天文ガイド 惑星の近況 2018年2月号 (No.215)

堀川邦昭、安達誠


明け方の東南天では、火星と木星が見られます。 火星はスピカのすぐそばにあり、てんびん座の木星に向かってどんどん近づいて行きます。 光度差がかなりありますが、2大惑星の接近は注目を集めるでしょう。 土星は12月21日にほぼ冬至点上で太陽と合を迎えます。 しばらく観測はお休みとなります。

ここでは11月半ばから12月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

木星は合の間にてんびん座に移り、新しい観測シーズンが始まりました。 今シーズン(2018 Apparition)の衝は来年の5月9日です。 赤緯は-15°と、昨シーズンに比べて10°も低く、地表近くの悪気流や障害物の影響を受けやすくなるのは、観測者にとって頭の痛いところです。

木星の高度が上がるにつれて、観測報告も増えてきましたが、まだ解像度が低く、木星面全体の詳細な状況をつかむには至っていません。 一方、木星探査機ジュノー(Juno)は、合直前の10月24日に9回目の近木点通過(PeriJove: PJ-9)を行いました。 ジュノーのサイトでは詳細な木星面展開図が公開されています(図1)。 ジュノーは木星を周回しているのですが、軌道が細長いため、近木点付近では木星に近すぎて、広い範囲を見ることができません。 また、離れるにつれて太陽の当たらない夜側へ回りこむため、極地方を除くと木星全体の様子を取るチャンスはほとんどないのです。 この展開図はジュノーが近木点に近づく時と離れる時に見える三日月状の木星像を積み重ねるという、とても手間のかかった労作です。 しかし、その甲斐はありました。 展開図では、2007年以来10年ぶりとなる南熱帯攪乱(South Tropical Disturbance)の発生という、とても重要な現象が捉えられています。

南熱帯攪乱は大赤斑(GRS)の後方、II=330°の南赤道縞(SEB)南縁にあり、底辺の広い平たい三角形をした暗部として見られます。 先端から湾曲した暗柱が伸び、前方の南温帯縞(STB)が乱れているので、SEB南縁の後退方向の流れがSTB北縁の前進方向の流れと結合する循環気流(Circulating Current)が形成されていることがわかります。

南熱帯攪乱のすぐ南にはSTBの青いフィラメント領域であるSTB Spectreが見られます。 昨年の7月以降、STB Spectre周辺のSEB南縁には暗部が存在し、SEB南縁や南熱帯(STrZ)を後退してくる暗斑をブロックしていました。 STB Spectreが循環気流の形成に関係していた可能性は高いように思われます。また、7〜8月に大赤斑前方に発達したSTrZのストリーク(dark streak)が伸長し、この領域に到達したことも一因かもしれません。

南熱帯攪乱は、今後40°前方にある大赤斑に向かって前進すると思われます。 大赤斑との会合が観測されれば、80年ぶりとなります。 過去の例では、攪乱の両端は大赤斑をまるでジャンプするかのように、短期間で通過してしまいました。 今回も同じ振舞いが再現されるかどうか注目しましょう。

その他の模様についても、重要な変化が見られます。 まず、昨年夏に大赤斑後部にコブのように盛り上がっていた大きな暗部が衰えて、薄暗いブリッジが残るのみとなっています。 それに伴って、大赤斑前方のSTrZは明るさを取り戻しつつあるようです。 ただし、ストリークはまだ濃く明瞭で、先端は南熱帯攪乱の後端に達しています。

昨年、注目されたmid-SEB outbreakの活動はまだ続いているようですが、活動域は縮小を続けているようで、後端はII=100°付近まで前進しています。 白雲の乱れ方も小さくなり、このまま終息に向かうものと思われます。 SEBはoutbreak以前の状態に戻りつつあり、大赤斑後方のpost-GRS disturbanceもほとんど活動していないようです。

大赤斑はII=280°にあり、相変わらずオレンジ色の楕円暗斑として見られます。 大赤斑前方の南南温帯縞(SSTB)には、A7/A8/A1/A2の4個のAWOが密集して並んでいます。 A1とA2は以前より少し離れていて、合体はまぬがれたようです。

北半球を見ると、幅広い北赤道縞(NEB)と南縁のオレンジ色が鮮やかな北温帯縞(NTB)が目立ち、北北温帯縞(NNTB)南縁に沿って暗斑群が並んでいて、昨シーズンと大きな変化はないようです。 II=45°のNEB北縁には長命な白斑WSZが見られます。 やや赤みを帯びているようです。

英国天文協会(BAA)のロジャース氏(J. Rogers)は、ジュノーの観測を基に、次のような興味深い予想を立てています。 @SEBが近い将来、淡化を始める。 outbreakが終息してSEBが静かになり、post-GRS disturbanceも不活発であることと、南熱帯攪乱の発生とSEBの淡化が重なった例があることが理由となっています。 ASTBが全周で濃化復活する。 循環気流によりSTBnのジェットストリームが乱れていることや、永続白斑BAから大赤斑までの間が小暗斑などの模様で活動的になっていることなどが指摘されています。 もし、予想通りになれば、これまで数十年続いてきた木星面の活動パターンが一変するかもしれません。

[図1] ジュノーによる木星面展開図
合で地球から観測できない時期の木星面。北が上。大赤斑の左に南熱帯攪乱が見える。https://www.missionjuno.swri.edu/Vault/VaultOutput?VaultID=12755&t=1508962497
[図2] 大赤斑と南熱帯攪乱
矢印の位置に南熱帯攪乱の暗柱が見られる。大赤斑はオレンジ色で明瞭。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)

火星

火星の観測シーズンが始まり、毎日のように観測報告が入るようになりました。 火星は夜明け前の東天にあり、高度30°程度昇ります。 視直径は4秒ほどですが、薄明中になると気流も落ち着き、模様も見えるようになってきます。 まだ北半球が地球に向いており、大接近時注目の南半球の様子は不明瞭です。

観測画像では熊森氏が高解像度の画像を得ています(図3)。 4秒という小さい火星ながら、かなり小さな模様の存在が分かる画像に驚かされました。 日本付近は気流が悪いのですが、その中でもこれだけ撮れるのは驚きです。

Ls96°(12月1日現在)で、北半球は夏至を回ったところになります。 北極冠はすっかり小さくなり、黄色くなった姿を見せています。 11月29日には南アフリカのClyde Foster氏がNPCから吹き出した小規模なダストストームを観測しています。 また、ChriseからXantheにかけては氷晶雲も記録され、火星面ではいつもの季節変化が見られます。

[図3] 赤画像による火星像
中央左の白斑はElysium Mons。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)

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