天文ガイド 惑星の近況 2019年10月号 (No.235)

堀川邦昭


長かった梅雨がようやく明け、夜空では木星と土星が並んで輝いています。 夏の日没直後の観測は、望遠鏡が日中の高温で暖められているので、観測者はそれぞれに筒内気流を減らす工夫をしているようです。

ここでは7月中旬から8月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

4月から活動を続けていた準循環気流が消失しました。 7月上旬、特徴的な形の大赤斑後部の暗部が後方に傾き始め、一週間ほどでブリッジ(bridge)と呼ばれるなだらかなスロープへと変化しました。 ジェットストリームが正常に戻り、大赤斑後部を回る流れがなくなったことを示しています。 そのため、大赤斑前方に伸びるSTrBは、暗物質の供給が途絶え急速に淡化し始めました。 8月になると、STrBは大赤斑の直前ではほぼ消失、後述する南熱帯(STrZ)の暗斑と永続白斑BAの間ではとても淡くなっています。 BAの前方ではまだ濃く太い上体で残っていますが、いずれ淡化すると思われます。 今回の準循環気流は4月上旬からちょうど3ヶ月の活動で、この現象としては標準的な長さでした。 過去に形成されたSTrBは概ね灰色をしていましたが、今回は大赤斑のフレーク活動の影響で、赤茶色になったのが特徴と言えるでしょう。

大赤斑のフレーク活動は、原因となるSEB南縁の後退暗斑がほとんどなくなったため、6月以降は小康状態が続いています。 準循環気流の暗部もなくなったため、大赤斑周辺は明るくなり、久しぶりにすっきりとした見え方になっています。 経度はII=313°で停滞していて、後退運動は止まったようです。 長径は13°台で回復傾向にあります。 小さくなった時より約1°大きくなりましたが、フレーク前と比べるとまだ1°小さいという状況です。

7月中旬、大赤斑前方でSEB南縁を後退する2個のリング暗斑が興味深い動きをしました。 これらは新たなフレーク活動を起こすのではと期待されていたのですが、先行の暗斑(a)が大赤斑の直前で減速して停滞、追いついてきた後続の暗斑(b)に乗り上げて、STrBに沿って逆向きに前進を始めました。 暗斑aはまもなく消失しましたが、暗斑bも同様にUターンし前進に転じました。 8月初めの暗斑bは、II=280°付近のSTrB上にあり、1日当たり-0.9°のスピードで前進しています。 2つの暗斑の動きは、南熱帯攪乱(S. Tropical Disturbance)の発生プロセスによく似ています。 今回は他に続く暗斑がなかったため、攪乱形成に至らなかったのかもしれません。

現在、大赤斑の南をSTB Spectreと呼ばれる低気圧的循環領域が通過中です。 可視光では相変わらず白いのですが、メタン画像では暗い(メタンダーク)という特徴があります。 1日当たり-0.65°という、この緯度では最も速いスピードで前進しているため、BA後方に伸びるSTB tailに追いついて圧迫し始めています。 そのため、一時は淡化・消失しつつあったSTB tailが再び濃いベルトとして見えるようになりました。 また、STB tail上の白斑が、STB Spectreが接近すると引き寄せられるかのように減速・停滞し、追いついた後は急加速して一緒に前進するという、とても興味深い動きが見られました。

大赤斑前方のSEBでは、濃い中央組織がII=120°付近まで伸びていましたが、7月中旬以降、II=200°付近で中央組織が40〜50°に渡って淡化しベルト内部が明るくなっています。 SEBの淡化が進んでいるように見えますが、南組織はとても活動的で大量の暗斑群が存在するという、矛盾した状態が続いています。

[図1] すっきりとした大赤斑周辺
準循環気流の活動が終わり、アーチやSTrBなどの暗色模様が消失して、大赤斑は久しぶりにすっきりとした見え方になった。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)
[図2] 永続白斑BAと淡化したSEB
中央組織が広範囲に淡化して、SEB内部は明るくなる一方、南縁は暗斑が並んで活動的。BAが明るく目立つ。撮像:鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)
[図3] 大赤斑周辺の変化
準循環気流の盛り上がった暗部がなだらかなスロープに変化し、大赤斑前方のSTrBが淡化した。同時にSEB南縁の2個のリング暗斑(a, b)が大赤斑の直前でUターンし、STrBに沿って前進する様子。

土星

今年の土星の赤緯は-22°前後で木星とほぼ同じですが、土星は表面輝度が低い分、撮像条件は厳しいようで、どの観測者も苦労しているようです。

土星面はとても静かで、白斑などの模様の報告はありません。 環は衝効果(ハイリゲンシャイン現象)により、7月中はとても明るくなっていましたが、徐々に普段の状態に戻りつつあります。

今シーズンの土星は、本体と環の短径がほぼ同じサイズになっています。 6月初めは環の縁が本体に隠されていましたが、7月は北極の外側にはっきりと環を認めることができます。 環の傾きがほんの少し大きくなった(+0.6°)ことに加えて、衝効果でA環も明るくなったためと思われます。

[図4] 穏やかな土星面
土星面はとても静かで、白斑や暗斑などの模様は認められない。撮像:皆川伸也氏(東京都、24cm)

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