天文ガイド 惑星の近況 2014年4月号 (No.169)
堀川邦昭、安達誠

宵の南天を見上げると、天頂近くに逆行中の木星が輝いています。すぐ下に見える冬の大 三角と合わせると、大きな十字を描いていて「冬十字」と呼びたくなります。おとめ座ス ピカの近くにある火星は、夜半に東南東の空に昇ります。4月の最接近を控え、いよいよ 観測好機の到来です。土星は火星の隣のてんびん座を順行中ですが、高度が低く条件に恵 まれないため、観測は低調です。

ここでは1月後半から2月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

当観測期間の木星面は概ね安定しており、大きな変化はありませんでした。大赤斑(GRS) は相変わらず鮮やかなオレンジ色をしています。経度はII=208°で、じわじわと後退を続 けています。大赤斑との会合が続く南赤道縞(SEB)内部の薄茶色をした明部は、大赤斑に 近い後半分が痩せて細くなり、2月中旬にはかなり目立たなくなってしまいました。一方、 前端側は明るくなって白斑の姿が甦ると共に、1月中頃以降は大赤斑からゆっくり遠ざか りつつあります。そのため、全体としては会合以前の様相に近くなってきました。

[図1] SEBの明部と大赤斑
SEB明部は中央部分が痩せて不明瞭になった。大赤斑前方にはSTB Ghostが薄暗く見えている。撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)

大赤斑後方に見られるSEBの活動領域(post-GRS disturbance)はすっかり衰えてしまい、 小ぶりな白斑が数個見られるのみで、高解像度の画像で見ても、白雲の乱れ方は小さくな っています。この領域の活動は周期的な消長を繰り返すので、今回の変化もその一部と思 われます。その他の経度のSEBは、青黒い中央組織を挟んで南部が暗茶色で、北部は微細 な白斑を無数に含んで青みが強いという特徴があり、ちょうど10年前のSEBとよく似てい ます。SEBが長期に渡って濃化している間には、mid-SEB outbreakと呼ばれる激しい白雲 活動が数ヶ月から数年おきに発生します。1990年代末から2000年代前半にも度々観測され ました。2010年の南赤道縞攪乱(SEB Disturbance)によってSEBが濃化してから3年以上経 過しましたので、mid-SEB outbreakの発生に注意を払う時期に来ていると思われます。

[図2] 永続白斑BA付近
BAがリング状に見られる。前方のSTBnは左側で暗斑群に分解している。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

永続白斑BAはII=326°にあり、暗い縁取りで囲まれ内部が薄暗いリングとして見られます。 後方には南温帯縞(STB)の暗部が続いていますが、長さは40°と、少しずつ短くなってい ます。これはBAのところで暗部が崩壊し、STB北組織(STBn)のジェットストリーム暗斑と して放出されているためと考えられます。ただし1月以降、暗部のさらに後方で、STB南組 織(STBs)に沿って細長い組織が新たに形成され始めているので、全体としてSTB暗部が伸 長するかもしれません。

細くなった北赤道縞(NEB)は、北縁が乱れてギザギザしており、内部には小規模なリフト 活動が散見されます。ベルト北縁には青黒い暗部とそこから赤道帯(EZ)に伸びるフェス トゥーン(festoon)が多数見られます。EZは以前に比べて明るくなり、赤道紐(EB)は淡く 目立たなくなっています。

北熱帯(NTrZ)の長命な斑点であるWSZは、淡いピンク色で可視光では微かですが、メタン バンドでは相変わらず明るく顕著です。WSZの北の北北温帯(NNTZ)には、昨シーズン、メ タンブライトな赤色斑点として注目されたLRSが見られます。こちらもメタンバンドでは 明るい白斑ですが、可視光では赤みが薄れてしまいました。

火星

火星は視直径が9秒になりました。小さかったときと比べると約2倍になり、眼視でも模様 の確認が可能な大きさになりました。

[図3] 北極冠周辺の白雲
北極冠の左横に白雲が広がっている。撮像:セバスチャン・ルカジク氏(オーストラリア、30cm)

火星面では、今月も雲の活動が活発に観測されました。これまで活動的だった北極冠周辺 の白雲や山岳雲の活動に加えて、南極地方に雲の活動が見られるようになりました。北極 冠周辺の雲は、極冠の縮小にともなう冷気の噴き出しによる白雲が観測されています。

[図4] タルシスとオリンピアの山岳雲
中央の白雲がオリンピア山。左側がタルシスの成層火山にかかる雲。撮像:ジョン・カザナス氏(オーストラリア、32cm)

山岳雲は顕著に見られ、眼視観測でも見ることができます。タルシス(90W, +5)付近、オ リンピア山(135W, +25)、エリシウム(215W, +23)などが記録されています。これらの雲は、 午前半球では明るくなく、午後半球になると発達し明るくなってきます。とくにオリンピ ア山は日没直前には非常に明るくなり、欠け際方向に白雲によると思われる影のような暗 部が見られるようになっています。

その他の地域では、観測報告を見るとヘラス(295W, -50)の東側にあるエリダニア(210W, -45)やヘスペリア(235W, -25)がオレンジ色に観測されています。また、ヘラス(295W, -50)にも明るい雲が目立つようになってきています。暗色模様やダストストームに関して は、大きな変化は見られませんでした。

土星

当観測期間はオーストラリアのトレバー・バリー氏(Trevor Barry)が精力的な観測を行っ ています。

まず目につくのは大きく開いた環で、土星本体がほぼすっぽりと収まって見えます。北極 の六角形パターンは今年も健在で、その外側の領域が強く赤みを帯びているのが印象的で す。

赤道帯(EZ)がクリーム色に明るく見え、北赤道縞(NEB)の南半分が茶色のベルトとして見 える他は、濁った薄緑色をした縞と赤みのある縞が交互に並んでいて、ベルトの名称を判 断できなくなっています。

[図5] 大きく環が開いた土星
北極の六角形パターンがはっきりと見られる。撮像:トレバー・バリー氏(オーストラリア、40cm)

前号へ INDEXへ 次号へ