天文ガイド 惑星の近況 2021年1月号 (No.250)

堀川邦昭、安達誠


火星が6日に最接近、14日に衝となりました。 最大視直径は21.6秒、南中高度は60もあるので、準大接近にふさわしい素晴らしい火星像を見ることができます。 木星は15日、土星は22日に共にいて座で東矩となり、観測シーズンは終盤を迎えています。

ここでは11月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

10月は最接近と衝の月で、今回の観測シーズンは折り返し点を迎えました。 日没後の東天に明るく輝く火星を見ると2018年よりもオレンジ色が濃く、シーズンによる違いを感じます。

南極冠はずいぶん小さくなりました(図1)。 経度によって見えにくい時もありますが、まだ見えていて、火星の傾きが正確にわかります。 一方、北極は画像で見るほど白くなく、黄色っぽく見える向きがあります。 Mare Acidariumが正面を向いている時は目立ちますが、それ以外ははっきり見えません。

高倍率の火星面は、朝霧や夕霧が薄青く着色している様子が見えて、実にきれいです。 眼視で青く見える所はほぼ決まっており、地形によって発生したものであることを示しています。

雲の観測は、青フィルターを使うと、その様子を詳しく観測することができます(図2)。 青といってもカラー合成用の3色フィルターの青ではなく、450nmよりも短い波長の光(紫外光を含む)が望ましいです。 この波長だと地表の模様が写らないので、雲の様子がよくわかります。

ただし、衝の前後1ヵ月間くらいは火星面が急に明るくなる「衝効果」が起こるので、地表の模様が写りこんでしまいます。 この原稿を書いている11月初めには、元に戻りました。 奈良県の荒川氏は、この波長で長い時間撮像し、動画を作成しています。 雲の変化の様子が手に取るようにわかります。 時間をかけて火星面の広い範囲を観測することは、大気の状態をつかむにはとても大切です。

今月は、ダストストームの発生はありませんでした。 しかし、まだまだ注意の必要な時期は続いています。

[図1] 小さくなった南極冠
南極冠は縮小してかなり小さい。衝を過ぎてターミネーターが反対側に移動し、今後は右側(西)から欠けて行く。撮像:井上修氏(大阪府、28p)
[図2] 可視光と紫外光によって異なる火星像
ほぼ同時刻の火星画像。右(UV)画像では地表の模様は写っていない。白く写っているところが雲に相当する。右のリムに沿って朝霧が見られる。北極雲(下)は目立たない。撮像:阿久津富夫氏(茨城県、45p)

木星

NTBs jetstream outbreakは、最後まで残っていたLS#1(一番最初の先行白斑)が、10月10日過ぎにoutbreakによる攪乱領域の最後部に追いつき、急速に衰えて消失してしまいました。 メタンバンドや可視光画像で明るさが失われるのと同時に、1日当たり-5°もあった前進速度が遅くなるという、他の先行白斑では見られなかった興味深い現象が観測されました。

この結果、outbreakは木星面を360°周回、攪乱活動によって生じた暗部は連なって濃いベルトに変化し、北温帯縞(NTB)は全周で濃化復活しています。 outbreakの活動によって大きく乱された北熱帯(NTrZ)や北赤道縞(NEB)北部は、少しずつ落ち着きを取り戻していますが、NTrZは今も薄暗く、NTB南縁とNEB北縁をつなぐ細い条状の模様が多数見られます。 NEB北縁もまだ乱れが残っていて、ベルト内部のリフト活動が活発な経度では、ベルトが淡く見えます。

outbreakの激しい攪乱活動に巻き込まれ、一時的に行方不明になっていたNEB北縁の白斑であるWSZは、現在、輪郭の定まらない灰色の領域として、II=180°付近に見えています。 時々、NEB内の白雲が巻き付いて見えるとこともあり、復活の途上にあるようです。 もうひとつの白斑であるWSbは、まだ所在がはっきりしません。

北半球の北北温帯(NNTZ)では、高気圧的白斑(AWO)同士の合体が発生しました。 NN-WS6という長命な白斑とNN-WS7と呼ばれる白斑で、元々40°離れていましたが、8月にNN-WS7が減速し、10月初めには15°に近づいていました。 両者は26日頃に接触状態となり、WS7はWS6の南側から回り込むように動いて、29日のフォスター(Clyde Foster)氏の画像では、WS7がWS6に巻き込まれつつある様子が捉えられています。 31日には大きなひとつの白斑となっていて、合体は完了した様子です。 近年、NNTZではAWO同士の合体がしばしば起こっていて、NN-WS6は昨年11月にも他の白斑との合体が観測されています。


[図3] 大赤斑と永続白斑BA
NTBが濃いベルトとして復活している。BAと大赤斑の間にはSTBの断片が横たわっている。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)
[図4] NNTZの白斑同士の合体
NN-WS6とNN-WS7が合体する様子。中央左の拡大画像は合体中の白斑。撮像:皆川伸也氏(東京都、24cm)、クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)、鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)

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