天文ガイド 惑星の近況 2025年3月号 (No.300)

堀川邦昭、安達誠


12月7日、木星がおうし座で衝となりました。 同日、火星はかに座で留となり、1月12日の最接近まで、いよいよ秒読みです。 翌日の8日には、夕暮れの南天で輝く土星がみずがめ座で東矩を迎えました。

ここでは12月下旬までの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

11月に発生したmid-SEB outbreakは、これまでに6〜7個の白斑が出現し、乱れた明部が形成されました。 明部の広がりは20°程度で、過去のoutbreakと比較すると、規模は大きくなかったのですが、12月26日になって、やや前方に離れたII=290°付近に新たな白斑が出現しました。 この白斑もoutbreakの活動の一部と考えられます。 新たな発生源となって活動域が拡大するか注視しましょう。

今回のoutbreakで特徴的なのは、白斑が南北に引き延ばされた後、南半分が後方へ流れて行く動きが見られることです(特に#3と#4)。 明らかにSEBsのジェットストリームの影響を受けていて、発生源後方にも明帯が伸びています。

全周に拡大した赤道帯南部(EZs)の攪乱領域(SED)は、本陣と呼ばれる後端部が12月初めに大赤斑の北を、20日頃にmid-SEB outbreakの北を通過したましが、大きな変化はありませんでした。 EZsの大きな白斑が明るく目立つので、南赤道縞(SEB)から白雲が流入しているはずですが、入口となるSEB北縁のリフトは不明瞭なままです。 本陣はI=100°付近を1日あたり+1.2°のペースで後退しています。

大赤斑(GRS)は11月後半から後退に転じ、II=67°にあります。 周辺に軽微な暗部が見られるものの、オレンジ色の本体が鮮明で、輪郭も明瞭です。 大赤斑前方、II=20°付近の南温帯縞(STB)には、spot#8と呼ばれる青い暗部があり、さらに20°前方にも同様の暗部が存在します。 2019年に出現した同様の青い暗部のペアは、翌年DS6/DS7という暗斑になり、さらに紆余曲折を経て長いSTBのセグメントに成長しました。 spot#8のペアが今後どのように成長するか注目しましょう。

[図1] mid-SEB outbreakの発達
月前半は白斑が主体の活動だったが、後に融合して混沌とした明部に変化した。26日には前方に新しい白斑が出現(▼)、活動域は拡大しつつある。
[図2] 大赤斑とspot#8
大赤斑はオレンジ色で明瞭。前方のSTBに青い暗部のspot#8が見える(▲)。撮像:伊藤了史氏(愛知県、30cm)

火星

火星は最接近が間近となりました。 北極冠が明るく見え、望遠鏡でのぞいた時に、火星像の向きがわかりやすくなっています。 ただし、今月はフード(極雲)を被っているため、明るさは鈍くなっていました。

火星は遠日点に近づいて、太陽からの輻射熱が減り、広範囲なダストストームは見られなくなりました。 しかし、北極冠の周辺では温度勾配が増して大気が不安定になり、局所的なダストストームが発生しています。 とりわけCydonia(340〜5W, +53)付近で何度も見られました。

11月30日にはMare Acidariumの北東に2日間だけ、スポット状のダストの光斑が見られました。 その後、12月2日にCydoniaにダストの光斑が現れました。 4日の画像を見ると(図3)、北極冠の中から外に出てきたような姿ですが、発生地点は定かではありません。 これ以降、この場所にはしばしばダストストームが現れましたが、いずれも発生地点の特定ができませんでした。

12月10日には北極冠を周回する気流によってダストストームが発生し、東西の帯状に広がりましたが、淡く観測は非常に困難でした。 極冠が縮小する時期には、こういったダストストームがよく発生するので、まだ当分の間は続くと思われます。

Lsが300〜0°の間は、火星の大気がダスティーになる時期です。 今シーズンもかなりダスティーで、大きな暗色模様も暗く見えなく、多くの観測者を悩ませました。

北半球の高緯度は、晴れてダストが少なく、極付近の暗色模様は黒々と見えています。 中でもUtopia(260W, +45)は、非常に濃く見えます。 この濃さがダストのない状態での、火星の模様の本当の暗さを示しています。

[図3] 北極冠周辺のダストストーム
北極冠の中央左を横切る薄暗い帯と、上の明部がダストストーム。撮像:ダミアン・ピーチ氏(英国、35cm)

土星

土星の環の傾きは12月上旬に5°を割り、年末には4.3°となりました。 太陽に対する傾きも2°に減少しましたが、見た目は先月とほとんど変わっていません。 今後は急速に減少して、3月には太陽に対する傾きを追い越して、環の消失に至ります。

土星本体は落ち着いた状況にあります。 北半球が薄茶色をベースとした色調なのに対して、南半球は青緑色に覆われています。

6日と22日にティタンの土星面経過がありましたが、日本では見ることができませんでした。

[図4] 土星の環の傾きの変化
地球から見た環の傾き(B)と太陽に対する傾き(B')は半年の間に逆転した。環は暗くなり、本体に映る環の影の位置も環の外側から内側へと変化している。撮像:左) 伊藤了史氏(愛知県、30cm)、右) ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、50cm)

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