天文ガイド 惑星の近況 2014年12月号 (No.177)
堀川邦昭

木星が明け方の東天に高く昇るようになりました。日の出時の高度は60°に達します。木 星面の詳細な状況がわかるようになってきましたが、10月前半は2つの台風が来襲し、国 内の観測は振るいませんでした。

一方、火星と土星は、日没後の南西天にわずかに見られるのみとなり、国内の観測はなく なってしまいました。今期の観測シーズンは終了です。

ここでは9月後半から10月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時 は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

II=218°にある大赤斑(GRS)は、相変わらずオレンジ色で目立っています。シーズン初め に出現した暗部やストリーク(dark streak)の影響はほとんど見られません。9月初めから、 大赤斑の南を永続白斑BAが通過中です。9月末に大赤斑のちょうど南に到達したのですが、 その少し前から、前方に南温帯縞(STB)の北組織(STBn)が伸び始めました。STBnの前端は、 10月8日の時点でII=150°に達していますので、1日当たり約2.5°の割合で成長している ことになります。これは、STBnのジェットストリームに近いスピードです。

[図1] 大赤斑とBAの会合
BA前方に濃いSTBnが伸びている。大赤斑前方のストリークはほとんど消失。撮像:菅野清一氏(山形県、30cm)

大赤斑の後方では、南赤道縞(SEB)が大きく盛り上がって、大赤斑を包み込むように見え ていますが、8月〜9月初めに顕著だったアーチと前方に伸びるストリークは、STBnの発達 と同時に淡化を始めました。ストリークは、大赤斑と接続する部分が淡化すると、暗部の 供給を断たれたかのように急速に衰退することが多いのですが、今回も同じ経過をたどっ ているようで、II=40°にあるSTBの青みを帯びた領域(STB Ghost)からII=140°までの100° の区間では、まだ淡く残っているものの、STBnの濃化部分では完全に消失してしまい、大 赤斑前端に小暗斑と短いストリークが残るのみとなっています。

昔からSTBと南熱帯(STrZ)の濃度は補償関係にあることが知られていて、STrZに暗部が出 現すると、隣接するSTBが淡化する現象が、1980年代を中心にしばしば観測され、南熱帯 のディスロケーション(STr. dislocation)と呼ばれていました。今回は、STBnの濃化がト リガーとなって、STrZのストリークが淡化したので、上記とは逆の順番になっています。 過去には、ちょっと記憶がありません。

大赤斑前方にあるSEBの明部(SEBZ light patch)は、長さが30°もある東西に長い長方形 の領域になっています。内部は薄茶色で、中央をSEBの細い組織が横切っています。相変 わらず、不思議な様相です。経度はII=140〜170°と、ほとんど変わっていませんが、わ ずかに前進しているようです。

[図2] SEBの明部
東西に長い四角形の領域に発達。中央を細い組織が横切っている。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)

南南温帯縞(SSTB)内部の高気圧的白斑AWOは、今シーズンも10個存在していることが確認 できました。昨シーズンに新たに加わったA7aは、最も小さく不明瞭です。まもなく、大 赤斑の南を通過しますが、消失してしまうかもしれません。今シーズンのSSTBは、A5とA6 にはさまれたII=40〜140°の間で、中央部が明化して大きく二条に分離しています。その 他のAWOの間でも、白斑のように明るく見える箇所がいくつかあり、AWOよりも大きく明る く見えるものもあります。これらはAWOとは異なる低気圧的な領域で、AWOよりもわずかに 北に位置するのが特徴です。

[図3] 10月の木星面展開図
10月6日〜8日の観測から作成。大赤斑前方の領域に話題の模様が集中している。撮像・作成:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

北熱帯(NTrZ)の長命な白斑WSZは、II=40°付近に見られます。うっすらと赤みがあります が、赤化が話題になった昨シーズンよりはかなり明るく、また前後のNEBが北に膨らんで いて、北縁に大きな湾を形成していますので、判別は容易です。NEBは他の経度でも北に 膨らんで太くなっているところがあります。NEBは4〜5年周期でベルトの幅が変化するこ とが知られています。今回の変化もこの周期的変化によるものと思いたくなりますが、前 回、拡幅現象が起こったのは2012年で、まだ2年しか経っていませんし、これまでの拡幅 現象に比べると活発な印象を受けません。一時的な変化なのか、しばらく様子を見る必要 がありそうです。

さらに北側の領域では、北温帯縞(NTB)の淡化が進行しています。すでに南組織(NTBs)は ほぼ消失していますが、北組織(NTBn)もその北にある北北温帯縞(NNTB)よりも、かなり淡 くなってきました。NTBnとNNTBの間の狭い北温帯(NTZ)は、II=0〜150°の範囲では明るく 見えていますが、残る半周以上は薄暗く、特にII=280°前後ではNTBnとNNTBが融合して大 きな暗部を形成しています。おそらく、昨シーズン見られた北温帯攪乱(NT Disturbance) が残っているのでしょう。なお、NTBnはII=200°付近から後方では徐々に緯度が高くなっ て、II=0°付近でNNTBに連続しているように見えます。木星面では、ベルトが極側に傾い て、一周回るうちに隣のベルトとつながって見えることがしばしばあり、月惑星研究会で は「床屋の看板構造」などと呼んでいます。

[図4] NTBn〜NNTBの暗部
NTBn(左矢印)が北へ傾き下がり、NNTB(右矢印)に連続しているように見える。撮像:堀内直氏(京都府、30cm)

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