天文ガイド 惑星の近況 2019年4月号 (No.229)

安達誠、堀川邦昭


火星は天の赤道を越えて、うお座に入りました。 日没後の南天に見え、高度は50°に達しています。 視直径は6秒台まで小さくなりましたが、観測報告はまだたくさん寄せられています。 明け方の木星も徐々に高度を上げ、金星を追い越しました。

ここでは1月の惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

火星

先月号で発生を報告したダストストームは非常に大きくなり、火星の40%近くにまで広がる大ダストストームに発展しました。 ちょうど日本からよく見える位置(日本以外では見えない、あるいは見えにくい)であるため、たくさんの報告があり、追跡できました。

ダストストームは1月2日に米国のマクソン氏(Paul Maxson)によって捉えられました。 発生当初はそれほど広がらなかったものの、1月5日になって急速に広がり始めました。

1月7日には非常に著しくなり、濃いダストストームの西側に、大規模ダストストーム特有の暗部が出現しました。 これは黒い模様ではなく、輝度差によるいたずらだと思われます(図1)。 1月11日には、西経320°から115°付近まで広がっています(図2)。 一部は北半球にも広がり、どちらの半球も東方向に広がっています。 北半球は、残念ながら視直径が小さいこと、砂漠とダストストームの区別がつきにくいことが相まって、分布は正確につかめていません。

一方、Hellasの大盆地にも1月8日に局部的なダストストームが発生しました。 ここに発生するダストストームの多くは、短期間で衰えることが多いのですが、1月17日には、盆地全体に広がっている姿が見られました。 その後、さらに東に広がっていますが、西から広がってきた前述のものの延長か、それともHellasに新たにできたものかは、その部分の観測がなく、今のところ分からない状況です。

南極冠は、眼視では見えなくなりましたが、よい画像ではまだ非常に小さく写っています。 時々、極冠付近に白雲(霧)が広がっている様子が記録されています。 一方、北極はフードが広がってきていますが、緯度が低いので、詳しい様子はまだわかりません。

月惑星研究会に未報告の火星画像があれば、送っていただけるとダストストームを追跡する上でとても助かります。

[図1] ダストストームと暗部
中央の縦長のベルトがAurorae Sinusの西の暗部。大ダストストーム発生時によく見られる。撮像:井上修氏(大阪府、28cm)
[図2] ダストストームの拡大状況
1月11日時点のダストストームの分布状況。薄暗いところがダストに覆われた地域。315°付近は観測がなくわからない。北半球も同じ経度付近まで達していると思われる。

木星

今シーズンの木星面で目立つのは、薄茶色に濁った赤道帯(EZ)です。 昨年の後半から目立つようになり、今年はさらに色が濃くなったようです。 特に北部(EZn)で濃く、眼視でも薄茶色をしているのがわかります。 EZの着色現象は数年〜十数年おきに起こり、今回は2012年以来、6年ぶりとなります。

図4は茨城県の阿久津富夫氏が撮像・作成した、紫外光(UV)とメタンバンド(CH4)による昨年と今年の木星の比較です。 UV画像でEZがベルトのように真っ暗になっているのがわかります。

木星の雲の上空にはヘイズ(霞)の層があります。 ヘイズ層は青や紫といった短い波長の光をよく吸収し、ベルト上空では厚く、ゾーン上空では薄く分布しています。 木星のベルトが赤茶色に見えるのはそのためです。 一方、明暗が雲の高低を反映しているメタンバンド画像ではあまり変化が見られません。 そのため、EZが暗いのは雲ではなく、ヘイズの層が変化したためと解釈できます。

EZの着色現象は、しだいにEZ南部(EZs)へと広がっていくでしょう。 また、色調も濃くなると共に灰色に変化すると思われます。

大赤斑(GRS)は相変わらずオレンジ色が鮮やかです。 合の間に永続白斑BAが南側を通過しました。 昨年のBAは薄茶色に濁ったリング白斑でしたが、現在は内部が白く明るくなっています。 昨年、BAの後方に発達した長い南温帯縞(STB)は、早くも淡化して短い断片となってしまいました。

大赤斑後方では、南赤道縞(SEB)北部が広範囲に淡化して幅広い南赤道縞帯(SEBZ)が見られます。 淡化は昨年後半に始まり、徐々に進んでいるようです。 その一方、SEB南部(SEBs)は濃く厚くなって、ジェットストリーム暗斑も活動も見られます。 SEBは淡化と濃化の兆候が同時に見られる、とても不思議な状態になっています。

[図3] 大赤斑周辺の状況
大赤斑左上のBAが明るく、後方のSTBは淡化しつつある。SEB北部は淡く、幅広いSEBZが伸びる。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35p)
[図4] 紫外光とメタンバンドによる木星面
紫外光とメタンバンドでちょうど1年違いの木星面を比較している。紫外光でEZがとても暗いことに注目。撮像・作成:阿久津富夫氏(茨城県、40cm)

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