天文ガイド 惑星の近況 2021年4月号 (No.253)

堀川邦昭、安達誠


火星は1月22日におひつじ座で東矩となり、日没後の南天高く見えています。 昨年末に20年ぶりの会合を終えた木星と土星は、1月24日(土星)と29日(木星)に相次いで太陽との合を迎え、観測はお休みとなりました。

ここでは2月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

視直径は小さくなりましたが、赤緯はどんどん高くなり、火星が見えている時間は非常に長くなりました。 地平高度が高くなった分、意外なほど良いシーイングの日があり、小さい割に良像が報告されています。

南極冠は、「永久南極冠」という小さな点になってしまいました。 位置が偏心しているため、見える経度は限られています。 1月23日が最後の記録となっています(図1)。 一方、北極冠は形成が完了しているのですが、地球からは見える傾きになっていません。 形成完了とともに、北極フードは小さくなりました。 今まで、北の端が白く目立っていましたが、経度によっては分からなくなり、望遠鏡で見るとどの向きを見ているのかわかりにくくなっています。

縮小を始めた北極冠からは、寒気が吹き出すようになり、北半球中緯度まではダスティーになっている部分が増えてきました(図2)。 これから、こういった現象が増えてくることになります。 大きな規模のものは、地球から捉えることが可能です。

南半球は南極からの寒気の吹き出しが弱くなり、全体が西から東への安定した気流が覆って、東西方向に縞模様が形成されています。 安定していると地形の影響を受けやすく、山の後方は乾いた大気によって晴れた領域(黒っぽく見える領域)ができています。

今シーズン、姿が大きく変化したHellasは、画像では目立ちますが、眼視ではそれほど目立たない状態です。 同じ盆地のArgyre(30W, -50)は、1月末には白い姿を見せるようになりました。 白い姿が、盆地の底とほぼ同じ形に見えることもあり、霜ではないかと思われます。 図3は白くなったArgyreの様子ですが、底面の形まではわかりません。

火星像の周囲には、リムにもターミネーターにも、あちらこちらに白雲が見えるようになっています。 リムの雲は、シーイングがよいと小さく見えますが、悪いと拡散して見える傾向があります。 「見れば、必ず雲が見える」という状態です。 ただ、一般の観望会では慣れないと、どれが雲なのかは、わかりにくいかもしれません。

これからの火星観測は、小さくなった火星を相手にすることになります。 しかし、観測数が減少する分、記録の価値は高まります。 まだまだ観測シーズンは続いています。

[図1] 永久南極冠
矢印の先の小さな白点が永久南極冠。撮像:ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、50cm)
[図2] 青フィルターによる火星
矢印の先の白い部分がダスティーな地域。冷気を伴い、Bバンドで明るく写る。撮像:伊藤了史氏(愛知県、25p)
[図3] Argyre盆地
矢印の先の明るい領域がArgyre盆地。撮像:佐藤康明氏(神奈川県、20p)

木星

1月6日のティジャーノ・オリベッティー氏(タイ)による画像が、2020シーズン最後の報告となりました。 木星面では、濃化復活した北温帯縞(NTB)が目立ちます。 大赤斑(GRS)も赤みが強く明瞭で、後方の南赤道縞(SEB)では、post-GRS disturbanceが活動的になっているようです。 また、永続白斑BAの南を南南温帯縞(SSTB)の高気圧的白斑(AWO)のA1が通過中です。 来シーズンも活発な木星面に期待しましょう。

[図4] 2020年の木星面
撮像:菅野清一氏(山形県、30cm)、三宅明氏(栃木県、28cm)、吉田知之氏(栃木県、35cm)、佐藤康明氏(神奈川県、20cm)、西岡達志氏(神奈川県、45cm)、唐澤英行氏(東京都、30cm)

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