天文ガイド 惑星の近況 2000年11月号 (No.8)
伊賀祐一
8月は太平洋高気圧の勢力が強く、惑星観測は良い条件に恵まれます。今年の8月は特に暑かったおかげか、木星が31日間(のべ161人、358観測)、土星が25日間(のべ47人、80観測)と充実した観測が得られました。
木星:STBと白斑'BA'
STB(南温帯縞)の白斑'BA'は、8月3日UTにII=316.6°に位置し、経度方向の長さは8°で、合体前のBEとほぼ同じ大きさをしています。条件が良いと、BAは周りを暗部に取り囲まれた楕円形と見えます。ただあまり輝度がないこと、青色光でやや明るく見えること、そして阿久津富夫氏のメタンバンド画像では明るい白斑であることなどの特徴が見られます。1ヶ月間のドリフトは-13.0°/月で、8月27日UTにはII=309.8°まで前進しています。

BAの後方に40°ほどのSTBが見られますが、それ以外の経度ではSTBnだけが見えています。またSTBsにはいくつかの暗斑が見られ、II=130°に小暗斑(#1)、II=180-205°に暗斑(#2)のセクタが、II=0-30°に最近に形成された3個の暗斑があります。8月23日にII=220°のSTZに新たな暗斑が観測され、ほとんど停滞しています。STBnのII=140°付近(ちょうどSTBs暗斑#1)から前方には、今シーズンもSTBn jetstreamに乗った高速前進暗斑がいくつか見つかり、順次大赤斑にぶつかっていきました。

●大赤斑とSTrZ band

RS(大赤斑)は経度II=75.0°に位置し、オレンジ色がやや濃くなってきました。7月にはRSをぐるりと回って、RSから前方のSTrZ(南熱帯)に向けてdark streakが形成されました。8月に入ると、このstreakの先端はさらに前方に伸び、8月1日UTに0°,10日UTに320°に達し、STrZ bandと呼べるような100°ほどの長さに成長しました。そして、ちょうどBAの北で伸長は止まったようで、8月後半にはRSの南側を回るアーチ構造も弱くなり、全体の活動が穏やかになりつつあります。

●SEBとEZsの活動

SEB(南赤道縞)は全体として淡化傾向にあります。全経度に渡ってSEBsは濃く見えていますが、SEBZは明るくなっています。そして、まだSEBnは淡く見えていますが、気流が悪い時にはなくなったかのように見えます。なお、II=330から50°までの間は、SEBcが細くベルトとして見えます。明るくなったSEBZには、8月から2個の赤い斑点が出現しています。8月5日UTにはII=211°と235°でしたが、29日UTにはそれぞれII=147°、180°まで前進してきました。まだ、この斑点がどのような役割を持つものか分かりませんが、9月中旬にはRS後方に達しますので、注意が必要でしょう。 EZsのGWS(大白斑)は、8月1日UTにはI=215°に位置し、第I系に対して+1.2°/日で後退しています。展開図ではII=190°付近にGWSが、その直前のII=180°付近に先行する暗部が見られます。GWSは第II系に対してはゆっくりと前進することになり、7月20日頃にRSの北を追い越してから50日後の9月10日頃に再びRSを追い越します。

●NEBのRiftの活動

NEB(北熱帯縞)は全周に渡って複雑な構造が見られます。NEBsには青みの強いfestoonのような活動的な模様が集中している100°ほどの領域と、比較的活動の穏やかな領域に分かれています。このNEBsは第I系に近いドリフトを示しています。一方、第II系のNEBnは、II=50から150°と180から240°までが北縁にNTrZの白斑の湾入が見られる領域と、II=280から50°までのNEBの幅が北に拡張した領域に分かれています。この2つの系にはさまれたNEBには、白いRift構造が斜めに流れているのが見られます。NEB中央の小さな白斑を起点として、Rift構造が左右に広がっていく様子が観測されました。

●NNTBのBAR

NNTBには赤味の強いBARが目立っています。経度はII=0°付近に停滞しており、長さは15°ほどあります。このBARよりもやや南寄りのNNTBsに暗斑がいくつか見られ、-77°/月で前進しています。

図1 2000年8月26-28日の木星展開図
撮影/阿久津富夫(32cm反射)、池村俊彦氏(31cm反射)、永長英夫氏(25cm反射)、前田和儀氏(35cm反射)(拡大)
土星
土星も精力的に観測が続けられています。気流の良くなった8月には良い観測画像も得られるようになりましたが、赤道付近の白斑などの目立った現象はまだ観測されていません。
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