天文ガイド 惑星の近況 2013年9月号 (No.162)
堀川邦昭
今年は各地で記録的に早い梅雨明けとなり、すでに夏本番となっています。7月9 日に留を過ぎたばかりの土星は、日没後の南天に見られますが、赤緯が低く、夜 半前には高度を失ってしまうので、徐々に観測条件が悪くなっています。

木星は6月19日の合を過ぎて、日の出前の北東天に姿を現すようになりました。 新しい観測シーズンが始まっています。

ここでは6月後半から7月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中 の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

土星

北極地方の六角形パターンは、観測条件の低下に従ってシャープさが落ちてきま したが、まだ明瞭に見えています。周囲の領域は一段と明るくなり、赤みを帯び ているのがよくわかります。

低緯度地方に目を向けると、赤道帯(EZ)がクリーム色で最も明るく、赤みの強い 北赤道縞(NEB)が明瞭です。その北側の北熱帯(NTrZ)から北温帯縞(NTB)にかけて は、相変わらず緑灰色の薄暗い領域ですが、5月頃と比べると見え方が少し変化 しているようです。以前は領域全体が薄暗く、微妙な濃淡が見られるだけでした が、最近はNTBに相当する北半分が幅広いベルトのように濃度を増しており、赤 いSEBとの境界部分が少し明るく見えるようになっています。将来はこの明部が 幅を広げて、明るいNTrZが復活するのかもしれません。

環は地球から見た中央緯度であるB(環の傾きに一致)と、太陽から見た場合のB' との差異が大きくなったため、A環の外側の土星本体に落ちる環の影が幅広くな って、目立っています。間もなく東矩となりますので、太陽−土星−地球の位相 角が最大に近づいており、土星面の左右で影の幅が非対称になっているのがよく わかります。

[図1] 7月の土星面
北極の六角形が明瞭。NTBに相当する部分が濃度を増し、赤いSEBとの間がやや明るくなった。撮像:山崎明宏氏(東京都、31cm)、阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)

木星


★木星面の近況

2013-14シーズンの最初の観測は、7月8日に永長英夫氏(兵庫県)によって行われ ました。永長氏は9、10日と16日にも観測を行っており、合から明けたばかりの 木星面について貴重な情報を提供してくれています。今のところ、国内で観測を 行ったのは永長氏だけです。

永長氏の画像を一見したところでは、南赤道縞(SEB)と北赤道縞(NEB)が太く明瞭 で、木星面は昨シーズン末とほとんど変わっていないようです。NEBは北縁の後 退が進んだようで、以前に比べると少しほっそりとして、通常の太さに戻ってい ます。ベルトの北縁は凹凸がなく、bargeや白斑も確認できないのはちょっと意 外な感じですが、これから観測条件が良くなると、検出されるようになるかもし れません。また、南縁からは赤道帯(EZ)に向かって、青みの強いフェストゥーン (festoon)が数多く見られます。

大赤斑(GRS)は、10日の画像で左端に見られます。詳しい様子はわかりませんが、 輪郭不明瞭ながら赤みがあります。大赤斑後方のSEBは40°くらいに渡って淡く 二条に分離しています。post-GRS disturbanceと呼ばれる白雲の活動領域で、以 前と比べると少し長くなったように思われます。

16日の画像では永続白斑BAが確認できます。南温帯縞(STB)の暗部に挟まれた薄 暗い白斑で、赤みが感じられます。BA後方にはSTBの長い暗部が続いていますが、 前方にも短い暗部が見られます。後方の暗部がBAを越えて前方に漏れ出したもの で、3月頃の状況と変わっていません。

北半球に目を移すと、北温帯縞(NTB)が顕著です。昨シーズンは南部の赤みが強 かったのですが、現在はベルト全体が灰色で赤みは失われています。NTB南部は 淡化してしまったのかもしれません。NTBの北側には昨シーズン見られなかった 薄暗い縞が出現しています。淡化していた北北温帯縞(NNTB)が予想通り復活した ようです。

[図2] 今シーズンの木星面
左端に大赤斑があり、後方のSEBは白雲活動により二条に分離している。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

★南南温帯縞の白斑の名称について

南南温帯縞(SSTB)には、直径5°前後の丸い小白斑が多数見られます。これらは 大赤斑や永続白斑BAと同じ、左回りの高気圧性の循環を持つ渦で、 AWO(Anticyclonic White Ovals)と呼ばれます。近年の観測から、これらは比較 的長期間に渡って永続していることがわかっており、現在見られるいくつかの白 斑は、少なくとも15年、おそらく20年以上存続していると思われます。ここ数年 は9個のAWOが同定されており、このページでは、白斑の呼称をBAAに合わせてA0、 A1、A3〜A9としてきました。

右図はこの10年間のAWOの運動を詳細に調べたドリフトチャートです。AWOはかな り速いスピードで前進しますので、体系IIに対して-0.95°/日で移動する特殊経 度で作成してあります。当初のA1〜A5の5個の白斑に、後から形成された白斑が 加わって現在の9個の構成になったことがわかります。現在の名称は、元々のA2 が2010年頃に消失し、A8とA0の間にA9が出現したという解釈に基づいているので すが、図を見る限り、9個の継続性については、疑いを差し挟む余地がないよう です。

そのため、今後、このページでは、A9、A0、A1の3個の白斑の名称を修正し、A0、 A1、A2と呼ぶことにします。右図の経度は昨年の衝(12/3)の体系IIに一致するの で、それぞれがどの白斑に該当するか、画像で確認してみてください。

[図3] 南南温帯縞のAWOのドリフトチャート
体系IIに対して-0.95°/日で前進する特殊経度で作成。月惑星研究会の観測より

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