天文ガイド 惑星の近況 2018年3月号 (No.216)

堀川邦昭、安達誠


年末から年始にかけて、てんびん座αのすぐそばで木星と火星の接近が見られました。 1月7日には角距離13分まで近づき、150倍でも同視野に捉えることができました。 季節がらシーイングが悪い上に、火星はまだ小さくオレンジ色の玉といった感じでしたが、2大惑星の接近を楽しんだ観測者も多くいたことと思います。

ここでは12月半ばから1月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

大赤斑(GRS)の後方に出現した南熱帯攪乱(South Tropical Disturbance)は、前端部分が南赤道縞(SEB)南縁の大きな三角形の突起模様としてII=315°に見られます。 先端から南温帯縞(STB)に向かって逆向きのフェストゥーン(festoon)のような暗条が前方へ伸びていて、循環気流(Circulating Current)によって暗い模様が運ばれていることがわかります。 攪乱全体の長さは15〜20°ほどで変わっていません。 12月前半は後端部にも明瞭な暗柱がありましたが、現在は衰えてほとんど消失しています。 南熱帯(STrZ)のストリーク(dark streak)が少し弱まったことが原因と思われます。 攪乱は大赤斑に向かってゆっくりと前進しており、大赤斑の後端まで約20°しかありません。 注目される約80年ぶりの大赤斑との会合は、2月末〜3月になると予想されます。

大赤斑は輪郭明瞭で赤みが強く、昨シーズン終盤からの暗部による影響は見られません。 後端とSEBをつないでいたブリッジも消失し、久しぶりに楕円形の本体がスッキリ見えています。 前方へ伸びるストリークはやや淡化したものの、まだ濃く太い状態を保っています。 12月は90日周期の振動運動の後退期で、経度はII=282°から285°まで後退しました。 また、この時期特有の赤斑湾(RS bay)内部の開口部(rift)も明瞭でしたが、1月に入って後退運動がストップすると、開口部も急速に消失しつつあります。

発生から1年を迎えたmid-SEB outbreakは12月も活動が続き、年末にはII=0°前後で明瞭な白斑群の活動が見られました。 しかし、年が明けると急速に衰退が進み、outbreakの白雲は後方から失われつつあります。 現在、SEB内の明帯は大赤斑からII=20°の間で見られるのみとなっています。 明帯は南熱帯攪乱北側のII=320°付近で不連続になっているので、ここから前方はpost-GRS disturbanceの領域となっているようです。 大赤斑前方のSEBはベルト中央を青黒い組織(中央組織)が貫いていて、すっかりoutbreak発生以前の状態に戻ってしまいました。

永続白斑BAは薄茶色に濁った白斑で、II=84°にあります。 後方に接するSTBの暗斑は昨シーズンよりも淡く、形も崩れています。 そのすぐ後ろにはSTBの薄青い低気圧的な領域のひとつであるSTB Ghostが迫っていますが、淡い輪郭のみで、シーイングが悪いと存在がわかりません。 STB Ghost後端の南温帯(STZ)には横長の暗部があり、こちらの方が目立ちます。 もうひとつの低気圧的な領域のひとつであるSTB Spectreは、大赤斑の南にさしかかっていますが、こちらも淡く不明瞭です。

北半球では北赤道縞(NEB)北縁の淡化が始まっています。 淡化はII=150°周辺から後方に向かって進み、年明けには全周で北縁がやや淡くなっています。 北縁の後退に伴って、NEBの北部には暗斑群が形成され、特にII=100〜300°の区間では暗斑と白斑(明部)が交互に並ぶ、この時期特有のパターンが発達しています。 このうち、II=165°前後に並ぶ白斑は、昨シーズン形成されたWSdとWSaです。 他にもII=290°に明瞭な白斑が形成されていますし、現在は拡散して不明瞭な明部も、今後白斑に成長する可能性があります。 また、長命な白斑WSZはII=38°にあり、孤立した大きな白斑として見られます。

北温帯縞(NTB)は二条に分離しています。 徐々に淡化しているようで、II=100°台では北組織がほぼ消失しています。 北北温帯縞(NNTB)は南縁に沿ってジェット暗斑が並んでいますが、昨シーズンに比べると数が少なく、前進速度も遅いようです。

[図1] 南熱帯攪乱の変化
昨年12月(左)は前後端に暗柱が見られたが、1月(右)になると後端側の暗柱が淡くなっている。また、ひと月の間に大赤斑に接近していることもわかる。撮像:(左)永長英夫氏(兵庫県、30cm)、(右)クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)
[図2] 永続白斑BAとその周辺
中央左にBAとSTBの暗斑が見える。STB Ghostが中央にあるが、淡くわからない。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)
[図2] [図3] NEB北縁の淡化
NEB北部が淡く暗斑が並ぶ。間の白斑は中央がWSa、その左がWSd。SSTBのAWOは左からA6/A7/A8/A1/A2。撮像:アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、33cm)

火星

火星の視直径はじわじわと大きくなり、1月中には5秒台に入ります。 最も小さい時に比べると30%近く大きくなったことになります。 それにつれ、集まってくる画像からも情報量が増えてきました。 地球から見た火星の中央緯度も北緯14°になり、大接近らしく南半球が見やすくなってきました。 Lsは110°を越え、南半球は冬至を少し回っています。

北極冠は非常に小さくなり、上空が晴れると黄色くなった北極冠が見られます。 肉眼でも良条件下で黄色く見えています。 しかし、朝霧が活発に出ており、雲やもやに覆われていることが多く、はっきりした姿を見ることは難しい状況です。

一方、極冠が小さくなると、山岳雲や低緯度に東西に広がる氷晶雲が顕著になっています。 図4で、中央やや左に見える明るい白点はElysium山にかかる雲です。 右端にはSyrtisが見えていますが、強烈な朝霧と氷晶雲で水色に。Hellasにも明るい雲が見られます。 これからは、次第に南極地方が見えてきますが、この地域に出る雲の様子を見守りたいと思います。

[図4] エリシウム山にかかる雲
中央左の白斑がElysium Mons。右リムの白い雲はHellasの白雲。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

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