4月の木星

1997年 5月12日

浅田秀人・伊賀祐一・堀川邦昭・繭山浩司


4月の木星は高度も高くなり観測条件が多少良くなって、全周に渡っての観測ができるようになりました。現在、注目されるSTrZの白斑の動きとそれぞれの模様について解説を行ない、続いて各観測者からの報告書を掲載しました。(伊賀)

STrZの白斑

図1:Pic du Midi画像(Color)
4/12 5h15m(UT)
ω1= 22 ω2= 25

図2:浅田秀人氏 CCD画像
4/28 19h25m(UT)
ω1=186 ω2= 62
3月下旬の報告では、STrZの白斑がはっきりと確認できなかったために、すでに大赤斑との会合が始まったのではないかと思われていました。4月に入りシーイングもやや良くなり、STrZの白斑が大赤斑の直前にせまっている姿が捉えられ、STrZの白斑と大赤斑との会合がこれから始まることが確認されました。

まず、STrZの白斑がRSの直前のSEBsに湾入している様子が4月上旬のPic du Midi天文台のCCD画像(図1)で捉えられていますが、眼視の観測ではRS Bayは見えているがこの白斑はわかりにくく、4/11の堀川氏の観測で認められている程度でした。ようやく4/28の浅田氏のCCD画像(図2)で大赤斑直前のSEBsに存在する白斑が捉えられました。RS Bayの直前のSEBsに小さなBayがあり、そこがSTrZの白斑です。

  • 4/11(堀川氏):例の白斑が中央に見える。SEBsのBayは凹みが浅く不明瞭だが、周囲のSTrZがshadeされていてやや暗いため、白斑状に見える。RSに到達しているかはわからないが、まだのように見える。
  • 4/23(堀川氏):白斑は、前端部が濃くこぶ状に盛り上がって見える。白斑本体はぼんやりしていて、4/11よりも目立たない。後端部も小さなprojection状でRS Bayと分離できる。
  • 4/28(浅田氏):極めて悪条件で、眼視ではWS BayとRS Bayが一体化していました。画像ではRS Bayの前端が未だしっかりしているようで、そのすぐ左のSEBsがぼやけており、そこがWS Bayなのでしょう。
  • 4/30(伊賀氏):STrZの白斑は木星のリム付近ながら、RS Hollowの肩にovalとして確認できた。

この白斑の今後の動きが非常に気になります。RSとどのように関連した変化を示すのか、観測条件もますます良くなりますから注意して観測して下さい。

大赤斑(RS)
大赤斑は、全体的には輪郭がはっきりしない状態でした。特に眼視では赤味も少なくovalとして捉えにくいようでしたが、CCD画像では昨シーズンのような大赤斑の様子が捕らえられています。観測者の報告をまとめると、以下のようになります。
  • 4/11(堀川氏):輪郭のぼやけたshade状で赤味もない。
  • 4/17(伊賀氏):かろうじて南半分が認められるが赤味はない。
  • 4/23(堀川氏):相変わらず赤味はなく、輪郭はぼやけているが、後ろ半分は明るいchannelによってSEBsから分離できる。
  • 4/28(浅田氏):CCD画像(図2)ではRS Bayに囲まれた赤味のある大赤斑が捉えられた。CMT観測ではω2=60.4°で、これまでの後退傾向から前進に転じたものと思われる。
  • 4/30(伊賀氏):全く赤味がなく、エッジもはっきりしない。

永続白斑
3個の永続白斑BC,DE,FAが、4/26にようやく伊賀・浅田氏によって捉えられました(図4図5)。昨シーズンはBC-DE間に白斑WS1が、DE-FA間に2個の白斑WS2,WS3が認められましたが、今シーズンはまだ捉えられていません。4/3のPic du Midiの画像(図3)では、BC-DE間のWS1がかろうじて撮影されていますが、眼視では見えていません。昨シーズンはこれらの白斑の出現により、どの永続白斑であるかの区別がつきませんでしたが、今シーズンは比較的観測しやすいようです。それぞれの経度は以下の通りです。ずいぶんと前進してきていて、BCが大赤斑を追い越すのは7月頃になるでしょう。

図3:Pic du Midi画像(I-band)
4/3 5h55m(UT)
ω1= 66 ω2=137

図4:伊賀祐一氏
4/26 19h21m(UT)
ω1=226.6 ω2=118.1

図5:浅田秀人氏
4/26 19h39m(UT)
ω1=239 ω2=130
永続白斑の経度

STB以北
STBは、DE-FA間が濃化していて、この経度が最も見やすいでしょう。BCより前方のSTBは淡いながらも大赤斑に向かって伸びています。またFAから後方のSTBは、次第に南にシフトしながらSSTBと合流している様子が捉えられています。
  • 4/22(堀川氏):ω2=250°付近ではSTBは淡化し、代わりに拡散したSSTBが見えている。ただし、ω2=220°付近から前方ではやや北寄りで、STBのしっぽが見えているらしい。
  • 4/12,25,26(浅田氏):STBは昨年同様に螺旋階段状。STBの終点(SSTBとの合流)はω2=240°付近。
  • 4/26(伊賀氏):永続白斑DE-FA間のSTBは濃く見えている。BCより前方のSTBはやや北寄りながら、大赤斑の方に伸びている。FAから後方のSTBは逆に南にシフトして、さらに後方に伸びている。

SEB

EZ

NEB

NTB以北


Pic du Midi画像(Color)
4/12 5h15m(UT)
ω1= 22 ω2= 25

Pic du Midi画像(I-band)
4/3 5h55m(UT)
ω1= 66 ω2=137

Pic du Midi画像(I-band)
5/2 3h31m(UT)
ω1=235 ω2= 86

Pic du Midi画像(I-band)
5/5 9h15m(UT)
ω1=199 ω2= 25

4/1〜4/3の画像からの展開図
Pic du Midi画像(I-band)

Hideto Asada
4/28 19h25m(UT)
ω1=186 ω2= 62

Hideto Asada
4/26 19h39m(UT)
ω1=239 ω2=130

Hideto Asada
4/12 20h09m(UT)
ω1=207 ω2=206

Hideto Asada
4/25 19h25m(UT)
ω1= 83 ω2=342

Yuichi Iga
4/30 19h42m(UT)
ω1=150.8 ω2=11.7

Yuichi Iga
5/6 19h30m(UT)
ω1=212.8 ω2= 35.6

Yuichi Iga
4/26 19h21m(UT)
ω1=226.6 ω2=118.1

Yuichi Iga
5/7 19h28m(UT)
ω1= 9.5 ω2=184.7

Yuichi Iga
3/31 20h11m(UT)
ω1=113.8 ω2=203.4

Yuichi Iga
3/28 20h28m(UT)
ω1=213.0 ω2=333.1

【各人からの観測報告】

●繭山浩司氏の観測報告から(1997年 4月19日)

月惑例会に出席できなくなってしまったので、今シ-ズンの観測報告をさせて頂きます。

今シ-ズンは3/28、3/30、3/31に観測することが出来ました。観測した時刻の2系の中央経度はそれぞれ116.0、47.8、196.7でした。

RS

  • 注目されている大赤斑付近ですが、幅の広い浅いbayとして見えていました。
  • 大赤斑本体は捉えられていません。
その他の模様

  • SEBはNEBと同じ位濃く、南組織が濃く見えている経度や、北組織が濃く見えている経度などがあります。
  • STBは大赤斑付近では淡くなっているようで確認できませんでしたが、SSTBは木星面のかなりの経度で濃く見えているようです。
  • またNTBも見ることができました。
私の今シ-ズン初めのイメ-ジとしては、ここ数シ-ズンの初め頃に比べ、木星面のコントラストが強く感じられる気がします。


●堀川邦昭氏の観測報告から(1997年 4月 8日)

ようやく仕事が一段落して、明日まで自宅「療養」です。4-5月は大きな出張もなさそうなので、じっくりと大赤斑とSTrZの白斑の会合が眺められそうです。
それにしても天気が悪いですね。でも今朝、ほぼ1週間ぶりに観測できました。

4/ 7 20h01m(UT) 29h01m(JST) ω1=132.6 ω2=169.7

その他の模様
  • EZがかなり明るく、NTZはNTrZと同じくらいshadeされ、暗い。


●堀川邦昭氏の観測報告から(1997年 4月12日)

今朝、例の白斑と大赤斑を見ることができましたので報告します。

4/11 19h55m(UT) 28h55m(JST) ω1= 41.2 ω2= 46.8

STrZの白斑

  • 例の白斑が中央に見える。SEBsのbayは凹みが浅く不明瞭だが、周囲のSTrZがshadeされてやや暗いため、白斑状に見える。
  • 白斑前端からRS後端にかけてのSEBが淡く、大きなRS bayのよう。
  • RSに到達しているかはわからないが、まだのように見える。
RS

  • RSは輪郭のぼやけたshade状で赤みなし。
  • 後方のSEBの明部は確認できず。
その他の模様

  • NTZ以北全体が強くshadeされ暗い。
  • ω2=50°付近から後方で、NTBが北側に拡散して幅広くなっている。


●伊賀祐一氏の観測報告から(1997年 4月20日)

天候が悪いのと出張とかが重なって、木星を久しぶりに観測しました。

4/17 19h50m(UT) 28h50m(JST) ω1=105.9 ω2= 73.6

  • 大赤斑の南半分ががかろうじて認められるが、赤味はない。
  • シーリングが悪く、STrZの白斑は見えなかった。
  • STrZ白斑より前方のSEBは濃い。
4/19 19h52m(UT) 28h52m(JST) ω1=220.1 ω2=165.1
  • 永続白斑FAが何とか西縁に認められた。
  • SEBがCMから前方で淡くなっている。

●堀川邦昭氏の観測報告から(1997年 4月24日)

昨朝、今朝の観測報告です。昨日はシーイングがよく、今シーズン初めて比較的シャープな木星面を見る事ができたのですが、そういう時に限って経度の巡り会わせが悪いものです。今朝はちょうど例の白斑と大赤斑が回ってきていたのですが、寒気が入り込んでまたシーイングが悪くなってしまいました。

4/22 19h45m(UT) 28h45m(JST) ω1=331.2 ω2=253.0
4/23 19h46m(UT) 28h46m(JST) ω1=129.8 ω2= 43.8

STrZの白斑

  • 例の白斑は、前端部が濃くこぶ状に盛り上がって見える。
  • 白斑本体はぼんやりして 4/11よりも目立たない。
  • 後端部も小さなprojection状でRS bayと分離できる。
RS

  • RSは相変わらず赤みなく、輪郭はぼやけているが、後ろ半分は明るいchannelによって SEBsから分離できる。
その他の模様

  • どちらの経度でもSTBは淡化し、代わりに拡散したSSTBが見えている。ただし、ω2=220°付近から前方ではやや北寄りで、STBのしっぽが見えているらしい。
  • NEBは幅広く、内部には濃淡があり、今シーズンもriftの活動が続いているよう。北縁にはbargeのような暗部がいくつか見える。
  • NTBは4/22には確認困難なほど極めて淡かったが、4/23は淡いながらもよく見えた。


●伊賀祐一氏の観測報告から(1997年 4月28日)

4月26日(UT)に木星を比較的好条件で観測しました。昨年度と比べて赤緯が少し高くなり、明け方の地平高度が高くなった気がします。

4/26 19h21m(UT) 28h21m(JST) ω1=226.6 ω2=118.1

STBと永続白斑

  • 大赤斑が西に傾き、永続白斑BC,DE,FAが3つ並んで見える。
  • 永続白斑BC-DE間のSTBは濃く見えている。
  • BCより前方のSTBはやや北寄りながら、大赤斑の方に伸びている。
  • FAから後方のSTBは逆に南にシフトして、さらに後方に伸びている。
その他の模様

  • SEBは大赤斑後方からCM付近までSEBsが濃く、CM後方では逆にSEBnが濃くなっている。
  • SEBZは比較的明るい。
  • EZBが継続して見えていて、CM付近にNEBから3本のFestoon群と白斑が見える。
  • NEBは全体として赤味が強く、幅も広く、昨年と同様に見える。
  • この経度のNTBは見えている。ω2=110°ぐらいにNNTBにシフトする箇所が見える。


●堀川邦昭氏の観測報告から(1997年 4月30日)

伊賀さん、浅田さんの報告が出てしまい、遅きに失した感もありますが、最近の観測報告をします。ご両人の報告とほぼ一致しています。29日の朝は例の白斑が見えるチャンスでしたが、残念ながら曇ってしまいました。

4/24 19h20m(UT) 28h20m(JST) ω1=271.1 ω2=178.3
4/26 18h42m(UT) 27h42m(JST) ω1=204.2 ω2= 95.9
4/26 19h42m(UT) 28h42m(JST) ω1=240.8 ω2=132.1
4/29 19h39m(UT) 28h39m(JST) ω1=352.6 ω2=220.9

永続白斑

  • 今シーズン初めて永続白斑を見た。DEが明るくよく目立つ。FAも昨シーズンより明瞭で、輝度はDEよりやや劣るが容易に認めることができる。BCはDE前方のshadeにまぎれて確認できなかった。
  • 昨シーズン各永続白斑の間に見られた白斑やBayは消失したらしい。
STB

  • STBはDE後方で濃いベルトに見える。前方RSまでは拡散して淡い。FA後方では昨シーズンと同じく 北縁が侵食され、SSTBへとつづいている。
  • ただし、南へシフトする場所は昨シーズンより傾斜がゆるやかで、はっきりとした境界は捉えられない。
SEB

  • RS後方のSEBが淡い。他の経度でもNEBに比べて淡いがこのあたりは一段と淡い。
  • 内部には白斑群の存在をうかがわせる不規則な濃淡が見られるが、詳細はわからない。
  • この状態はω2=130-140°あたりまで続いている。
その他の模様

  • EZには比較的大きなfestoonが多数認められるが、EBなどの模様はまだ見えない。4/26はかなり良いシーイングであったが、それでも明瞭な模様は認められなかった。
  • NTBはω2=100°付近に「床屋の看板構造」が存在し、後方でNNTBへと変化している。この後方のNTBはかなり淡く、NNTBの方が目立っている。この状態がどのあたりまで続いているかは未確認。


●浅田秀人氏の観測報告から(1997年 4月30日)

しばらく、火星と太陽に明け暮れていましたが、ようやく木星を見始めています。近頃の火星に比べると3倍もの大きさがあり、安心して覗けるのが嬉しいですね。

4/12 20h09m(UT) 29h09m(JST) ω1=207 ω2=206
4/25 19h43m(UT) 28h43m(JST) ω1= 83 ω2=342
4/26 19h39m(UT) 28h39m(JST) ω1=239 ω2=130
4/28 19h25m(UT) 28h25m(JST) ω1=186 ω2= 62

概観

  • 昨シーズン末期に比べ、各belt,zoneが実にコントラストよく均整がとれている感じ。
  • 両極付近は今シーズンも南極側に濃度がある。
  • 北半球は全般に、昨シーズン末期に見られたように、今も若干赤味を帯びている。
RSとSTrZの白斑

  • 28日は何とかRSと対面しました。極めて悪条件で、眼視ではWS-BayとRS-Bayが一体化していました。画像ではRS-Bayの前端が未だしっかりしているようで、そのすぐ左のSEBsがぼやけており、そこがWS-Bayなんでしょう。
  • 因みに、RSはモニタでCMTを取りました。II=60.4です。衝までは前寄りの数値になるとのことですが、それを差し引いても、後退から逆転して前進に転じたものと思われます。
その他の模様

  • STBは昨年同様に螺旋階段状。
  • STBの終点(SSTBと合流)はII=240付近。
  • 永続白斑はいずれも明るく目立っている。FAが143で、30度前方にDE、さらにその前方15度にBCが見える。いずれも南に開いているから、他の白斑と見違えていることはないでしょう。
  • SEBはRS直後からSEBnが細く、引き続きSEBZが活動している。これの終点はII=140付近。
  • SEBs南縁は今も凸凹状態の所が多く見られる。
  • EZは濃いfestoonが立ち並び、ovalとのコントラストが顕著。
  • NEBは北縁が多少波打っている昨年と同じ姿。
  • NTBはII=280〜40で通常のbelt.他の経度はどれがNTBなのか不明。
  • NTZの70?〜130がshade状態。NTB,NNTBのどちらかの活動か?


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