天文ガイド 惑星の近況 2017年3月号 (No.204)

堀川邦昭、安達誠


木星が1月9日にスピカの北で西矩となりました。 日の出前には南中するのですが、季節柄シーイングが悪く、木星面の詳細を捉えるには厳しい状況が続いています。 火星はみずがめ座をすごいスピードで通過中です。

ここでは12月半ばから1月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

暮れも押し詰まった12月29日、大赤斑(GRS)前方の南赤道縞(SEB)で白雲の活動が始まりました。 警戒されていたmid-SEB outbreakの発生です。 mid-SEB outbreakは、SEBが長期間濃化安定な時期に起こる突発的な白雲活動で、大赤斑後方の乱れた領域(post-GRS disturbance)とは別の現象として区別されています。 今回の発生は、2008年4月以来、8年8ヵ月ぶりで、2010年のSEB攪乱(SEB Disturbance)以降では、初めてとなります。 このページでは、この数年「mid-SEB outbreakの発生に注意」とたびたび書いてきましたので、ようやくといった感じがします。

今シーズン、大赤斑の前方にはボーッとした明部が2つ並んでいました。 outbreakは、体系II=207°にある前方の明部から発生しました。 明部からの白雲活動なので、発生のタイミングがつかみにくいのですが、前後の画像で確認すると、28日は2つとも同じような明るさをしているものの、29日は前方のものが明らかに明るくなっています。 そのため、outbreakの発生は29日と考えて間違いないようです。

31日になると、うねった白雲が前方北側に流れ出し、outbreakは発達を始めました。 1月4日以降、発生源では後続の白斑が次々に出現して、乱れた白雲による活動域が形成されています。 最初の明部は前方へ広がって拡散消失しつつありますが、outbreakの活動域は、14日の時点で約30°の広がりになっています。 今後、数ヵ月に渡って活動が続き、発生源から前方に向かって乱れた白雲領域が伸びて行くと思われます。 これは筆者の印象ですが、最近のmid-SEB outbreakの活動は昔に比べておとなしくなったように感じます。 1980年代のoutbreakは、大きな白斑が10cmクラスの望遠鏡でも見え、荒々しい感じがしました。 木星面の活動も長い間には、少しずつ変わっていくのかもしれません。

[図1] 大赤斑とmid-SEB outbreak
大赤斑が顕著。中央に永続白斑BAが「暗斑」として見られる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)
[図2] mid-SEB outbreakの発達
▼は最初に発生したの白斑と流れ出した白雲の先端を示す。

北温帯縞南縁(NTBs)のoutbreakで濃く幅広いベルトとして復活したNTBは、南部が鮮やかなオレンジ色、北部は青灰色と色の違いが際立っています。 南隣の北熱帯(NTrZ)はとても薄暗く、青黒い暗部や形のはっきりしない明部で満たされていて、outbreakの影響がまだ続いていることをうかがわせています。 II=180°には白斑WSZがありますが、灰色の暗部に囲まれた矮小な白斑に衰えてしまっています。 WSZは2007年と2012年のoutbreakでも、かなり衰えた後に復活しているので、今回も同様の経過をたどると思われます。

南南温帯縞(SSTB)は全周で幅広く、概ね二条に分離しています。 11月に2つの白斑(AWO)が合体してできたA8+A0は、他のAWOとまったく変わったところがなく、合体があったことをうかがわせるものは何も見られません。 現在は、このA8+A0を含むA7からA3までの5個が、わずか15〜20°の間隔で大赤斑の前方にずらりと並んでいます。

大赤斑は鮮やかなオレンジ色で、11月頃と比べて赤みが増したように思われます。 周囲に暗色模様はありませんので、明るい南熱帯(STrZ)の中でとても目立っています。 経度はII=260°を超えました。 大赤斑は長年、ゆっくりとした後退運動を続けていますが、近年は後退速度と大赤斑固有の90日周期の振動がうまく重なって、3ヵ月ごとに数度ずつ後退しているように見えます。 大赤斑後方のSEBの活動域(post-GRS disturance)は、不活発な状況が続いています。

大赤斑の前方、II=230°には永続白斑BAがあります。 周囲が明るいため、淡いオレンジ色の「暗斑」として見られます。 BA後方に接する南温帯縞(STB)の暗斑は、12月末になって急に淡化して形が崩れてきました。 この暗斑は、2013年3月にBAに衝突したSTBの長い断片が短縮したものです。 小暗斑になってから1年以上も持ちこたえてきましたが、いよいよ消失する時がやって来たのかもしれません。

拡幅現象が昨年終わった北赤道縞(NEB)は、北縁の後退期に入っており、II=100°台はかなり細くなっています。 拡幅後のNEB北部では、バージ(barge)と呼ばれる暗斑や小白斑がたくさん現れることが多いのですが、今回はほとんど見られません。 NEB南縁にはいつものように、青黒い暗部から赤道帯(EZ)に向かってたくさんのフェストゥーン(festoon)が伸びています。 今シーズンは目立つものが増えたようです。 EZは暗化傾向にあるのかもしれません。

NTBの北を見ると、2013年から続いていた北温帯攪乱(NT disturbance)の暗部が消失し、北温帯(NTZ)は久しぶりに全周で明るいゾーンとなりました。 北北温帯縞(NNTB)は淡化が進んでいます。 II=170〜270°では連続したベルトが残り、II=300°台には長さ30°の暗部がありますが、その後方は暗斑群に分解していて、ジェットストリームに乗って1日当たり-2.8°のスピードで前進しています。

火星

火星はかなり暗くなりましたが、日没後南南東の空にまだ見えています。 先月にも書きましたが、条件が良いと模様を見ることができます。 気流にもよりますが、400倍くらいの倍率だと見やすくなります。

最近の特徴的な模様は、Hellasの北側が明るいこと、Eridaniaとその東隣のElectrisが赤っぽいことです。 IRや赤画像でこの様子がよく記録されています。 周囲の明るさと違った姿を見ることできます。

南極冠は一段と小さくなりました。 Deがかなりマイナス方向に偏っているため、観測する経度によっては極冠が火星像の中に入り込んだ姿に観測されています。 形は視直径が小さいのではっきりわかりませんが、ほぼ円形に見えるようです。

[図3] 火星像の中に入り込んだ南極冠
撮像:マーチン・ルイス氏(英国、44cm)

Lsは300°近くになり、夏至を過ぎました。 火星はまだダストストームがいつ発生してもよい状態です。 まだまだ、目を離せません。


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