天文ガイド 惑星の近況 2018年4月号 (No.217)

堀川邦昭、安達誠


木星は2月6日てんびん座で西矩を迎えました。 南天低いため、日の出時には南中を過ぎてしまいます。 火星は木星を追い越してさそり座に入りました。 さらにいて座には土星があり、日の出前の東南天に顔を出すようになりました。 3大惑星の揃い踏みですが、寒さが厳しい今年はシーイングも一段と悪く、観測には苦労させられます。

ここでは1月半ばから2月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

南熱帯攪乱(South Tropical Disturbance)は、2月初めに赤斑湾(RS bay)の後端に到達し、注目される大赤斑(GRS)との会合が始まりました。 当初は2月末〜3月と予想していましたが、攪乱前端が大赤斑に引き込まれるように加速したため、ひと月近くも早くなりました。 1901年に発生した大南熱帯攪乱の例では、攪乱が大赤斑後端に到達すると、まるでジャンプしたように短期間で大赤斑前方に現れたそうです。 10日現在、大赤斑の前方に異常の兆候はありませんが、攪乱前端の暗柱と大赤斑本体との隙間は着実に狭まりつつあります。 どのような現象が見られるか注目されます。

攪乱前端が加速したのに対して、後端側のドリフトはほとんど変化していないため、攪乱全体は少し長くなって約30°になりました。 前端の暗柱はフェストゥーン(festoon)のように前方へ長く伸びて濃度もあり、とても目立っています。 後端側は淡く目立ちませんが、南熱帯(STrZ)のストリーク(dark streak)が攪乱後端に引き込まれるようにカーブしています。 攪乱内部は南赤道縞(SEB)南縁が周囲よりも南へ盛り上がって、ギザギザとした突起が見られます。 また、攪乱の前端と後端の間では、STrZのストリークは消失しています。

2月は重要な変化がもうひとつ捉えられています。 4日にII=110°の南温帯(STZ)に明るい小白斑が発生しました。 この場所はSTB Ghostの名前で知られる南温帯縞(STB)の青いフィラメント領域の後端付近で、メタンバンドでもとても明るく写っています。 STB Ghostが前方にある永続白斑とSTBの暗斑に衝突し始めたようです。

近年のSTBはほぼ全周で淡化しており、、数年に一度の割でベルトの断片が形成されます。 これらはSTBを前進し、動きの遅い永続白斑に衝突することを繰り返しています。 現在BAの後方に接している暗斑は、STB Ghostのひとつ前に形成された断片で、2013年3月に衝突した後、短縮したものです。 今回の衝突は2000年以降では4回目となります。

今後、STB Ghostは濃化してベルトの断片に変化すると思われます。 現在BAの後方にある暗斑は消失し、代わって濃化したSTB Ghostが尻尾のようにBA後方に伸びて見えるようになります。 また、衝突の結果、BAの前進速度は1日当たり-0.5°程度に加速するでしょう。 さらにしばらく後には、BA前方にジェットストリーム暗斑群が見られるようになり、新たなSTBの断片の元となる暗斑も形成されると思われます。

北半球では北赤道縞(NEB)北部の淡化が進んでいます。 II=20〜280°の区間では、ベルト北部に大きな明部と暗部が約20°間隔で交互に並んでいて、メタンバンドの画像ではさらに明瞭な波状パターンを呈しています。 拡幅時のベルト北縁が北緯20°付近に淡く残っていますが、II=150°前後ではベルトの幅の3分の2が淡くなって、暗部が島のように取り残されています。 明部と暗部のいくつかはとても明瞭で、白斑やバージ(barge)として見られますが、発達途上と思われる形のはっきりしないものも多く、位置の測定や模様の分類に悩まされます。 これらの模様は体系IIに対してほとんど静止していますので、今のところ衝突や合体は起こりそうにありません。

[図1] 大赤斑に迫る南熱帯攪乱
攪乱前端の暗柱が大赤斑に近づいて行く様子。
[図2] 南熱帯攪乱のドリフトチャート
攪乱前端が大赤斑に近づいくにつれて加速し、攪乱全体の幅が広がっているのがわかる。
[図3] STBのoutbreak
赤外画像。矢印の位置にoutbreakの白斑が見られる。左の大きな白斑は永続白斑BA。右はメタン画像。NEBに波状パターンが発達している。撮像:アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、33cm)

火星

火星は夜明け前、南東の空に地平高度30°くらいで、さそり座にあります。 視直径はほぼ6秒になり、11月のシーズン初めと比べるとかなり明るくなってきました。 これから半年かかりますが、どんどん地球に近づいていきます。 Lsは120°を越え、南半球では冬至から春分に向かっています。 また、惑理緯度(地球から見た惑星の中心緯度)が次第に赤道に近づき、南半球が見えるようになってきています。 大接近は南半球(南極冠も)の観測が注目点です。

1月10日ら2月10日の火星面で、最も目立っていたのはHellasの白雲です。 白く明るく見え、南極冠と見まがうほどです。 肉眼でもこの雲ははっきりと見えます。 画像では微妙に明るさにムラがあり、西の端に明るく小さな雲の塊がいつも観測されています(図4)。 また、火星の低緯度を東西に帯状に取り巻く氷晶雲も顕著です。 Syrtis Majorなどの暗色模様の上にかかっているときは、模様が青っぽく観測されています。 肉眼でもこの様子は観測できます。 南極冠が形成されるころになると見えなくなりますが、いつごろまで観測できるかが、興味の持たれる課題です。

Elysium MonsやTharsisの山岳雲も顕著で、気流がよいと、白く目立った雲が観測されています。

[図4] Hellasにかかる白雲
画像の上に楕円形で白く見える部分がHellasの白雲。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

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