天文ガイド 惑星の近況 2021年3月号 (No.252)

堀川邦昭、安達誠


12月21日に日没後の南西天で、木星と土星が20年ぶりに会合しました。 今回は角距離6分という超ニアミスで、メディアにも取り上げられ、話題になりました。 その後、木星と土星は1月末の太陽との合を待つばかりとなり、観測シーズンは終了です。 火星はうお座を順行しています。 ずいぶん遠ざかってしまいましたが、観測はまだまだ続いています。

ここでは1月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上(図4を除く)にしています。

火星

火星はかなり小さくなり、1月初めには視直径が10秒を切りました。 眼視での模様の観測が難しくなるといわれる大きさです。 しかし、300倍以上かけると案外見えます。

11月に発生したダストストームは、Hellas付近にベール状の名残が見られます。 Hellasは円い姿から大きく変化してしまいました(図1)。 今シーズンのHellas周辺は、明るさや見え方の変化が激しく、大きな変動に見舞われました。

北半球ではダストストームが活動的です。 北半球は暗い模様が少ないため見分けが難しいのですが、微妙な色合いに注目して注意深く探すと、あちこちに見られます。 12月19日にはSinus Margaritifer付近で小規模なダストストームが発生したようですが、地上からの観測はありませんでした。 この影響を受けて、この一帯は模様が見えにくい状態が続いています。

12月27日からはHellas東方のMare Tyrrhenumの南半分が暗く見えるようになりました。 一時的にダストが晴れたことによる変化だと思われます。 南半球の風向きに変化が出てきていると思われます。

12月はダストストーム以外に、北極冠が見えるかどうかにも注目していました。 もう北極冠はできている時期で、北極フードの晴れ間に、北極冠の縁が見えるはずですが、極冠の縁が画像の北縁に位置しており、決定的な姿を見ることはできませんでした。 しかし、マーズ・エクスプレスからの画像では、北極冠が見事に写っており、形成は完了していることが分かっています。

南極冠は非常に小さくなり、昇華した二酸化炭素や水蒸気によって、火星面の各所に雲ができています。 南半球の高緯度では、南緯55°前後に帯状の雲が伸び、火星面を一周取り巻いていて、青画像で撮影するとよく写りました(図2)。 12月10日には、雲の帯はスパイラル(らせん状)になっている様子が記録されていましたが、次第に赤道に対して平行な帯に変わってきているようです。 Tharsis付近の大きな成層火山に見えていた白雲は、この時期見られなくなりました。 火星の周縁にはいつも雲が見えて、にぎやかです(図3)。

北極冠が見えてくるのは、火星の中央緯度(De)が北に傾く4月頃となります。 視直径は、さらに小さくなり5秒くらいになるので、観測は難しいかもしれません。

[図1] Hellas周辺の変化
矢印の先がダストストームで変形したHellas。撮像:マイク・フッド氏(米国、35cm)
[図2] 南半球高緯度を取り巻く雲
青画像。南極冠のすぐ下に雲の帯が顕著に見える。撮像:熊織照明氏(大阪府、35p)
[図3] 火星像の周縁に見られる雲
周縁部は大気を斜めに見るので、淡い雲がわかりやすい。撮像:伊藤了史氏(愛知県、25p)

木星と土星の会合

木星と土星の会合は、2000年5月以来、20年ぶりです。 前回は1°以上離れていましたが、今回は角距離6分、満月の5分の1と歴史的にもまれな近さで話題になりました。 筆者の30cm反射、300倍でも木星と土星を同視野に捉えることができ、木星の大赤斑と土星の環のカシニの空隙を同時に見るという、貴重な体験をしました。

木星と土星の軌道は互いに1.2°傾いているので、会合時でも多くの場合は1°前後離れているのですが、両者の軌道は黄経127°と307°付近で交差しているので、その付近で会合するとニアミスが発生します。

今回以上の接近となると、約400年前の1623年7月までさかのぼります。 しかし、調べてみると今回以上に条件が悪く、太陽との離角はわずか13°でした。 また、当時は単レンズで低倍率の望遠鏡しかなく、木星のベルトや土星の環の存在はわかっていませんでした。 望遠鏡での観測は不可能だったように思われます。 ひょっとすると、望遠鏡を通してこれだけ接近した両星を見たのは、人類史上初めてのことかもしれません。

[図4] 木星と土星の会合
月惑星研究会への報告画像を組み合わせて作成した会合の様子。土星を固定して、木星が追い越していく様子を表している。北を上にしているので、双眼鏡などのビューに近い。撮像:鈴木邦彦(神奈川県、19cm)、クリストファー・ゴー(フィリピン、35cm)、ダミアン・ピーチ(チリ、100cm)、アントニオ・ビルチェス(スペイン、12cm)、クリスチャン・ファッティンナンジ(イタリア、25cm)

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