天文ガイド 惑星の近況 2019年9月号 (No.234)

堀川邦昭


6月10日の木星に続いて、土星が7月9日にいて座で衝を迎えました。 ともに観測の好機となっていますが、梅雨の悪天続きで観測できる日が少なく、ストレスがたまります。

ここでは6月中旬から7月半ばまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

5月に起こった激しいフレーク活動は、大赤斑(GRS)の大幅な縮小など、大きな影響を残しました。 6月もフレーク活動が散発的に続いていますが、大規模なものはなく、小康状態となっています。 しかし、大赤斑前方の南赤道縞(SEB)南縁には、大きなリング暗斑がまだ数個あるので、再び大規模なフレークが発生する可能性はあります。

大赤斑の長径は回復傾向にあり、7月は13°前後まで戻ってきました。 また、メタン画像で大赤斑の長径を測ってみたところ、5月後半からの急激な縮小や6月後半からの回復は、可視光とまったく同じ傾向を示していました。 大赤斑の縮小は、大赤斑本体の高高度な雲にまで及んでいたようです。

大赤斑は90日周期の振動運動の後退期に入り、7月上旬の経度はII=313°になりました。 6月は前方の南熱帯紐(STrB)に、南に向かってスパイク状の突起が並んでいるのが目を引きました。 大赤斑後方にあるSEBの活動域(post-GRS disturbance)から、白雲が小渦となって準循環気流の暗柱を外側からはい上がり、大赤斑前方でスパイクを形成していたようです。 ちょうど大赤斑の南側を、南温帯縞(STB)の低気圧的領域であるSTB Spectre(可視光では見えませんが、メタン画像で確認できます)が通過中なので、準循環気流の流路がせまくなって、流れが不安定になっていたのかもしれません。

このレポートを執筆中の7月12日、STrBが大赤斑の前端から切り離されるという大きな変化がありました。 準循環気流からの流れが途絶えると、STrBは急速に淡化する可能性があります。 詳しい状況は次号でお伝えします。

南南温帯縞(SSTB)の高気圧的小白斑(AWO)は、昨年とは分布が変わり、A1/A2/A3、A4/A5、A5a/A7/A8の3グループに再編されています。 大赤斑の南を通過中のA7とA8の間には、東西に長い暗部があり、とても目立っています。

永続白斑BAはII=193°にあり、明るく大きな白斑として見えています。 BAから大赤斑までの領域は、STrBの南北とも乱れて薄暗く、変化も激しいようです。

赤道帯(EZ)は薄茶色の着色した状態が続いており、色調に大きな変化はありません。

北赤道縞(NEB)の北縁はかなり起伏があります。 大赤斑の北側のII=304°には長命な白斑WSZがあり、NEB北縁に大きな湾入を伴った北熱帯(NTrZ)の白斑として見えています。 II=135°と185°にも同じような白斑があり、昨年のWSaとWSbに対応しています。 また、II=120°にも白斑が見られます。

北温帯縞北組織(NTBn)と北北温帯縞(NNTB)は淡く、II=70°前後にある北温帯攪乱(NT disturbance)も衰えてきました。 この緯度ではII=100°のNNTBにある長さ20°の大きな暗部が目立っています。

[図1] 大赤斑から分離したSTrB
分離前後のSTrBの様子。わずか2日で大赤斑から完全に切り離されてしまった。撮像:上) ミカエル・ウォン氏(オーストラリア、30cm)、下) 熊森照明氏(大阪府、30cm)
[図2] 永続白斑BAとその周辺
BAは暗い縁取りのある明るい白斑。後方はSTBの断片やSTrBで薄暗い領域が大赤斑まで続いている。撮像:大杉忠夫氏(石川県、30cm)
[図3] 7月の木星面展開図
大赤斑前方に濃いSTrBが伸び、スパイク状の突起も見られる。明るい永続白斑BAと大赤斑の間はかなり活動的。赤いフレークの活動は小康状態。SEB南縁にはリング暗斑や突起が多い。月惑星研究会の画像から筆者作成。

土星

土星面はとても静かです。 明るい赤道帯(EZ)と北赤道縞(NEB)と北赤道縞(NTB)が濃いベルトとして目立っています。 時々、小白斑が捉えられていますが、小さくコントラストも低いため、追跡できたものはありません。

環は衝効果(ハイリゲンシャイン現象)で、B環がとても明るくなっています。 また、最近はカシニの空隙を通して土星の南極地方が青く見えています。 環の陰になる南極地方は本来暗いのですが、衝の時期は、環の平面に対する地球の角度(B)と太陽の角度(B')が近くなるため、カシニの空隙を通して日が差し込んだところが見えるという衝の時期特有の現象です。

[図4] 衝直前の土星
衝効果によりB環がとても明るい。カシニの空隙から南極地方が青く見える。撮像:熊森照明氏(大阪府、30cm)

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