天文ガイド 惑星の近況 2015年1月号 (No.178)
堀川邦昭、安達誠

木星は、まもなく西矩を迎えます。夜半から明け方にかけての観測は、辛いものがありま すが、朝が日増しに遅くなって行くので、観測時間はたっぷり確保できます。

火星はいて座に進み、日没後の南西低く見られます。土星はもうすぐ合となるので、観測 はしばらくお休みです

ここでは10月後半から11月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時 は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

大赤斑(GRS)周辺で、新たな活動が観測されています。10月10日頃から、大赤斑の南側に アーチが再び発達し、大赤斑前方に流れ出して、南熱帯(STrZ)に暗部が形成されました。 この暗部は永続白斑BAの前方に伸びる南温帯縞(STB)北組織と一体となって、大赤斑から 分離し、10月末には、STrZ南部を覆う長さ30°の不規則な暗部となりました。11月の暗部 は前方に拡散しつつありますが、STrZには大きな暗斑がいくつも残っていて、ゾーン全体 が薄茶色になっています。

大赤斑を囲むアーチは、当初かなり顕著でしたが、暗部が大赤斑から離れると急速に衰え てしまいました。ただし、赤斑湾(RS bay)後端部の大きな盛り上がりは残り、11月に入る と再びアーチが形成される気配があります。今後も、同じような活動を間欠的に繰り返す と思われます。

RS bay後端部がトリガーとなるこのような活動は、南赤道縞(SEB)南縁を流れる後退ジェ ットストリームが原因と思われます。1980年代や2000年にも同様の活動がありましたが、 当時は何がなんだかわからない現象という印象でした。現在は、高解像度の画像がたくさ ん得られるようになってますので、何か新しい事実が解明されるのではないかと期待され ます。

[図2] 大赤斑周辺の暗部の発達
撮像:菅野清一氏(山形県、30cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、大田聡氏(沖縄県、30cm)、熊森照明氏(大阪府、28cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、41cm)

BAが大赤斑の南を通過して、前方に出ました。白斑本体は薄茶色に濁っていますが、周囲 を暗い縁取りで囲まれて、よく目立っています。BAの後方の大赤斑の南側では、STBと南 南温帯縞(SSTB)が一体となって、幅広いベルトを形成していますが、真のSTBは20〜30° のみで、その後方はSTB南組織が細くII=300°付近まで伸びています。先月のレポートで 取り上げた、BA前方のSTB北組織の濃化部は、暗斑群に分解しながらジェットストリーム に乗って前進中で、先端はII=20°付近にあるSTB Ghostに達しようとしています。

現在、大赤斑の南側のSSTBには多数の白斑が見られます。これらは左回りの循環を持つ高 気圧的白斑AWOです。BAの南に見られる先頭のAWOはA7aで、後方にA8、A0、A1、A2と続い ており、全周で10個見られます。BAの南には、他よりもひと回り大きな白斑がありますが、 これは右回りの循環を持つ低気圧的白斑(CWO)で、AWOよりも少しだけ北寄りです。A7aと 間違えそうですが、CWOのすぐ左上に見られる小白斑が本物のA7aなので、注意してくださ い。なお、II=350°付近にあるA4から後方では、約120°に渡ってSSTB中央部が明化し、 ベルトが二条になっています。

SEBは濃く幅広いベルトで、南縁を中心に活動的ですが、大赤斑後方の活動領域(post-GRS disturbance)は、異常なほど不活発で、明るい白斑はひとつあるかないかという状態です。

2012年に出現し、紆余曲折を経ながら大きく成長してきた大赤斑前方のSEBの明部(light patch)は、II=135〜165°と以前とほとんど同じ位置にありますが、10月下旬から急速に 衰え始めています。10月半ばに大赤斑前方のSEB北部が一時的に明るくなり、前進して明 部の北側を通過すると、明部は南北にやせ細って目立たなくなってしまいました。両者の 間は濃い中央組織で隔てられていたのですが、何らかの相互作用があったのかもしれませ ん。

[図1] やせ細ったSEBの明部
SEB北部に乱れた明帯が広がり、元々あった明部を圧迫している。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)

北赤道縞(NEB)は、あちこちでリフト活動が見られますが、大規模なものはありません。 南縁には青黒い大小の暗部が全周で10ヵ所前後あり、そこから赤道帯(EZ)に向かってフェ ストゥーン(festoon)が伸びています。一方、II=30°のNEB北縁には長命な白斑WSZがあり ます。BAと同じように、内部が薄茶色に濁っていますが、NEB北縁にはっきりとした湾を 作っています。相変わらず前進運動を続けていますが、ドリフトは1日当たり-0.25°で、 先シーズンの約半分に減速してしまいました。WSZの周辺では、NEBが北に膨らんで太くな っています。他の経度でも幅広いところがあり、新たな拡幅活動かと疑いたくなります。

火星

来年の合までだいぶありますが、季節は冬に近づいている上に、視直径は約5秒と、観測 は極めて困難になっています。今期の火星は事実上終わりで、観測はしばらくお休みとな ります。

11月中旬のLsは230°と、北半球では秋分から冬至の中間になっています。注目された南 極冠は火星像の南の端に位置し、はっきりとした姿はなかなか捉えにくい状態です。9月 26日には、オーストラリアのバリー(Trevor Barry)氏が、南極冠らしい明るい姿を捉えて います(図1)。これまでの観測でも南極冠かなと思われる姿は見られましたが、あまりに も観測条件が悪く、どのような状態なのか、まったくつかめませんでした。

一方、北極地方は、小さくなってきたはずの南極冠とは対照的に、広く白雲に覆われてい る様子が観測されるようになりました。

Lsが230°ということは、南半球では春分から夏至にあたり、大規模なダストストームの 発生しやすい季節に入ったことを示しています。おりしも、10月8日(Ls=210°)にオース トラリアのバリー(Trevor Barry)氏が、シルチスの東にダストストームのような明部を記 録しました。その後、10月15日ごろに南アウソニア付近が広くダストに覆われている様子 が観測され、その後、エリダニア方面に拡散しているのが記録されています。観測数が少 なく、詳細は分かりません。しかし、このダストストームは、今シーズンたくさん発生し た小規模なダストストームとは違い、比較的規模の大きなものになりました。地球からは 観測条件は悪くなりましたが、今、火星はまさに活動的な季節に入ってきました。

[図3] 南極冠と北極を覆う白雲
撮像:トレバー・バリー氏(オーストラリア、40p)

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