天文ガイド 惑星サロン
2018年3月号 (No.186)
近内令一

普通でない場所にある普通のカメラ
(An Ordinary Camera in an Extraordinary Place)

欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機マーズ・エクスプレス(Mars Express)は、2003年6月2日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、同年12月25日に無事に火星周回軌道に乗りました。 以来、今日に至るまで火星の科学的探査を継続中で、大きな成果を上げてきています。

科学的研究用のカメラ群とは別に、この衛星にはThe Visual Monitoring Camera (VMC)と呼ばれる軌道監視用の低解像度のウェブカメラが搭載されています。 日常の撮影に使われるような"普通の"カラーデジタルカメラですが、火星周回軌道という"普通でない"場所にいるので、その火星画像の解像度はハッブル宇宙望遠鏡を上回ります。

VMCの火星画像は、ほぼリアルタイムで、ほぼ毎日公開されています("VMC The Mars Webcam Flickr"で検索してみてください)。 出処のESAを明記すれば誰がどのように使っても構わないことになっています。 近点高度300q、遠点高度1万qの長円極軌道の衛星なので、地球からの観測ではあり得ないマニアックな画角の火星画像も楽しめますし、時々とんでもなく異常な現象が写っていたりして魂消させられます。

木星のジュノーでもそうですが、定期的に公開される火星周回衛星からの画像は、私たちの地上からの望遠鏡による観測の興味をさらに深めるために大いに役立つと考えています。

図では、1971年の私の眼視スケッチ観測(25cm反射、480倍)と、火星の同じ季節の2016年のVMCの南極上空からの画像を比較しました。 昇華縮小しつつある南極冠の周縁部のどのような複雑な状態を眼視で昔とらえていたのかがよく理解できます。

[図1] VMCと眼視スケッチによる火星南極冠の比較
火星の季節を表すLsはほぼ同じで、南半球が春から夏に移り、南極冠が縮小しつつある頃。

前号へ INDEXへ 次号へ