天文ガイド 惑星の近況 2013年8月号 (No.161)
堀川邦昭

今年は例年になく早い梅雨入りとなりましたが、6月前半はカラ梅雨気味で、晴 天の日が多く、4月末に衝を過ぎたばかりの土星に観測者の関心が集まっていま す。6月19日に合となる木星は、国内の観測は終了となりましたが、海外から最 後の報告が寄せられています。

ここでは5月後半から6月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

土星

土星では、当観測期間も北極地方の六角形パターンが注目されており、報告され た多くの画像で鮮明に見ることができます。これは六角形パターンが注目され始 めた春先と比べてシーイングが向上しただけではなく、六角形周囲の領域が明化 していることが原因のようです。3月頃の画像では、六角形周囲は暗緑色の薄暗 い領域となっていて、その外側の北北温帯縞(NNTB)が赤みを帯びて明るく見えて いましたが、現在は明暗が逆転して六角形周囲の方が明るくなり、輪郭が一層引 き立つようになっています。当観測期間も数名の観測者が極展開図を作成してい ますので、再度、六角形の動きを確認してみましたが、六角形の角の位置(経度) は体系IIIに対してほとんど変化していないように見えます。

[図1] 土星の北極地方の変化
春先に比べて北極を取り巻く領域が明化したため、六角形の輪郭が明瞭になっている。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)

極地方の六角形パターンの発見は、1980年代初めのボイジャー探査機のフライバ イにさかのぼり、カッシーニ探査機でも観測されて話題になりました。月惑星研 究会の古い記録を調べてみたところ、2000年代前半の土星の南半球が大きく地球 側に傾いていた時期に、いくつかの画像で南極の周囲に不鮮明ながら六角形のパ ターンが見られるようです。今年は環の傾きが大きくなって北極地方の状況を観 察しやすくなったことに加えて、周囲の領域が明化したことで注目されるように なったわけですが、上記の過去の観測事実を考慮すると、六角形パターンはひょ っとすると土星の両極に常時存在するのかもしれません。

土星面の他の領域を見渡すと、赤道帯(EZ)がクリーム色で最も明るくなっていま す。北赤道縞(NEB)の南部は赤みの強いベルトですが、それ以外の領域は灰色〜 薄緑系の色調に覆われています。前述のNNTBの赤みは薄れて暗くなって来ました が、六角形を取り巻く明るい領域がやや赤みがかって見える画像もあります。

北熱帯(NTrZ)は相変わらず薄暗いベルトのような領域で、内部にはコントラスト の極めて低い濃淡が残り、強調処理された画像ではたくさんの模様を見ることが できます。2010年末の白雲活動の勃発からすでに2年半が経過していますが、 NTrZは暗化したままなかなか元に戻りません。木星と違って大気の活動が不活発 な土星では、かき乱された大気が元の静かな状態に戻るには、長い時間が必要な ようです。

木星

当観測期間の報告はすべてギリシャのカルダシス(Manos Kardasis)氏によるもの でした。最後の観測は合から15日前の6月4日で、太陽との離隔はわずか11°しか ありません。同氏は日中、赤外フィルターで撮像した5画像から展開図を作成し ているのですから驚きです。

[図2] 6月4日の木星展開図
日中に撮像された赤外画像から作成。赤外光での木星面のため、赤い大赤斑などは明るく、青みのあるEZの模様などは暗く写っていることに注意。撮像・作成:マノス・カルダシス氏(ギリシャ、28cm)

展開図で見ると、北赤道縞(NEB)から赤道帯(EZ)にかけて大きな濃淡がいくつも 見られます。ベルト北部から不規則に淡化しつつある状況を反映していると思わ れ、EZの大きな暗部は赤外光で観測しているためでしょう。可視光で観測される 木星面と大きな違いはありませんが、II=60〜100°で北温帯縞(NTB)が北側に大 きく垂れ下がっているような構造が見られます。NTB北組織(NTBn)の青黒い暗部 が悪条件下でそのような見え方をしたのかもしれませんが、ちょっと気になる模 様です。

[図3] 2012-13シーズンの木星面
撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、吉田智之氏(栃木県、30cm)、山崎明宏氏(東京都、31cm)、大田聡氏(沖縄県、30cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)

前号へ INDEXへ 次号へ