天文ガイド 惑星の近況 2021年9月号 (No.258)

堀川邦昭


木星は6月21日にみずがめ座で留となりました。 土星はすでにやぎ座を逆行中です。 木星と土星は昨年暮れの大会合から半年しか経っていませんが、すでに20°以上も離れてしまいました。 火星は太陽に近くなり、観測はしばらくお休みです。

ここでは7月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

大赤斑(GRS)の経度が、6月末についにII=0°を越えました。 このページの連載が始まった2000年はII=70°くらいだったので、すいぶん動いたことになります。 月惑星研究会の創立者でベテラン観測者の平林勇氏からの情報によると、前回、大赤斑がII=0°を越えたのは1961年だったそうです。 つまり、大赤斑は60年かけて木星面を一周したことになります。

その後はII=60°までの間を行ったり来たりの時期が続き、1972年には再び0°に戻っています。 しかし、1988年以降はほぼ一貫した後退運動に変化しました。 最初はゆっくりで、II=100°に達したのは2004年末でしたが、2009年頃からスピードアップし、近年は1年に20°以上も後退しています。

大赤斑を特徴づける赤さも60年の間に大きく変動しました。 1970年代前半は極めて赤みが強く、小口径でもよく見えましたが、1975年の南赤道縞攪乱(SEB Disturbance)の後は赤みが弱まり、周囲にしばしば暗部が発達して、時には白い赤斑孔(RS Hollow)になったこともありました。 しかし、2012年以降は徐々に赤みが回復して、近年は鮮やかなオレンジ色でとても目立つ状態が続いています。

大赤斑の長径もずいぶん変わりました。 1960年代〜70年代初めは20°前後でしたが、現在は12〜13°で半分ちょっとしかありません。 図3を見ると、最近のフレーク現象による縮小も無視できなくなっています。

木星面の状況は、先月とほとんど変わっていません。 大赤斑周囲の準循環気流の活動は続き、南赤道縞(SEB)南縁のリング暗斑が次々に赤斑湾(RS bay)に進入、小規模なフレークを発生させて、前方のSTr. Bandに暗物質を供給しています。 そのため、大赤斑の長径は6月平均で12.9°と小さく、赤みも薄れています。

永続白斑BAはII=170°にあります。 暗部で囲まれた白斑として見えていますが、内部は薄茶色に濁っていて、後述するA5やWS6の方が明るく見えます。 BAの前方で濃化復活中の南温帯縞(STB)は、だいぶベルトらしくなってきました。 元々BA後方にある断片と合わせると、約130°の長いSTBが形成されつつあります。 昨年から注目されている暗斑DS7は、このベルトの一部となり、白斑WS6はBAのすぐ前方に見られます。

BA前方の南南温帯縞(SSTB)にはA1からA5までの高気圧的小白斑(AWO)がずらりと並んでいます。 今月は最後尾のA5がBA南を通過中です。 今回は何事もなさそうですが、先頭のA1が遅いため、白斑同士の間隔は詰まってきています。

[図1] 大赤斑周辺の状況
準循環気流の活動が続き、大赤斑前方に伸びるSTr. Bandはかなり乱れている。赤斑湾の右肩には進入中の暗斑が見られ、SEB南縁には後続の暗斑が並んでいる。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)
[図2] 永続白斑BAと復活中のSTB
最も右側にある大きな白斑がBA。前方ではSTBが明瞭になってきた。BAのすぐ左下にある明部はWS6。SSTBにはA1からA5までがずらりと並び壮観。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)
[図3] 大赤斑一周の軌跡
1973年以降の大赤斑の経度変化。●は大赤斑本体、〇は赤斑孔を示す。1988年以降は後退を続けていて、2009年からはスピードが増していることがわかる。データは月惑星研究会、東亜天文学会木土星課、大学天文連盟による。
[図4] 大赤斑の長径の変化
●は大赤斑本体、□は赤斑孔のサイズ。1970〜80年代は20°近くあったが、1990年代前半と2010年前後に縮小が進んだ。最近のフレークによる縮小も目立つ。データは月惑星研究会、東亜天文学会木土星課、大学天文連盟による。

土星

土星面は静かな状態が続いていて、特筆すべきことはありません。 北赤道縞(NEB)と北温帯縞(NTB)の2本のベルトが赤茶色で目立っています。 NEBは2017年頃に比べると、かなり細く見えます。 これば二条だったベルトの北組織が淡化したためで、2018年以降、徐々に淡くなり、現在は高解像度の画像でしか見ることができません。

木星の場合、淡化したベルトが濃化復活する際には、激しい現象となるのですが、土星の場合はどうなのでしょうか。 とても興味深いのですが、土星は木星よりも変化のスピードが遅いので、気長に待たなければならないかもしれません。

[図5] 土星のNEBの変化
矢印で示したベルトがNEB。4年の間に北組織が淡化して、ベルトが細くなっている。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)

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