天文ガイド 惑星サロン2010年2月号 (No.89)安達誠

探査機のお宝画像

ここにお見せするのは、2008年10月にマーズ・リコナサンス・オービター(MRO) によって撮影された、チトニウスラクス(82W, 0)に見つかった、ダストストーム の生々しい画像です。昔は「黄雲」と呼ばれていましたが、最近はダストストー ム(砂嵐)と呼んでいます。どれくらい激しい現象なのかは、地球に住んでいる私 たちには想像の世界です。惑星大気のモデル計算を得意とする研究者にとっては、 火星は木星型の惑星よりもモデル計算の行いやすい天体ですが、なかなかシミュ レーションは難しいようです。

探査機の画像は、地球から見ることができない姿を見せてくれるので、見ていて 飽きることがありません。最近、この画像を改めて見て、面白いことに気がつき ました。右の円で囲んだところに、火星大気に浮かんだ積雲と思われる雲とその 影がはっきりと写っているのです。雲と地表との高さは分かりません。しかし、 その左側にあるダストストームの影は実に長大です。はっきりしたピークと、影 の一致する部分を線分でつないでみました。

次に、両者の影の長さを測りました。地表を平面と仮定して計算しますと、ダス トストームの高い部分は、火星の雲の高さの約18倍という、とんでもない高さが 出てきます。強引に地球の一般的な積雲の高さを1000mと仮定すると、ダストス トームの高い部分は18000mとなるわけです。もちろん大気は地球とちがって、 うんと希薄ですから、同じように考えることはできません。しかし、ダストが火 星大気の非常に高空まで広がることは、確かなようです。


[図1] 巻き上がるダストストーム
MROによる観測。NASAの画像。
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