天文ガイド 惑星の近況 2015年8月号 (No.185)
堀川邦昭

夕暮れの西天では木星と6月7日に東方最大離角を迎えた金星が並び、日に日に両者の間隔が狭まっています。 7月1日にはわずか24分まで近づくので、この号が発売される頃には、見事な眺めになっていると思われます。

土星は5月23日にさそり座とてんびん座の境界付近で衝となりました。 5月後半から観測数もようやく増えてきました。 木星が沈んだ後の観測対象として、望遠鏡が向けられるようになったようです。

ここでは5月後半から6月前半にかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

木星面は今月も大きな変化は見られませんでした。 大赤斑(GRS)は少し後退してII=228°にあり、オレンジ色が鮮やかです。 その他の領域も概ね穏やかな状況が続いていています。

先月号で書いた南赤道縞(SEB)北部の著しい明化領域は、木星面を周回して大赤斑付近に戻ってきました。 前後端は拡散して位置を特定できなくなりましたが、大赤斑周辺のSEB北縁はかなり淡く見えます。 その他の経度でも、SEBが細く見えることはないものの、ベルト北縁は概ね淡いようです。 大赤斑後方のSEB南部には定常的な活動領域(post-GRS disturbance)が40-50°に渡って続いていますが、乱れ方は小さく、明るい白斑も少ないようです。

北赤道縞(NEB)では拡幅現象が進行中です。 II=333°にある長命な白斑WSZの後方と、大赤斑前方のII=180°前後の領域で特に幅広くなっていて、中間の領域も前後から徐々に埋められてきているようです。 高解像度の画像で見ると、拡幅したベルトのさらに北側、北緯20.5°に沿って細い組織が形成されています。 最終的にこのラインが拡幅したNEBの北縁になると予想されます。 一方、大赤斑からWSZの間は、NEB北縁が淡くなって逆にベルトが細くなっているように見えます。 NEB拡幅のプロセスはなかなか複雑なようです。

[図1] 拡幅したNEB
白斑WSZ(▲)の後方でNEBが幅広くなっている。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

永続白斑BAはII=103°に前進しました。 暗い縁取りのある白斑でそれ自体に変化はありませんが、後方に伸びていた南温帯縞(STB)の断片はすっかり短縮して、BAよりもひと回り小さい暗斑となってしまいました。 以前は、その後方にもSTB南縁に沿って暗斑や暗部が続いていてかなり混沌としていましたが、現在ではほとんど消失し、BA後方は驚くほどすっきりとしてしまいました。

[図2] BA周辺の変化
3月はBA後方に暗い模様が続いているが、5月はSTBの暗部が短縮した暗斑のみとなっている。▲の位置に新しい暗斑が見られる。撮像:上) 柚木健吉氏(大阪府、26cm)、下) クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

BAの約40°前方、II=65°にちょっと気になる暗斑があります。 昨年12月初めに、当時激しく活動していた大赤斑後端部の循環気流(Circulating Current)から派生した南熱帯(STrZ)のストリーク(dark streak)と、STB北組織(STBn)との相互作用から生成されたもので、しだいに目立つようになってきました。 BAや他のSTBの模様は南温帯流(S. Temperate Current)という帯流に乗って、体系IIに対して前進運動をしていますが、BAのドリフトはその中で最も遅いので、STBの模様に対する障壁となっています。 STBの暗部は暗斑として形成された後、発達しながらBAに追いつき衝突、その後、徐々に崩壊して短縮・消失というサイクルを繰り返しています。 ひとつの暗部の寿命は10年くらいのようです。 現在、BA後方で暗斑となってしまったSTBの暗部は2000年を基準とすると第4世代、II=280°にあるSTB Ghostと呼ばれる青いフィラメント状の暗部は第5世代に当たります。 今回、BA前方に出現した暗斑は第6世代のSTBになる可能性がありますので、今後注目して行きたいと思います。

[図3] STBの活動サイクル
STB暗部の形成から消失までを模式化した。暗部は数年おきに出現し、寿命は10年程度。このような活動が20年ほど続いている。

土星

2010年の大規模な白雲活動以来、土星面では白斑や暗斑などの出現がめっきり少なくなっていましたが、久しぶりに追跡可能な模様が出現しました。

北北温帯縞(NNTB)と思われるベルトの北側、北緯64°に4月以降、暗斑が捉えられています。 この緯度は、北極から広がる緑色の領域の外縁部に当たり、暗斑も同系色をしているため、可視光では大変わかりづらいのですが、暗斑周囲は緑色が薄れているため、赤〜赤外の画像では比較的鮮明に見られます。 ただし、観測条件のより厳しい国内では5月24日の熊森氏の画像でかすかに認められるのみで、追跡はもっぱら海外の高解像度の画像に頼らざるを得ませんでした。 暗斑の経度は6月12日でIII=276°で、体系IIIに対して1日当たり-11.3°という超高速で前進しています。 風速に換算すると67m/sとなります。 土星面では北緯60〜70°に100m/sを超えるジェットストリームがありますので、暗斑はこのジェットストリームの影響を受けていると思われます。

NNTBの暗斑の他にも高解像度の画像で見ると、赤道帯(EZ)の白雲に軽い乱れが見られたり、北赤道縞(NEB)内部に泡粒のような小白斑がいくつも散在するなど、土星大気が活発になっているような印象を受けます。

当観測期間の環は、衝効果(ハイリゲンシャイン現象、またはSeeliger Effect)によってどの画像を見てもとても明るくなっています。 衝効果の継続期間は通常、衝の前後1〜2ヶ月なので、そろそろ終わりを迎えるものと思われます。

[図4] NNTBの暗斑
▼の位置に暗斑が見られる。赤外画像。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

[図5] NNTBの暗斑のドリフトチャート
経度は体系III。月惑星研究会の観測より筆者作成。

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