天文ガイド 惑星の近況 2017年4月号 (No.205)

堀川邦昭、安達誠


木星は2月6日におとめ座で留となり、逆行に移りました。 観測の好機ですが、シーイングに恵まれない日が多いのが悩みのタネです。 夜明け前に木星が西に傾くと、東南の空に土星が昇ってくるようになりました。 今年はへびつかい座といて座を行ったり来たりですが、赤緯が低く、木星以上に条件は厳しいようです。 火星はみずがめ座からうお座へと駆け抜けて行きました。

ここでは1月半ばから2月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

昨年末に始まったmid-SEB ourbreakの活動は、1月中旬になると非常に活発になり、大きな白斑が次々に現れるようになりました。 outbreakによる活動域は1日当たり-3°の割合で前方へ広がり、現在、その先端はII=60°付近に達していて、全長は140°と、木星面の3分の1を超えています。 発生源は現在もII=208°前後で、数日置きに白斑が形成されていますが、その少し前方にも白雲の湧き出し場所があるようです。 こちらは最初II=190°台にありましたが、徐々に前進して、現在はII=180°付近に移っています。

形成された白雲は最初は小さく、数日の間、発生源付近に留まりますが、白斑が大きくなると、流れの速い赤道帯(EZ)へと向かう南赤道縞(SEB)内の速度勾配に従って前進を始めます。 白斑は東西に引き伸ばされて斜めに傾いた形に変形し、SEB北部の乱れた白雲領域に変化しているようです。 その間に元の発生源では次の白斑が形成され、活動域は長くなっていきます。 1月下旬の画像を見ると、SEB北部の活動域はかなり乱れているものの、15〜20°間隔で立ち並ぶ青黒い暗柱によって区切られています。 区切られた各々の明部は、初期に発生した白斑と明確な対応関係があるようで、例えば1月31日にII=110〜130°にある活動域先頭の長い明部を、過去にさかのぼると、1月10日頃に大きく顕著だったII=200°付近の白斑であったことがわかります。 後方に続く明部も、それぞれその後に発生した白斑に対応しています。

outbreakは今後もしばらくの間、活動を続けると思われます。 いつまで継続するかは、発生源からの白雲の供給にかかっていて、供給が途絶えると活動域は後端側から急速に短縮して、活動は終息を向かえることでしょう。

大赤斑(GRS)は相変わらず赤みが強く顕著です。 シーズン初めはやや淡く感じましたが、現在は昨シーズン並みの濃度に戻っています。 1月中順以降、大赤斑周辺に小暗斑やストリーク、後方のSEBとをつなぐブリッジなどの小規模な暗色模様が見られるようになっていますが、本体には影響はないようです、 経度はII=261°で、ほとんど変わっていません。 ゆっくりとした後退運動が、大赤斑固有の90日周期の振動運動で相殺されているようです。 90日振動の動きの向きが変わる3月になると、大赤斑は再び後退を始めると思われます。

[図1] 大赤斑と永続白斑BA
[図2] mid-SEB outbreakの発達
乱れた白雲領域がSEB北部に沿って急速に広がっていく様子がわかる。

大赤斑の後方に見られるSEBの活動領域(post-GRS disturbance)が活動的になっています。 1月初めは長さ20°と短く、明るい白斑もありませんでしたが、下旬になると、40°ほどに拡大して、明るい白斑がいくつも見られるようになっています。

北温帯縞(NTB)南縁で発生したjetstream outbreakの活動はすっかり収まり、周辺は落ち着きを取り戻しつつあります。 北熱帯(NTrZ)はまだかなり薄暗いものの、青いフィラメント状の模様はほとんど見られなくなりました。 先月号で書いたように、この領域の主要な模様であるWSZがすっかり衰えています。 現在はII=150°にある矮小な灰色の明部という見え方ですが、1月前半は行方不明でした。 まるでoutbreakの嵐に会って、まとっていた白雲を全部はぎとられてしまったかのようです。 WSZは過去のNTBs outbreakでもかなり衰退しましたが、その後に復活を遂げていますので、今回も復活すると期待しましょう。

永続白斑BAは淡いオレンジ色の「暗斑」としてII=215°に見られます。 後方の南温帯縞(STB)の暗斑(DS4)は、昨年末に消失しそうになりましたが、しぶとく持ち直して横長の暗斑となっています。 STBの青いフィラメント領域であるSTB Ghostが大赤斑後方に迫っています。 BA/DS4とその後方に続く暗斑群との距離も縮まっていますので、今後どのような変化が見られるか、注目したいものです。

火星

火星は依然として見やすい状態を保っていますが、日没が遅くなるにつれ、これからは急速に観測条件が悪くなります。 2月初めのLsは310°で、南半球は秋分に近くなってきました。 視直径は5秒になり、極冠はすっかり小さくなりましたが、それでも小さく円く記録されています。 1月18日にはダークフリンジに囲まれた南極冠の姿がとらえられました(図3)。 いつまで南極冠が確認できるかが注目されます。

[図3] ダークフリンジに囲まれた南極冠
撮像:マーチン・ルイス氏(英国、44cm)

今月は、目立った現象は起こりませんでした。 1月9日にプエルト・リコのリベラ氏(Efrain Morales Rivera)が、南極冠周囲の風によって起こる砂嵐を記録しています。 これはこの時期よく見られるものです。 東のエッジに時々明るいスポットが観測されますが、これが見えているようです。

北半球ではAcidariumには広い範囲に白雲が広がっています。 Arabiaは黄色いダストに覆われていました。

土星

今年の土星は環の傾きが最も大きくなります。 画像でも土星本体が環の中にすっぽりと収まって、カシニの空隙が外にはみ出して見えそうです。

土星本体は、クリーム色の赤道帯(EZ)が明るく、北赤道縞(NEB)も明瞭です。 中緯度には北温帯縞(NTB)と思われる幅広い縞があります。 詳細についてはもっと条件がよくなるまで、待たなければならないようです。

[図4] 環が大きく開いた土星
撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm)

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