天文ガイド 惑星の近況 2019年3月号 (No.228)

安達誠、堀川邦昭


火星は12月10日に東矩となり、日没後の南天に見られます。 明け方の東南天では、1月6日最大離角を迎えた金星の左下に木星が姿を見せるようになり、新しい観測シーズンがスタートしました。 土星は1月2日に合となり、観測はしばらくお休みです。

ここでは12月初めから1月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

火星の視直径は1月中旬には7秒を切ってしまいます。 しかし、地平高度はますます高くなるので、シーイングの影響を受けにくくなり、まだ観測の好機が続きます。

火星面は、依然としてダストストームの発生しやすい気象条件にあり、1月に入ってから大規模なダストストームが発生しています。

南極冠は非常に小さくなり、シーイングが悪いと見ることができませんが、良い条件では眼視で小さく輝く極冠が見えます。 いつまで見え続けるかが観測の一つの目標になります。 注意したいのは、消える前に極付近に霧が発生して、見えにくくなることです。 赤外画像だと、その点がはっきりするでしょう。

黒い模様の方はMare Sirenumの東の端が黒く太くなり、今までにない異様な姿になっています。 また、Solis Lacusは中央が淡化して、見えにくくなってしまいました。

問題のダストストームが、はっきりとした形状で確認できたのは1月2日のことで、マクソン氏(Paul Maxson、米国)がAurorae Sinusの上にはっきりした光斑を記録したことに始まります。 日本では、伊藤了史氏(愛知県)が最初に観測しています。

最初は足踏み状態でしたが、1月6日になって、急速に拡大し始めました。 あれよあれよという間に拡大して火星全体をおよそ1/3も覆う、大ダストストームに成長しました。 このレポートを書いている12日現在でも拡大を続けています(図1、2)。

ダストストームは発生地点から南北に分かれ、北側のスピードは遅いものの、西に流れています。 一方、北半球は急速に東西に広がって、経度にして130°にも広がってきました。

昨年の5月に発生した大ダストストームは、拡大期に5日間で150°程度広がりましたから、6日以降は、この時と同じ広がり方をしていることが分かります。 今回の大規模ダストストームは、発生初期をほぼ過ぎましたが、どのような広がり方をするか、今後の変化に目が離せません。

[図1] 発生初期のダストストーム
左下の明るく広がった部分が、ダストストーム。拡大期に入った姿。撮像:大杉忠夫氏(石川県、30cm)
[図2] 拡大したダストストーム
3日間でダストストームの広がりは2倍、面積にして4倍に拡大した。撮像:石橋力氏(神奈川県、31cm)

木星

2019シーズンの木星は、さそり座のすぐ北側、へびつかい座の足元に見られます。 赤緯はこの12年間で最南となり、東京での南中高度は32°しかありません。 地表近くの建物や樹木、電線などの障害物に悩まされそうですが、衝は6月10日なので、シーズン後半は夏場の好シーイングを期待できるかもしれません。

木星面は、概ね昨シーズン末と同じ状況にあるようです。 北赤道縞(NEB)と南赤道縞(SEB)の2本のベルトが濃く、オレンジ色の大赤斑(GRS)がとても目立っています。 特徴的なのは、黄土色に色づいた赤道帯(EZ)で、いつものシーズンとは違った印象を受けます。

大赤斑は予想したとおり、II=300°まで後退し、南側を永続白斑BAが通過して前方へ抜けています。 昨年のBAは薄茶色に濁った白斑でしたが、現在は色がなくなり、白く明るい白斑になっていることを水元氏が指摘しています(図3)。 興味深い変化です。 BA後方には長い南温帯縞(STB)のセグメントが伸びていましたが、現在は長さ40°くらいに短くなっているようです。 すでに淡化が始まっているのかもしれません。

大赤斑後方のSEBはベルト北部が広範囲に淡化して細く見えます。 昨年と比べても、後方へと拡大したようです。 南組織(SEBs)は濃く太く、南縁に沿って突起(projection)や暗斑が見られますので、今後の変化が注目されます。

[図3] 大赤斑と永続白斑BA
大赤斑はオレンジ色で顕著。BAは明るくなり、後方のSTBは淡化し始めている。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30p)
[図4] SEB北部の淡化
大赤斑後方のSEBは、北半分が著しく淡くなっている。薄暗いEZにも注目。撮像:ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、50cm)

金星

金星は月と同じように満ち欠けをする惑星として人気があります。 表面は厚い雲で覆われているので、可視光で見ると明るいだけで、模様はほとんど見ることができませんが、紫外光(UV)では薄暗いすじが東西方向に走っていて、変化を追跡することができます(図5)。

JAXAのペラルタ博士からの情報によると、1月12日、金星の夜側に雲の不連続面がハワイの赤外望遠鏡(IRTF)で観測されたとのことです。 この不連続面は金星の昼側に向かって移動しているそうなので、アマチュアの観測でも捉えることができるかもしれません。

[図5] 紫外光による金星
東西方向に暗い模様が見られる。撮像:ジョン・ブードロー氏(米国、37cm)

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