天文ガイド 惑星の近況 2023年7月号 (No.280)

堀川邦昭、安達誠


日没後の西空では宵の明星、金星が輝いています。 空が暗くなると、ふたご座の火星が高いところに見えていますが、ずいぶん暗くなってしまいました。 一方、明け方の東南天には土星が昇ってくるようになりました。 日の出時の高度は30°に達します。 木星はまだ低く、10°を越えたばかりです。 ここでは5月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

火星の視直径は、4月末には5秒台となり、観測報告は減ってきていますが、まだ続いています。 火星の表面模様は大気中のダストの影響を受けて見えにくくなっていますが、シーイングが良い時は明瞭で、北極冠や南半球の主な模様は眼視でも形が分かります。

火星の季節を表すLsは、4月末でほぼ60°になりました。 北半球は初夏を迎えていますが、遠日点に近づいているため、太陽からの輻射熱は最も少なくなっています。

この時期は太陽の直下点となる北緯10°を中心とした低緯度帯に氷晶雲(赤道帯霧)が現れるのですが、今年はやや遅れているように思います。 高地には白雲が見えるようになっていて、雲の変化から目が離せません。 Syrtis MajorからElysium付近は、それらしい姿が見えるようになってきています。

3月までは、南極フード(南極域を覆う青っぽい雲)が顕著でしたが、4月に入り急速に見えなくなってきました。 次に見えてくるのは、南極冠結成の時期となります。

火星面の中央緯度が北に移動して、北極冠がよく見えるようになりました。 4月は全体的に黄色く、かなりダスティーな状態でした。 また、明るさが場所によって違っています。 条件が良ければ眼視でもわかります(図1)。

極冠の大きさは最大時の50%程度になりましたが、周囲に黒いバンドがあるため鮮明です。 このバンドの濃さを指標にして、極冠からのダストの吹き出し具合いを見ることができます。 4月11日には井上修氏(大阪府)がダストの吹き出しを記録しました(図2)。 北極冠が半分以下になったように見えています。 また、同じ日に別のダストストームが、Mare Acidariumの北で起こりました。 スペインのハビエル・ベルトラン・ジョバニ(Javier Beltran Jovani)氏の画像で同じような見え方をしています。 ただし、画像処理が強すぎて正確な状況を把握することは困難でした。 翌日には拡散傾向になり、短期間の現象となりました。

[図1] 南極冠の明るさの変化
南極冠の左側が暗くなっている。眼視でも同じように見える。撮像:伊藤了史氏(30cm、愛知県)

[図2] 南極冠からのエッジダストストーム

南極冠周囲のバンドが不明瞭になっている。南極冠も薄暗いが、赤画像では明るく記録されている。撮像:井上修氏(28cm、大阪府)

土星

明け方の土星は環の傾きが減少して、環の幅は土星本体の3分の1程度しかありません。 両側ではカシニの空隙が明瞭ですが、本体と重なる部分では、条件が悪いと見ることができません。

土星本体では北赤道縞(NEB)が赤茶色の濃いベルトとして目立ちます。 昨シーズン同様、北部が淡化しているためやや細く見えます。 その北の細く濃いベルトは北温帯縞(NTB)です。 高解像度の画像では他にも淡いベルトが多数見られます。 最もNEBに近いものは淡化したNEB北組織と思われますが、他は命名が困難です。 昨年、目立った北北温帯縞(NNTB)と思われる高緯度のベルトは淡化したようです。

ゾーンでは赤道帯(EZ)がクリーム色で最も明るく見えます。 今年は環の反対側でも環の影に沿ってEZ南部が顔を出しています。

南半球の縞模様もはっきり見えるようになりました。 南赤道縞(SEB)が濃く幅広いベルトとして目を引きます。 その南側には南温帯縞(STB)があり、間の南熱帯(STrZ)が明るく見えます。 北半球は全体として赤茶けていますが、北半球は青〜緑系で、色調に乏しい印象を受けます。 環の傾きが小さくなると、環の表面にスポークと呼ばれる放射状の陰影が出現しやすくなる傾向があります。 今年は注意が必要でしょう。

[図3] 縞模様に覆われた土星面

観測条件が良くなり、解像度の高い画像が得られるようになった。北半球中緯度は淡い縞がたくさん見られ、命名が困難である。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

金星

最大離角までまだひと月ありますが、金星画像の報告がとても多くなっています。 可視光では一様に明るいだけの金星ですが、紫外光(UV)ではスーパーローテーションの一部と見られる明暗が写り、時には目立つ明斑や暗部が現れて注目されます。

かつては最大離角を過ぎて細く欠けた大きな金星が被写対象でしたが、撮像技術が向上した現在は、視直径が小さくても輝面比が大きい今の時期が観測の好機となっているようです。

[図4] 金星の紫外画像

スーパーローテーションの一部と思われるすじ状の模様が見られる。撮像:鶴見敏久氏(岡山県、25cm)

木星

2023-24シーズン最初の観測は、5月1日の宮崎勲氏(沖縄県)で、これまでに数画像が報告されています。 低空による悪条件のため、木星面の詳しい様子はまだわかりません。 もう少し高度が上がって、観測数が増すのを待たねばならないようです。


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