天文ガイド 惑星の近況 2021年8月号 (No.257)

堀川邦昭、安達誠


土星は5月8日にやぎ座で、木星は26日にみずがめ座で西矩を迎えました。 観測条件はすいぶん良くなりましたが、西日本では早々と梅雨入りするなど、悪天続きの5月でした。 火星はすっかり遠くなり、観測シーズンは終了です。

ここでは6月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

5月12日、クリストファー・ゴー氏(フィリピン)は、メタンバンドで薄暗いEZ北部(EZn)に明るい領域を捉えました。 隣接するEZ南部(EZs)に特に明るいところがあり、そこから明るい雲がEZnへ流れ込んでいるようです。 メタンバンドでは明るく目立つのですが、可視光や赤外、紫外の画像では、ほとんど存在がわかりません。 さらに不思議なことに、EZの模様であるにもかかわらず、II系の模様に対して位置が変わりません。 昨年、英国天文協会(BAA)のロジャース氏は、EZ南縁の波状模様が木星内部の自転周期であるIII系(II系に近い)で動いていることを発見しています。 彼は、今回の模様もそれに関連したもので、SEB南縁を流れる高速のジェットストリームが消えてしまうほどの高高度に生じたのではないかと指摘しています。

大赤斑(GRS)後部の準循環気流は相変わらず活動的です。 本体はオレンジ色ですが、周囲の暗部の方が暗く、条件が悪いと赤斑孔(RS Hollow)のような見え方になります。 南赤道縞(SEB)南縁のリング暗斑との会合は繰り返し起きていて、小規模なフレーク現象を起こしながら前方のSTr. Band(STrB)に暗物質を供給しています。 そのため大赤斑の平均長径は12.5°と、最小レベルです。

永続白斑BAの前方では、新たなベルト組織が形成されつつあり、南温帯縞(STB)が濃化復活の兆しを見せています。 DS7として注目されている小暗斑は、この組織の中の暗部に変化しました。 白斑化したWS6(旧DS6、白斑化により変更)は、現在もBAのすぐ前方に見られます。 興味深いことに、新しい組織の前端は、昨シーズン観測されたSTB Spectre後端の延長上に位置しています。

北赤道縞(NEB)は、南組織(NEBs)だけが濃く、それ以外の部分は着色したEZnよりも淡く見えます。 バージ(barge)が取り残されたように並び、北縁の白斑は見えにくくなっています。 NEBでは10年前の2011〜12年に大規模な淡化が起きました。 同じ現象の再現となるか注目されます。

[図1] 大赤斑と前方に伸びるSTr. Band
大赤斑後部の準循環気流により、SEB南縁からSTrBに暗物質が供給され続けている。EZnにはほとんど模様がなく、NEB中央〜北部は淡化が進んでいる。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)
[図2] 赤道帯のメタンブライトな領域
上) メタン画像。暗いEZnにくさび状の明部が出現。中央) 同日のRGB画像では異常なし。下) 20日後のメタン画像。明部が伸長。NEBのバージに対して動いていないことに注目。
[図3] BA前方で濃化しつつあるSTB
BA前方に淡いベルト組織が形成され、DS7はその一部となりつつある。BA直前にはWS6(旧DS6)が見られる。南側のSSTBにA1からA5のAWOが並ぶ。撮像:左)アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、33cm)、右)エリック・シューセンバッハ氏(オランダ、35cm)

火星

火星の視直径は、ほぼ最小となりましたが、熱心な観測者によって追跡されています。

Lsは50°を越え、低緯度地方に白雲が見られるようになってきました(図4)。 火星は遠日点に近づいて太陽からの輻射熱は最小になっていますが、北極冠は順調に縮小を続けていて、画像でも小さく捉えられています。 極冠が縮小するときは、冷気の吹き出しによってダストストームが起こりやすくなりますが、遠日点付近とあって、今月は何事もなく過ぎました。 北極冠の縮小に伴って、周囲に黒いベルトが顕著に見えるようになりました。 眼視でもシーイングがよいと、確認できます。 エッジダストストームが起こると、このベルトが部分的に見えなくなりますが、今のところ顕著な観測報告は届いていません。

これから火星は急速に太陽に近づくので、火星の観測はしばらくお休みとなります。 次シーズンは12月ごろの開始となるでしょう。

[図4] 低緯度地方の白雲
青画像。矢印で示した薄明るい領域が低緯度地方の白雲。下に北極冠が明るく見える。撮像:伊藤了史氏(愛知県、25cm)

土星

今シーズンの土星面はとても静かです。 主要な模様は明るい赤道帯(EZ)と北赤道縞(NEB)と北温帯縞(NTB)の2本の赤茶色のベルトだけです。 白斑の報告はありますが、追跡できるものはありません。 環の傾きが小さくなり、北極地方の六角形パターンなどは、見えにくくなっています。

西矩となり、環に対する太陽と地球の傾きの差が大きいため、A環の外側の南極地方に環の影が幅広く見えています。

[図5] 落ち着いた状況の土星面
西矩を過ぎたばかりのため、環の南と本体の左側に影が大きく見える。撮像:ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、50cm)

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