天文ガイド 惑星の近況 2012年11月号 (No.152)
堀川邦昭
火星はすでに地球から大きく遠ざかり、10月末に太陽と合を迎える土星は、南西 天低くなって観測は困難になってしまいました。一方、4日に西矩を過ぎた木星 は、夜半過ぎには東天に姿を現し、夜明けには天頂近くに達するようになりまし た。今年は暑さの厳しい夏でしたが、晴天と好シーイングに恵まれて、木星面の 詳細な状況をつかむことができています。

ここでは8月後半から9月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

★再び閃光現象!!

9月10日11時35分(UT)、木星面で小天体の衝突と思われる発光現象が観測されま した。2010年8月以来、約2年ぶりとなります。観測者はアメリカのダニエル・ピ ーターセン氏(Daniel S. Petersen)で、木星の東縁近くの北赤道縞(NEB)南部に 約6等級の白色の輝点を2秒間観測したとのことです。公開されている動画で確認 すると、この輝点は木星の周縁減光中で出現しているため、過去の閃光現象より も明るく感じられます。

衝突位置は、北緯12°、経度はI=335°、II=219°と見積もられましたので、世 界各地で追跡観測が行われましたが、前回同様、痕跡は観測されませんでした。

折りしも、月惑星研究会では有志により閃光現象の集中観測を全国各地で行って いましたので、もし、日本から観測可能な場所で発生していたら、大きな話題に なったことでしょう。

★木星面の状況

今シーズンは開始早々、北半球が大変動に見舞われて注目されましたが、当観測 期間中の木星面は落着きを取り戻しつつあり、大きな変化は見られません。

NEBは拡幅が全周に波及し、北緯20°付近に新しい北縁が形成されています。7月 以前のNEBから北熱帯(NTrZ)にかけては、不規則で短命な暗斑が出現したり、木 星面の風速パターンをそのまま映したようなストリーク模様に覆われたりと、異 様な光景が続いていましたが、ようやく通常の活動に戻ったようで、かつて見慣 れた模様が復活しつつあり、ベルトの内部には微細な明部が入り組んだリフト領 域が各所で発達し、北部にはバージや高気圧性の白斑が形成され始めています。 このうち、II=205°(9月13日)にある白斑は、1997年以来存続している高気圧性 の白斑WSZと思われます。WSZは過去にもNEBの拡幅やNTBsのアウトブレークを何 度も乗り越えてきましたが、今回の大変動を生き延びるとは驚きです。以前より もかなり加速したようで、1日当たり-0.9°の割合でII系に対して前進していま す。

北温帯縞(NTB)は、まっすぐでオレンジ色の南組織が目立ちますが、以前よりも やや淡くなったようです。一方、北組織は南組織とは対照的に、北組織は青灰色 で波打っています。拡幅したNEBとNTBに挟まれて狭くなったNTrZは、相変わらず 薄暗くなっていますが、濃淡はなく概ね一様です。NTBの北側は明るいゾーンと なっており、北北温帯縞(NNTB)は消失しています。近年のNNTBは濃く安定なベル トとして観測されており、これほど完全に消失するのは珍しいことです。NEBと NTBで起こった大変動が、影響を及ぼした可能性があります。

[図1] 大赤斑とBAの会合
木星を代表する2つの赤色斑点が南北に並び、ダルマのような様相となっている。NEB北縁の中央にはWSZが見られる。撮像:吉田智之氏(栃木県、30cm)

永続白斑BAが2年ぶりに大赤斑(GRS)の南側を通過中です。今年のBAは赤みが増し て、顕著なリング状の暗斑として注目されており、赤斑孔(RS Hollow)から復活 して、まだ濃度も赤みも弱い大赤斑よりも、かなり明瞭です。BAがこれほど赤い 状態で大赤斑と会合するのは、初めてのことではないかと思われます。面白いこ とに、眼視で見るBAは赤みのためか、やや拡散して淡く感じるため、むしろ大赤 斑の方が明瞭に見えます。BAは9月半ばに大赤斑の真南に達して、まるで赤いダ ルマのような様相となっています。

BAの後方には、小さいけれどもよく目立つ暗斑があり、さらにその後方には大き く薄青い白斑が見られます。普段目にする白斑とは少し雰囲気が違っており、淡 化した南温帯縞(STB)中の低気圧的なフィラメント領域と関連していると思われ る、少々気になる模様です。9月のSTBの濃化部はII=240〜310°の範囲となって おり、その後方にも細い南組織(STBs)が40°ほど続いています。南熱帯(STrZ)の ストリーク(dark streak)はついに消失し、II=300°台に痕跡状の淡いすじが残 るだけとなっています。一時、ストリーク後端部で南熱帯攪乱(S. Tropical Disturbance)のようになって目を引いたSEB南縁の扁平な膨らみも、ほぼ消失し てしまいました。

SEBの様相はほとんど変化ありません。大赤斑後方の活動域であるpost-GRS disturbanceは、微細な白斑や明部が入り乱れており、好シーイング下では美し く印象的な様相です。活動的な部分は40°くらいしかありませんが、後方に明帯 が尻尾のように長く伸びています。活動域の短縮は周期的な消長によるものと考 えられます。

[図2] 9月前半の木星面
9月の画像からII系が約90°間隔になるように並べた。撮像:(左から) 小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、米山誠一氏(神奈川県、25cm)、大田聡氏(沖縄県、30cm)

土星

10月26日の合まで、まだひと月以上残っていますが、9月の日没時の高度は20° 前後しかありませんので、土星の観測はすでに困難となっています。土星画像の 報告は9月9日のバリー氏(オーストラリア)が最後となっていますが、国内では 8月19日の瀧本氏(香川県)の観測が最も遅く、このままシーズンが終わるように 思われます。

今シーズンの土星面は、2009年末に発生した「大白斑」の余波に終始しました。 土星は木星に比べて大気の活動が弱いため、一度大きな活動が起きると、その影 響は長い期間残るようです。来シーズンも北熱帯(NTrZ)を中心に、活動の影響が 続くことでしょう。

土星が明け方の東天に再び姿を現すのは、11月後半になると思われます。来シー ズンは環の傾きがさらに大きくなり、本体の幅近くまで広がることでしょう。ま た、いろいろな話題を提供してくれることを期待したいものです。

[図3] 国内最後の土星画像
撮像:瀧本郁夫氏(香川県、31cm)

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