天文ガイド 惑星の近況 2015年7月号 (No.184)
堀川邦昭

木星は5月10日に東矩となりました。日没後の南天では、西から高度を上げた金星が木星 にどんどん近づいています。5月23日に衝を控える土星は、さそり座を逆行中で観測の好 機を迎えています。しかし、高度は南中時でも35°しかありませんので、観測数は伸び悩 んでいます。

ここでは4月後半から5月前半にかけての惑星面についてまとめます。この記事中の日時は、 すべて世界時(UT)となっています。

木星

大赤斑(GRS)は相変わらずオレンジ色が鮮やかです。周囲から暗い模様がなくなったため、 大変目立つようになりました。南赤道縞(SEB)南縁の後退ジェットストリームに乗って、 時々大きな暗斑が赤斑湾(RS Bay)に流れ込んできますが、大赤斑自体は輪郭が少し乱れる 程度で、ほとんど影響ありません。経度はII=226°で、少し後退しました。

今シーズンのSEBは明るい所が目立っていますが、4月初めから大赤斑前方でベルト北部が 数十度に渡って著しく明るくなりました。眼視では北縁が消失して、ベルトの幅が3分の2 になってしまったかのようです。明化した領域は体系IIに対して1日当たり-3.5°で前進 していて、後端部分には明瞭な白斑が見られました。現在はII=310〜25°に位置していま す。

[図1] 明化したSEB北部
SEB北部が明化してベルトが細く見える。撮像:小澤徳仁郎氏(東京都、35cm)

永続白斑BAはII=120°付近にあり、周囲を暗く縁取られた白斑として見られます。内部は 薄茶色に濁っていて今ひとつ明るくないのですが、高解像度の画像では中心に白い核があ り、ドーナツのような形状です。BA後方にある南温帯縞(STB)の暗部は、短縮してBAより も小さな暗斑になってしまいました。2013年3月にBAに衝突した時は70°の長さがありま したので、短縮量は1日当たり0.9°とかなり大きな数字です。近年のSTBは、暗部形成→ BA衝突→短縮→消失というサイクルを繰り返していますが、後の世代ほど短縮スピードが 大きい傾向にあります。暗部が崩壊する過程では、BA前方のSTB北組織(STBn)と後方の南 組織(STBs)に暗斑群やストリーク(dark streak)を大量に放出していて、現在もまだ名残 が見られます。

南南温帯縞(SSTB)に見られる高気圧的小白斑(AWO)は、昨年10月頃には10個の白斑が3つの クラスターに分かれて分布していました。その後、動きの遅いA6/A7に後方のグループが 追いついて来た上に、A7とA7aの間に新しくA7bが形成されたため、11個のAWOが木星面の 3分の2の経度範囲に集まり、さらに接近しつつあります。最も離れているA5とA6の間の SSTBは、大きく分離した南組織が南に拡散して異様に幅広くなり、北赤道縞(NEB)に匹敵 する太さとなっています。

[図3] SSTBに見られる小白斑(AWO)の分布の変化
A6を基準として各白斑までの距離がわかるようにしてある。7ヶ月の間に全体で約30°も間隔が詰まった。永長英夫氏の全面展開図から筆者作成。

先月号で新たな拡幅現象が始まったと書いた北赤道縞(NEB)ですが、II=120°付近の活動 は収まってしまいました。NEBの北縁は起伏に富んで、ベルトの幅は場所によってかなり 違っているため、全体として拡幅が進んでいるのかどうかよくわかりません。しかし、3 つの分枝がシステマチックな活動を見せるSEB攪乱(SEB Disturbance)とは異なり、同時多 発的に進行するのがNEB拡幅の特徴なので、今後も活動を注視する必要があります。

大赤斑の北の北温帯(NTZ)には、顕著なバージ(barge)が観測されてきました。明るい領域 に孤立した模様として大変目立っていましたが、4月半ばに急に淡化・消失してしまいま した。これと入れ替わるように、約40°後方の北温帯縞北組織(NTBn)の暗部前端に小さな 暗斑が出現しました。この暗斑は同じ緯度にあるバージやNTBnの暗部とは異なり、前進運 動をしています。現在、II=150°に達しており、前進速度-1.8°/dayとかなり高速で、北 温帯流-Bという帯流に属します。北温帯流-Bが観測されるのは大変珍しく、今回は2003年 以来、12年ぶりの出現となります。

[図2] バージの消失と前進する小暗斑
NTZのバージ(▲)の消失と北温帯流-Bに乗って前進する小暗斑(▼)の出現。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)、マノス・カルダシス氏(ギリシャ、28cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、永長英夫氏(兵庫県、30cm)、吉田智之氏(栃木県、30cm)、ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、41cm)

土星

今シーズンの土星面は、北極の六角形パターンを取り囲む領域が昨シーズンとは一転して 緑色をしているのが目に付きますが、もうひとつの特徴として、不明瞭だった中緯度のベ ルト構造が回復し、北温帯縞(NTB)が赤みを帯びたベルトとして明瞭に見られるようにな っています。最も赤道よりの北赤道縞(NEB)も同じ色調をしており、その中間には濃い緑 色の細い縞が見られます。これは北熱帯(NTrZ)の一部と思われます。NTrZが南北両側から 本来の明るさと色調に戻りつつあるため、中央部が取り残されて暗く見えていると思われ ます。

衝が近づいて、毎シーズン恒例となっている環の衝効果(ハイリゲンシャイン現象、また はSeeliger Effectとも呼ばれます)が始まっているようです。これは衝前後になると太陽 光が当たるのと同じ方向から環を見ることになるため、環を構成する氷粒子が作る影が見 えなくなることで起こります。4月の画像で見ると、B環の明るさは本体の赤道帯(EZ)より も低かったのですが、5月はEZと同等かB環の方が少し明るくなっています。今シーズンは 環が大きく開いているため、衝効果も大きくなると予想されます。

[図4] 衝が近づいた土星
撮像:熊森照明氏(大阪府、28cm)

前号へ INDEXへ 次号へ