑のすぐ後方には、永 続白斑BAが迫っています。今シーズンは再び強く赤みを帯びて、大赤斑よりも赤 くなってしまいました。そのため、白斑ではなく赤い「暗斑」として見えていま す。経度は8月6日でII=199°となっていますので、8月末には大赤斑の南を通過 し始めるでしょう。BAのすぐ後方には、明瞭な小暗斑があります。以前見られた 南温帯縞(STB)の断片の名残と思われます。同じような小暗斑はII=110°付近に も見られます。

[図2] ストリーク後端部
南熱帯攪乱を思わせる暗部になっている。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)

STrZのストリークは、後端が大赤斑を離れてからひと月が経過しました。通常、 大赤斑側からの供給を断たれたストリークは、急速に衰えて消失するのですが、 今回はやせ細ってきているものの、予想したほど衰えていません。ストリークは 後端がII=70°付近にあり、前方に向かって細く淡くなりつつII=300°付近まで 伸びています。後端部は南赤道縞(SEB)南縁から盛り上がった幅30°くらいの低 い台形状の模様となっており、南熱帯攪乱(South Tropical Disturbance)を彷彿 させます。もし、循環気流が形成されていれば、ストリークが意外に持続してい る事実と符号するのですが、今のところその証拠は見られません。

SEBは大赤斑前方で濃く、中央組織が顕著です。シーズン初めからII=100°付近 に目を引く大型の明部がありましたが、高解像度の画像では複数の小白斑の集合 で、同様の模様がII=60°付近にも見られます。大赤斑後方に見られるSEBの活動 域、post-GRS disturbanceは長さ40°くらいでやや短くなりました。後方のSEB 南縁は暗斑群となっています。II=0°付近には、STrZのストリークとSEB南縁の 間に明瞭な小暗斑が出現しています。山崎氏のレポートによれば、この暗斑は 8月1日前後にSEB南縁の暗斑群のひとつから形成されたとのことで、典型的な高 気圧性のリング暗斑です。

本来の濃度と太さを持ったSTBは、II=270°から330°の区間で見られ、その前方 でも大赤斑との間では拡散した北組織が明瞭ですが、その他の経度ではほとんど 消失しています。その南では南南温帯縞(SSTB)が幅広く濃いベルトとして目立っ ていますが、II=200°台とII=0°前後では、ベルト中央部が淡化して二条に分離 しています。SSTB内部には、昨シーズン同様、高気圧性の小白斑(AWO)が全周で 9個確認できます。

[図3] STrZのリング暗斑の形成
SEB南縁の暗斑がリング暗斑に発達する様子。山崎明宏氏作成、筆者改編

土星

日没後、ほどなく高度が下がってしまうので、観測条件は悪く、土星面の詳しい 状況はわからなくなっています。相変わらず北赤道縞(NEB)から北温帯縞(NTB)ま でが幅広い一本のベルトのように見えていて、南半分が赤みを帯びているのに対 して北半分は灰色で、色調が異なっています。まったくの偶然ですが、木星面で も北半球の同じ領域が暗化して幅広いベルトのようになっていて、面白いことだ と思います。明るい赤道帯(EZ)はピンク色をしていますが、高緯度地方は特徴に 乏しく、北温帯(NTZ)が明るく目を引く程度です。

環の南側に目を向けると南極地方が青っぽく見えています。来シーズン以降は環 がさらに開いて、南極付近はほとんど隠されてしまい、以後、8年ほど観測でき なくなってしまいますので、今が見納めとなるでしょう。

[図4] 8月初めの土星面
NTrZの暗化が続いている。撮像:小澤徳仁郎氏東京都、32cm)

火星

火星は西の空低くなり、夕方の悪気流で観測は次第に困難になってきました。視 直径も6秒を切ってしまったので、観測数は激減し、当観測期間は、二人の観測 者から6回の報告を受けたのみでした。今期のレポートはこれが最後になると思 われます。

低空にもかかわらず、ハワイのFreddy Willems氏が火星を熱心に追跡しています。 報告された画像を見ると、北極冠が黄色っぽく観測されています。大変小さくな っていて、北極冠としては最小の状態になっています。

Lsはほぼ150°になり、北半球の秋分に近づいてきました。南極地方は白雲(極雲) に包まれています。これからどんどん白雲が成長して、南極冠生成に向かいます。

[図5] 火星の南極雲
一番上の白い部分が南極雲。撮像:Freddy Willems氏(米国、35cm)

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