天文ガイド 惑星の近況 2002年10月号 (No.31)
伊賀祐一
2001-2002年の木星観測(2)
先月号に続けて、月惑星研究会の2001-02年のシーズンの木星観測を紹介します。今月は既に本誌で紹介したメンバーのCCD画像です(写真1)。観測は2001年7月に始まり、衝は2002年1月1日で、観測は5月末まで行われました。

写真1 2001-2002年の木星観測(その2)(拡大)

これらの画像から、木星面の緯度別に先シーズンの木星面の特徴をまとめてみましょう。

●SSTB(南南温帯縞)の白斑のマージ

シーズンを通してSSTBには6個の小白斑が見られました。このうちの2個の小白斑の距離が縮小し、2002年1月頃に小白斑の間に逆回転の渦が発生しました。2002年2月25日の画像のGRS(大赤斑)の右上の後方2個の小白斑がマージする直前の様子です。3月中旬にこの渦が消失した直後から、2個の白斑は急接近を始め、3月25日にはこれらの2個の小白斑がマージして1個の白斑になりました。

●STB(南温帯縞)の白斑'BA'

STBに位置する白斑'BA'は、輝度も明るくなく、周囲を取り囲む暗いエッジもないために、非常に見にくい対象でした。11月22/23日の画像では、GRSの後方に近づいています。白斑'BA'は2月中旬にGRSの南を通過しましたが、2月25日の画像のように、特に大きな変化もなく無事にGRSを通過しました。

●STrZ(南熱帯)

GRSの経度は2001年7月のII=75°から2002年5月のII=81°まで、ゆっくりと後退しました。2000-01年は、ほぼII=75°付近で停滞していましたので、再び後退が始まったようです。GRSはややオレンジ色の楕円形で、それほど目立つものではありませんでした。また、GRSの前方には周りを暗いエッジに囲まれた白斑がシーズンを通して見られ、ゆっくりと後退しています(2002年2月20日の画像で中央右の白斑)。このままの後退速度だとすると、2002年12月頃にGRS直前まで接近すると予想されています。

2001年10月末からGRSの南側のエッジが暗くなり、streakの前兆が見られていましたが、11月7日にGRSから前方のSTrZにdark streakが伸び始めました。12月14日の画像ではII=0°まで伸びたstreakが見られます。2002年1月2日にはdark streakの後端がGRSから離れていく様子がとらえられました。この時のdark streakの前端はII=340°で、長さは90°まで成長しましたが、2月20日頃には消失しました。このstreakは1998年8月、2000年7月に引き続いて発生した現象です。

●SEB(南赤道縞)

SEBには大きな変化はなく、SEBの南北組織の二重構造がコンスタントに見られました。SEBs(南組織)には高速に後退する暗斑群が見られます(11月19日、3月13日、4月5日の画像)。GRS後方のSEB領域の活動も穏やかで、特に目立つ白斑の活動も見られませんでした。

●EZ(赤道帯)

EZも変化が少なく、EZnに見られるfestoon(フェストーン)も比較的穏やかな活動状況でした。

●NEB(北赤道縞)

NEBは北方に幅の広がった拡幅期に入り、NEB中央に8個の赤茶色の暗斑バージ(barge)と、NEB北部に7個の白い白斑ノッチ(notch)が観測されました。2001年8月〜12月には、NEBのII=150°付近で巨大なリフト(rift)が活発で、連続して発生する白斑がリフトを維持している様子が見られました。11月10日にはリフトの影響で接近していた2個のバージが、1つにマージすると貴重な現象が観測されました(11月22日の画像の中央にマージ後の細長いバージが見られる)。

2002年1月にはII=100°のNEB中央に発生した白斑が急速に前進を始めて、新しい活動期に入りました。この白斑の前進によって、1月24日にII=60°で、2月4日にII=45°で、それぞれバージが消失するという現象が観測されました。4月には、NEB南部は白斑群に伴って発生したリフトが全周をおおうようになり、明るくなりました(3月13日、4月5日の画像)。また、NEB北部もII=140〜360°の範囲で明化が進み、NEBは衰退期を迎えつつあります。

●NTB(北温帯縞)

NTBは全周に渡って1本のベルトとして見られました。特に目立った模様の出現もなく、またNTBsに見られる高速ジェット気流NTC-Cも今シーズンはほとんど見ることはできませんでした。

●過去4シーズンの木星の展開図

写真2は、1998年からの4シーズンの木星の展開図を並べたものです。毎日変化する木星面ですが、経年変化を追いかける楽しみがあります。
写真2 過去4シーズンの木星面の変化


1998-99年は、SEBにmid-SEB outbreakという突発現象が起こり、SEB内を白斑と暗柱群が埋め尽くしました。また、1998年8月にはGRS前方のSTrZにstreakが発生しています。1998年3月にBCとDEがマージしてできたBEがII=260°に見られます。

1999-00年は、STB白斑のBEとFAがマージしてBAが生まれたシーズンです。GRSの右上に接近している2個の白斑があり、その後の2000年3月にマージが起こりました。

2000-01年には、EZsのGWS(大白斑)の活動が活発でした。GWSは1999年10月に発生したもので、ほぼ50日周期でGRSを追い越す際に活発になります。ちょうどGRSの下を通過しています。NEBが活動的になり、一部の経度ではNEBの幅が北に広がりつつあります。

2001-02年は、NEBの拡幅期となり、バージやノッチの面白い変化や、巨大なリフトの活動が観測されました。GRS前方のSTrZにはstreakの出現が見られます。

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