天文ガイド 惑星の近況 2023年8月号 (No.281)

堀川邦昭、安達誠


夕暮れの西空では、東方最大離角を迎えた金星に火星が接近中です。 しかし、火星はプラス1等級で、マイナス4等級の金星と比べて少し見劣りがします。 一方、明け方の空では土星が6月1日に西矩となり、見ごろを迎えています。 木星はおひつじ座へ入り、高度も上がってきました。

ここでは6月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

木星では合の間に異変が発生しました。 4月8日、50回目の近木点通過(PJ50)を迎えた探査機ジュノー(Juno)は、大赤斑(GRS)後部にフック(暗柱)が出現していることを捉えました。 新たな準循環気流の活動の始まりです。 ところが、観測シーズンが明けた5月13日のクリストファー・ゴー(Christopher Go)氏の画像ではフックは存在せず、大赤斑の周りは普段どおりの明るいゾーンです。 合の間にいったい何が起きたのでしょうか?

手掛かりは残っていました。 その後の画像から、II=300°前後に準循環気流で形成された南熱帯紐(STrB)の名残と思われる、長さ60°のベルトの断片が見つかりました。 そこで、大赤斑とSTrBの前後端の距離から発生/消失時期を推定すると、発生は3月24日頃、消失は4月28日頃という結果が得られました。 合で観測のなかった期間にピタリと当てはまります。

準循環気流の活動は、大赤斑の90日振動と同期する傾向があり、発生は振動運動の極大前後に集中し、消失はおおむね前進期に起きています。 最近の極大日は4月6日頃で、前述の推定日とよく整合しています。 今回は発生からひと月余りで終息するという、とても短い活動だったようです。

合から二ヵ月が経過し、木星面全周の状況がわかってきました。 大赤斑はII=36°に位置します。 相変わらずオレンジ色で、南側をDS7が伸長した南温帯縞(STB)の暗部が通過中です。 永続白斑BAはII=121°にあり、昨シーズンよりも小さくなりました。

南赤道縞(SEB)はここ数年、北半分が明るくなっていましたが、今シーズンはベルト全体が暗く、以前の状態に戻っています。 大赤斑後方の白雲領域(post-GRS disturbance)も活動的で、mid-SEB outbreakの発生に注意が必要と思われます。

今年初めから局所的に拡幅した北赤道縞(NEB)は、拡幅域が後方に拡大し、II=200〜270°で幅広くなっています。 さらに、長命な白斑WSZをはさんでII=340°までのNEBも厚みを増しているようです。 拡幅区間では北熱帯(NTrZ)にあった白斑が、NEBベルトの内部に取り込まれてしまいました。

北温帯縞(NTB)はほぼ消失しました。 2020年8月のNTBs jetstream outbreakから3年近くが経過しましたので、次のoutbreakを警戒する時期に入ったようです。

[図1] ジュノーによって捉えられたフックの発生
4月8日のPJ50の画像より堀川作成。大赤斑後部に大きく立ち上がったフックが出現、前方にはSTrBが伸びている。
[図2] 今シーズン初めの大赤斑
図1から35日後の大赤斑周辺。フックやSTrBは消え、大赤斑周囲は明るくなっている。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

火星

火星の視直径は4秒台と小さくなりましたが、熱心な観測者は、まだ観測を続けています。 火星は遠日点付近にあり、1/3くらいの大きさになった北極冠がよく見えています。 RGB画像で見ると、太陽直下点の緯度を中心に赤道帯霧(氷晶雲)が発生し、 白っぽく記録されるものが増えてきました。

観測シーズンはほぼ終了となりました。 そこで、月惑星研究会に報告されてきた画像から、今シーズンの火星面の展開図を作成しました。 大規模なダストストームが収まった後の火星面です。 発生前と比較すると、Hellas盆地が小さくなり元の大きさに戻ったこと、 Argyre盆地周辺が明るくなったこと、Solis Lacusが広がったことが、大きな違いとして見えてきます。

これらの変化の様子は、月惑星研究会のWebサイトで公開する予定です。 関心のある方はそちらをご覧ください。

[図3] 2022年の火星面展開図
2022年9〜10月に発生した大規模なダストストームが終息した後の火星面。月惑星研究会の画像より安達作成。

土星

西矩を迎えて環の傾きは7.3°と、今年最小になっています。 太陽に対する傾きよりも3°近く小さいので、土星本体や環の影が本体の左側とA環の外側に幅広く見えています。

土星面と環に大きな変化はありません。 観測条件が良くなり、環の南側にある南赤道縞(SEB)が二条に見えるようになりました。


前号へ INDEXへ 次号へ