天文ガイド 惑星の近況 2020年8月号 (No.245)

堀川邦昭、安達誠


夜半過ぎの空には木星と土星が並んで輝いています。 木星は5月14日、土星は11日にいて座で留となり、逆行に転じました。 火星はみずがめ座にあり、まだ夜明け前の東天にいます。 木星や土星とはずいぶん離れてしまいました。

ここでは6月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

木星面では北赤道縞(NEB)の拡幅活動が続いています。 II=70〜180°の区間では、ベルトが北へ広がって幅広くなっていて、ベルト内部には拡幅時特有の大きな明部が2つ見られます。 また、北緯21°に新しくできたNEB北縁は、この区間前方にストリーク状に伸びて、先端は大赤斑(GRS)の北あたりに達していますので、拡幅の活動は木星面の半周以上に及んでいることになります。 5月は主要部分の拡大が鈍ったように見えましたが、拡幅のきっかけとなったリフト(rift)領域が木星面をひと回りして、再びこの領域にかかり始めています。 拡幅活動の第2ラウンドに注目しましょう。

大赤斑は濃いオレンジ色で、前後にブリッジ(bridge)や小暗部を伴っています。 経度はII=333°で停滞中です。 5月もフレーク活動が数回あり、特に21〜24日にはメタンブライトな赤いひげ状のフレークが発生し、後方の南赤道縞南組織(SEBs)へと拡散していく様子が観測されました。 SEBsの後退暗斑が、5月前半に数個赤斑湾(RS bay)に進入した影響と思われます。 昨年の今頃のような大規模なフレーク活動にならなかったのは、SEBsのジェットストリームが大赤斑後部を回ってUターンする準循環気流がなく、暗斑との相互作用があまり大きくならないためかもしれません。

大赤斑の後方、II=351°に目立つ暗斑があります。 5月号で書いた南温帯縞(STB)の新しい暗斑です。 5月後半、大赤斑の前方でも暗斑が見られるようになりました。 これも後方の暗斑と同様、昨年あったフィラメント模様が変化したものです。 おそらく両者にはさまれた領域は、STB Spectreと同じような、細長い低気圧的な閉区間になっているのではないかと思われます。

5月31日、前方の暗斑内部にメタンブライトな小白斑が現れました。 翌日には淡くなってしまいましたが、6月3日に再び明るくなりました。 2018年にSTB Ghostがベルト化する際に見られた白斑とよく似ています。 outbreakが発生すれば、両暗斑の間が濃化して、大赤斑の南にベルトの断片が形成されるかもしれません。

[図1] 拡幅が進むNEB
拡幅活動の主要部分で、左側に2つの明部が並ぶ。中央北縁の白斑はWSb。右からリフト領域が伸びてきている。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)
[図2] 大赤斑とSTBの暗斑
大赤斑をはさんで2つの暗斑が見える。前方のものはやや淡く流れている。STBのoutbreakが始まるのかもしれない。撮像:黒田瑞穂氏(兵庫県、28cm)

火星

火星は視直径が10秒に近くなり、眼視でも極冠や模様がよく見えるようになりました。

南極冠は中央が暗いドーナツ状で、ところどころに明るいスポットが見えています。 これからは、南極冠の縁に見える地形が面白くなりそうです(図3)。

今月は、ダストストームの発生がなく、穏やかな状態かと思いましたが、5月30日にシレーンの南側にスポットダストストームができました(図4)。 2018年にアマゾニス北部に同じようなものができたのを思い出します。 スポット状に見えたのは1日だけで、翌日には淡くなりましたが、すぐ西側に弱いダストストームができて、2つ並んだ姿になりました。 後からできた弱いダストストームは、南極冠からのエッジダストストームでした。 これから、南極冠が小さくなるにつれ、こういったダストストームの発生しやすい季節となります。

火星の撮像観測は、これからが難しい時期に入ります。 画像が二重リムになる、極冠が白とびしてしまう、ダークフリンジが真っ黒に出てしまうことなどが起こります。 何を目指した観測にするか決めて、撮像していただければ嬉しく思います。

[図3] 南極冠の模様
極冠の縁に地形によってできた輝点が見える。撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)
[図4] スポットダストストーム
極冠の下にある小さな白点がダストストーム。撮像:エクレイド・アゼベド氏(ブラジル、30cm)

土星

北緯76°の白斑は4月下旬には東西に伸びた拡散し、5月上旬まで細長い明帯として見られましたが、その後は拡散消失してしまったようです。 一方、5月31日に暗い北極領域の南縁付近、北緯64°、III=53°に別の白斑が現れているのを、フィリピンのクリストファー・ゴー(Christopher Go)氏が捉えました。 こちらの白斑は輝度はやや劣るものの大きく、体系IIIに対して1日当たり-11°という高速で前進しています。

北極領域は現在もオレンジ色で、白斑出現の影響は見られません。 画像の解像度が上がるにつれて、淡い縞模様が多くなり、中には名称に苦しむものもあります。 木星のような縞帯を区切るジェットストリームがないのが悩みのタネです。

[図5] 土星の新しい白斑
薄暗い北極域の南端に白斑が見られる(▼)。強調処理画像。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

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