天文ガイド 惑星の近況 2015年6月号 (No.183)
堀川邦昭

春の天候は変わりやすく、3月後半は好天が続きましたが、4月は一転して曇りや雨の日が 多くなっています。木星は4月8日かに座の東端付近で留となり、逆行から順行に転じまし た。一方、土星は5月の衝に向けて、アンタレスの右上、さそり座βのそばを逆行中です。

ここでは3月後半から4月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

先月号で紹介した大赤斑後方の南赤道縞(SEB)南縁に出現した暗斑は、周囲と異なる黒っ ぽい色調で、南熱帯(STrZ)に突出していたため大変よく目立つ模様でしたが、27日に形が 崩れると、まもなく消失してしまいました。SEB南縁を後退するリング暗斑が大赤斑と会 合した後に後方で再凝集した模様で、一時はメタンブライトな模様になったので、2008年 に観測された小赤斑(LRS)のように、STrZをバックして大赤斑の南縁を這い上がるのでは ないかと期待されたましたが、結局SEB南縁のジェットストリームに壊されてしまったよ うです。

[図1] SEB南縁の暗斑の発達と消失
左) 赤斑湾(RS Bay)を回り込んだ後、後方で一時的にメタンブライトになった。
右) 25日までは顕著だったが、27日以降、急に崩れて消失してしまった、撮像:ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、41cm)、アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、33cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、クリストフ・ペリエ氏(フランス、25cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、岩政隆一氏(神奈川県、35cm)、大田聡氏(沖縄県、30cm)

大赤斑は周囲の暗い模様が消失してしまったので、再び大変顕著になっています。赤みが 非常に強いものの、輪郭は以前に比べると少し乱れています。SEB南縁の暗斑が度々大赤 斑と会合している影響かもしれません。経度はII=224°でほとんど変化していません。

不活発な状態が続いていた大赤斑後方の白雲の活動領域(post-GRS disturbance)は、4月 に再び活発になり、長さ40°ほどの活動域が復活しました。これに伴って不明瞭だった SEB北部も濃度を取り戻しています。一方、大赤斑前方のSEBはベルト北部が淡く、南部で もII=160°前後に残るSEB明部(light patch)が再び明るくなり、前後に薄明るい明帯が伸 びています。

今や北熱帯(NTrZ)の「ぬし」のような存在となった感のあるWSZはII=355°にあり、周囲 のNTrZよりも明るい白斑として、北赤道縞(NEB)北縁に大きな湾入を形成しています。WSZ の後方では約90°に渡ってNEBが幅広くなっていて、ベルト内部のリフト活動により大き く二条に分離しています。3月末、II=120°付近でNEB北縁から大きな暗部がNTrZに向かっ て発達するのが捉えられました。BAAのRogers氏は、後述するように、この模様が新たな 拡幅現象の始まりではないかと述べています。その他の経度でもNEB北縁はかなり乱れて います。

[図2] WSZとNEBのリフト
WSZが大きな白斑として見られ、後方のNEBにはリフト領域が発達している。撮像:堀内直氏(京都府、30cm)

[図3] NEBの拡幅現象の始まり
II=120°付近にある2つの突起が3月末から発達を始めた。撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、大田聡氏(沖縄県、30cm)、クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

今後3年間の木星予報

BAAのRogers氏が2015〜2017年に起こる木星の諸現象の予想を試みています。筆者の予測 とも概ね一致していますので、ここで紹介することにします。

北温帯縞(NTB) - 2017年前半に木星面最速であるNTBsのジェットストリームのアウトブレ ーク(outbreak)が起こり、NTBが濃化復活する。NTBは5年サイクルの活動が続いています。 前回は2012年で、最近はNTBが淡化消失して準備が整ったと考えられます。

北赤道縞(NEB) - 新たなベルトの拡幅現象が今始まったところと思われる。来年にはベル ト北縁に白斑やバージが形成されるだろう。NEBは1988年以来、3〜5年のサイクルで活動 していて、前回の拡幅は2012年でした。3月31日にII=120°付近に出現した2つの大きな暗 部によって、新たな拡幅が始まったと思われます。

南赤道縞(SEB) - 現在の活動レベルがずっと続くだろう。SEBの淡化やSEB攪乱 (SEB Disturbance)はしばらく起こりそうもない。近年のSEBは長期間の活動の後、淡化と 復活が3〜4年の間隔で2回起こるパターンが続いています。最近では2007年と2010年に起 こってしまいましたし、NEBとSEBの活動は重ならない傾向があるので、今後しばらくはな いと思われます。

南温帯縞(STB) - BA後端にあるSTBの断片は縮小して不活発なバージとなり、STB Ghostが 2017年頃にBAに追いつくまでは何も起こらないだろう。BAは今年1月に大きく減速しまし た。これは後方のSTBの暗部が縮小したことが原因と考えられます。現在、STB GhostはBA の160°後方にありますが、過去に観測されたドリフトを適用すると2016年10月〜2018年 10月の間にBAに衝突し、激しい活動が見られると思われます。

土星

土星面の詳細な状況がようやくわかるようになってきました。フィリピンのゴー氏 (Christopher Go)から高解像度の画像が報告されています。

北極の六角形は明瞭で、先月書いたように周囲の領域は緑色になっています。中緯度もま だ薄暗く緑色が支配的ですが、赤みのある北温帯縞(NTB)がはっきり分離できるようにな っています。

[図4] 今月の土星
撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

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