天文ガイド 惑星の近況 2021年10月号 (No.259)

堀川邦昭


土星は8月2日にやぎ座で衝となりました。 みずがめ座の木星も衝間近となり、観測の好機を迎えています。 梅雨が明けて好天と抜群のシーイングに恵まれ、両星とも詳細な様子が捉えられています。

ここでは8月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

今シーズン初めから続いていた準循環気流の活動が終息しました。 この活動は大赤斑(GRS)の後部に巻き付くように立ち上がった通称フック(hook)と呼ばれる暗柱と、大赤斑前方に伸びる南熱帯紐(STr. Band)が特徴的でしたが、7月半ばにフックが後方に流れてなだらかなスロープに変化すると同時に、STr. Bandが急速に淡化を始めました。 南赤道縞南縁(SEBs)から大赤斑後部を回る流れが途絶え、STr. Bandに暗物質が供給されなくなったためと考えられます。 現在は、大赤斑周囲にスロープやアーチが残り、赤斑孔(RS Hollow)内部も薄暗くなっていますが、前方のSTr. Bandは約50°に渡ってほぼ消失し、さらに拡大しつつあります。

今回の活動期間は約半年で、この現象としては標準的な長さでした。 大赤斑は今後、周囲の暗部が薄れて、しだいに赤みを取り戻すと思われます。 木星面全周と取り巻いているSTr. Bandも、急速に淡化・消失するでしょう。

8月7日、クリストファー・ゴー氏(フィリピン)は、大赤斑の南側にメタンバンドで明るい白斑を捉えました。 可視光では7月から青く淡い暗部を伴った小白斑が存在していて、これが大赤斑の南を通過した際にメタンブライト化したようです。 淡化した南温帯縞(STB)内部で起こる対流性の攪乱活動と考えられ、STB outbreakと呼ばれています。 同様のoutbreakは、昨年5月にもほぼ同じ場所で発生し、暗斑DS7を形成、後に永続白斑BAの前方でSTBが濃化するきっかけとなりました。 今回も新たなベルト断片が形成されるかもしれません。

これまで25年以上、淡化したSTBではベルトの断片やフィラメント領域が、BAに衝突してoutbreakを起こすというサイクルを繰り返してきました。 しかし、昨年あたりからこのサイクルが崩れてきたように思われます。 全周でSTBが濃化する途上にあるのかもしれませんので、注意深く見守る必要があります。

大赤斑は7月に入ってわずかに前進し、II=359°と0°を割ってしまいました。 準循環気流末期の活動が影響した可能性があります。 北赤道縞(NEB)は淡化が進んで、拡幅時の北縁はかなりの経度で消失し、バージ(barge)がとりのこされた島のようです。 II=60°前後にはとても濃いバージが2個ありますが、他は小さく淡くなってきました。 また、昨年のoutbreakで濃化復活した北温帯縞(NTB)も、春ごろに比べると濃度が落ちていて、早くも淡化を始めたようです。 一方、北北温帯縞(NNTB)は、6月末からII=0〜150°の範囲でジェットストリーム暗斑が大量に発生して、ベルトが濃化しつつあります。

[図1] STB outbreakの発生
大赤斑の左上に小白斑が出現した(▼)。可視光では不明瞭だが、右のメタン画像では明るい。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)
[図2] 準循環気流消失の様子
大赤斑後部の暗柱が後方に流れてスロープに変化すると、前方のSTr. Bandが急速に淡化を始めた。SEB南縁の後退暗斑(▲)が大赤斑直前で急減速する現象も見られた。
[図3] 8月4日〜5日の木星面展開図
大赤斑前方でSTr. Bandの淡化が進んでいる。BA前後に伸びるSTBと、SSTBの5個の白斑が目を引く。北半球ではNNTBが濃化復活しつつある。熊森照明氏(大阪府、35cm)、栗栖茂氏(香川県、35cm)、鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)の画像から作成。

土星

土星面は落ち着いた状況にあります。 北赤道縞(NEB)と北温帯縞(NTB)の2本のベルトが目立っていますが、以前に比べると、NTBの北側の北温帯(NTZ)が明るくなっています。

環の外側に見える影が小さくなり、南極地方が見やすくなってきました。 良く見ると縞のようなラインがあります。 南緯40°くらいなので南温帯縞(SEB)かもしれません。

衝の前後に環が明るくなる現象(衝効果)が見られます。 今年は環の傾きが減少したせいか、例年よりも増光が小さいように感じます。

[図4] 衝を迎えた土星
衝の1日後の土星。本体や環の影がなく、衝効果により環が明るい。撮像:伊藤了史氏(愛知県、25cm)

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