天文ガイド 惑星の近況 2020年9月号 (No.246)

堀川邦昭、安達誠


いよいよ観測本番を迎える火星は、6月14日に西矩となり、みずがめ座からうお座に移りました。 まもなく衝を迎える木星と土星は、いて座とやぎ座の西縁を逆行中で、明るい星の少ない領域でとても目立っています。

ここでは7月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

5月末にメタン白斑が出現した大赤斑(GRS)前方の南温帯縞(STB)では、白斑が消失した後、暗斑が形成されました。 後方にあるもうひとつの暗斑と同種の模様で、6月は2つの暗斑が大赤斑をはさむように並んでいました。 先月号でも述べたように、これらの暗斑はSTBの低気圧的閉区間の前後端にあり、高解像度の画像では、閉区間の輪郭が認めることができます。 7月初めには、後方の暗斑が大赤斑の南を通過し始めたので、今後の変化に期待しましょう。

大赤斑はオレンジ色が鮮やかです。 経度はII=336°で、再びじわじわと後退を始めています。 前方には5月のフレーク活動によって形成された、長さ30〜40°のストリーク(streak)が伸びています。 6月はSEB南縁を後退するリング暗斑が少なく、目立ったフレークは見られませんでした。 大赤斑の長径は平均で13.3°と小さめで推移しています。 昨年、大規模なフレーク活動による急激な縮小の後、一旦は回復しましたが、再び縮小傾向を示しています。

北赤道縞(NEB)の拡幅は着々と進行しています。 6月は大赤斑北側のNEBも幅広くなり、拡幅区間は木星面の半周を超えました。 組織だった活動は見られませんが、ベルト内部の激しいリフト活動と相まって、NEBはどこを見ても複雑な様相を呈しています。 残るII=200°付近にあるWSZから大赤斑までの領域でも、じわじわと北縁が拡大しているように見えます。

南赤道縞(SEB)は、濃く活動的な南部に対して、北半分は薄茶色に淡化して静かという、対照的な状況が昨年から続いています。 南縁には数多くの暗斑や突起が見られますが、昨年のようなジェットストリームに乗って高速で後退するものはわずかです。 SEB南縁の緯度が少し高くなり、所々で南縁が大きく盛り上がっています。

[図1] 大赤斑前方の暗斑
大赤斑をはさむ2つの暗斑の間は、STBの低気圧的閉区間と考えられ、輪郭が淡く見える。カリスト本体が経過中。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)
[図2] NEB拡幅主要部
NEBはリフト活動と拡幅が重なってとても複雑な様相になっている。イオの影が経過中。撮像:伊藤了史氏(愛知県、25cm)

火星

火星の南半球は、夏至が近づいています。 視直径は11秒を超え、眼視でも模様がよく見えるようになりました。

火星はダストストームの季節を迎えています。 果たして6月22日に大規模なダストストームが発生しました。 形状から見てその前日の可能性もありますが、残念ながら21日の観測はありませんでした。 23日になると、ダストストームははっきりした光斑になりました(図3)。 今回は日本からよく見える経度で発生したため、国内の観測が多く、初期の活動を詳しく記録することができました。

発生源のオーロラ湾付近は、6月2日以降、小規模の活動でかなりダスティーな状態でした。 発生直前は普段よりもかなり濃い状態で、大気の温度変化が今回のダストストーム発生の引き金になったと思われます(図4)。

7月1日現在、有名なアリンの爪(メリディアニ)は、非常に淡くなっています。 主に北半球を中心に拡散中ですが、今後の進展によって見え方は大きく変わるでしょう。

南極冠は大きくひときわ目立ちます。 次第に昇華して小さくなってきており、楕円形ではなくいびつになっています。 周縁部には輝点(地形による影響)がたくさん見られ、内部は暗くはげたように見える部分も多くなり、複雑な姿です。 時折、上空にダストのベールが広がり、黄色く見えることもあります。

大きな衝突盆地であるヘラスは、以前は輪郭がはっきりしていました。 しかし、2018年以降、砂漠の砂が周辺に飛ばされ、付近一帯が明るくなっており、いまだに輪郭がはっきりしません。 これから先、どのような見え方になるのか、注目していきたいと思います。

[図3] ダストストームの発生
矢印の先にある3つの光斑が西側のダストストーム。実際にはこの東にもう1グループある。撮像:栗栖茂氏(香川県、35cm)
[図4] 前兆となるダストの活動
火星谷の東側いっぱいにダストが入り込んで、眉のような形に見える(2018年以来)。撮像:ダミアン・ピーチ氏(英国、35cm)

土星

5月末に暗い北極領域の南縁、III=53°に出現した白斑は、6月を通して追跡されました。 体系IIIに対して1日当たり-11°という高速で前進を続けて、25日にはIII=115°に達しています。 7月初めには土星面を一周してしまったと思われます。 このスピードは、一昨年に同じ緯度で起こった大規模な白雲活動で観測されたのとほぼ同じです。

その他の土星面は穏やかです。 赤道帯(EZ)が最も明るく、ベルトでは北赤道縞(NEB)南部と北温帯縞(NTB)が目立ち、北極域のオレンジ色も変わりません。

[図5] 土星の白斑
▼の先に白斑が見られる。撮像:撮像:エクレイド・アゼベド氏(ブラジル、30cm)

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