天文ガイド 惑星の近況 2014年5月号 (No.170)
堀川邦昭、安達誠

2月は各地で記録的な大雪に見舞われましたが、3月に入ると急に春めいてきました。夜空 では、おとめ座のスピカの隣で0等級の輝きを放っている火星がまもなく最接近を迎えま す。木星は夕暮れの南天高く見られます。土星は火星の東隣に見られますが、観測は相変 わらず低調です。

ここでは2月後半から3月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

大赤斑(GRS)との会合が続いていた南赤道縞(SEB)内部の薄茶色をした明部(SEB light patch)は、動きを反転させて、大赤斑から遠ざかりつつあります。東西に長く伸びた形を していましたが、前部が分離して再び白斑に戻っています。3月は長径が10°以上もある 長方形のような形の大きな白斑として観測されています。前進速度は1日当たり0.3°で、 すでに大赤斑から30°も離れてしまいました。

[図1] SEBの明部の動きと様相の変化
左のドリフトチャートは月惑星研究会の画像から筆者測定。A〜Gの符号は右の画像に対応する。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)、小澤徳仁郎氏(東京都、32cm)、永長英夫氏(兵庫県、30c)、阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)、柚木健吉氏(大阪府、26cm)、米山誠一氏(神奈川県、25cm)

昨年9月に大赤斑との会合が始まった時には、そのまま大赤斑に吸い込まれてしまうと思 われましたが、今年に入ると意外にも前進運動に転じました。SEBの南と北には逆向きの ジェットストリームが流れており、内部はわずかな緯度の違いでも大きな速度差が見られ ますので、今回の動きも緯度の変化が原因と思われますが、画像から検出することはでき ませんでした。

過去に例のない模様と思われていましたが、古い観測を調べたところ、1997年に同じよう な明部が観測されていました。当時の筆者のコメントに「白斑とは言い難いような崩れた 形状」とあります。この年の明部はひとつではなく、複数観測されていますが、残念なが らどのような動きをしていたかはわかっていません。

今後、明部がこのまま大赤斑から離れて行くのか、再び後退に転じるのか、予想がつきま せん。薄ぼんやりしてつかみどころのない見え方と相まって、本当にミステリアスな明部 です。

[図2] 大赤斑周辺の状況
大赤斑の前部に沿ってSTBnの暗斑由来の暗条が取り巻いている。北半球にはNTD-2の活動的な明部が見られる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

大赤斑はII=210°近くに達しています。赤みが強く顕著で、衰える気配は見られません。 後方のSEBの活動領域(post-GRS disturbance)は、2月に一時的に活発化しましたが、すぐ に静まってしまいました。その南側の南温帯縞(STB)北組織にはジェットストリーム暗斑 が密集しており、II=310°付近にある永続白斑BAまで続いています。一方、大赤斑前方で は暗斑群が崩れ、大赤斑に巻きつくようにカーブした小暗部になっているのが印象的です。

今月、海外ではII=50°付近の北温帯(NTZ)に出現した小暗斑が天体の衝突痕ではないかと 話題になりましたが、大気現象で生じた高気圧的な渦であることが判明しています。

火星

火星の視直径は3月1日で12秒台となりました。Lsは100°を越え、北半球の夏至を少し過 ぎたところです。

北極冠はかなり小さくなり、規模の大きな寒気の噴き出しは見られなくなっています。し かし、火星面の各地には山岳雲や、低位緯度地方の氷晶雲など、雲の活動が盛んに見られ るようになりました。

[図3] クリセ・クサンテ地方
中央を斜めに横切る白雲の帯が見える。撮像:ザビエル・デュポン氏(フランス、18cm)

図3はクリセ(33W, +10)・クサンテ(52W, +13)が中央に位置していますが、このあたりは この時期、毎回このような姿を示します。左端のターミネーターに重なるように見える雲 があるため、斜めのベルト状に見えました。低緯度地方には、雲の帯が広がっています。

[図4] ヘラス盆地にかかる雲
北極冠よりも明るく大きく見える。撮像:ドナルド・パーカー氏(米国、40cm)

ヘラス盆地には極冠と見まがうような大きく白い雲が広がって、大変目立っています (図4)。画像では、すっかり小さくなった北極冠と、南(上)のヘラス盆地にできた大きな 白雲が記録されています。また、中央のシルチスに氷晶雲と思われる、白雲のベールが覆 っている姿が良くわかります。ターミネーターに見える白雲はエリシウム高原にかかる白 雲で、山岳雲のひとつです。

[図5] タルシス地方の山岳雲
中央左の2個の白点が山岳雲。撮像:クリストフ・ペリエ氏(フランス、25cm)

図5の中央右に斜めに並んだ2つの白雲はタルシスの成層火山にできた山岳雲です。南極地 方には雲のベールの広がっている様子が記録されています。これからは、南極地方の白雲 の活動にも注意をはらう必要があります。

2012年に火星の南半球で見られた高高度まで立ち上がった正体不明の雲はLsでいうと82〜 96°で起こっています。ヘラスの東にあるエリダニア付近がリムにあるときに多くが見つ かっているたるため、注目したいものです。

当観測期間は、国内では好条件での観測がほとんどなく、海外からの観測に頼りましたが、 これからは春の良い気流での観測が望まれます。

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