7月20日に合を終えた木星の最初の観測は、合の18日後の8月6日UTで、筆者の眼視スケッチでした。翌7日(以降日時はUT)には高度11°という低空にもかかわらずCCD画像を得ることができました。8日には堀川邦昭氏(横浜市)、16日には永長英夫氏(兵庫県)・安達誠氏(滋賀県)、22日には風本明氏(京都市)と観測者が増えていきました。8月に報告のあった7名の観測を写真1で紹介します。日の出時の高度が20°を超えた21日以降は、CCDでもクオリティが上がってきています。8月後半は台風の影響もありましたが、やはりどっかりとした太平洋高気圧のおかげで、シーズン初めだというのに、2枚の展開図を作成することができました(写真2)。2001-02年のシーズンの最終観測は6月3日で、2ヶ月ほどの観測の空白期間での変化を追いかけるのがシーズン初期のテーマです。
写真1 2002年8月の木星面 観測者/(左上から)伊賀祐一(京都市)、安達誠(滋賀県)、風本明(京都市)、 永長英夫(兵庫県)、堀川邦昭(横浜市)、米山誠一(横浜市)、平林勇(日野市)(拡大) |
写真2 2002年8月21/22/24/25日の観測からの木星展開図 撮影/永長英夫(兵庫県、25cmニュートン、NEC PICONA)、 風本明(京都市、31cmニュートン、NEC PICONA)(拡大) |
●SSTB〜STB
SSTB(南南温帯縞)は大きな変化はないようで、濃いベルトはII=140-190°,II=280-40°の領域です。
STB(南温帯縞)は大赤斑の後方のII=140-190°でやや濃いベルトが見られますが、昨シーズンと同様にこの後方では南に階段状にシフトしてSTBs(南組織)を形成しているようです(28日の堀川氏スケッチ)。これとは別に、II=15°付近にSTBに暗斑がありますが、これをSTB白斑'BA'を見つける目印にしてください(31日の平林氏スケッチ)。残念ながら'BA'はまだ検出されていませんが、この暗斑の直前のII=0°付近に存在しているものと思われます。
●GRS
GRS(大赤斑)は、7日の画像の右端にも写っていますが、II=83.5°と少し後退しています。24日の永長氏の画像に見られるように、GRSの南側を暗部が取り巻いており、これはGRS前方からSEBsを高速に後退してきた暗物質が、GRSの周囲を左回りに回りこんできたものです。この状況は、1998年,2000年,2001年に見られたGRS前方のSTrZ(南熱帯)のダークストリーク(dark streak)の発生直前に近い雰囲気です。31日の平林氏のスケッチではSTrZに暗いベルト状の模様が見えていますが、今後の観測で明らかになるでしょう。
●SEB
SEB(南赤道縞)は淡化することもなく、昨シーズンから大きな変化は起こっていないようです。SEBsとSEBnの南北組織に分かれて見え、II=280-70°ではSEBsが濃く、それ以外の領域ではSEBnが濃く見えています。GRS後方の定常的な擾乱(じょうらん)領域にも明るい白斑の出現も見られないようです。
●NEB
NEB(北赤道縞)はまだ活発な活動が見られます。昨シーズンはNEBの拡幅期でしたが、4月頃から衰退期に入り、元の幅のNEBに戻りつつありました。8月では、II=40-130°の90°の領域だけが幅の広い状況ですが、それ以外のNEBは幅が狭くなっています。ただし、NEB内部には白いリフト(rift)が斜めに走る様子が2ヶ所(II=50-130°、II=250-280°)で見られます。一方、NEBn(北組織)の赤茶色の斑点バージ(barge)は、昨シーズンの6個から2個と減少しています。NTrZ(北熱帯)に見られる白斑ノッチ(notch)も、昨シーズンの5個から3個に減少しています。まだ条件が良くないからかもしれませんが、少し変化が見られます。NEBs(南組織)の南に見られる青暗いフェストーン(festoon)は全体としては活発ではありませんが、I=240,275°のものは特に暗く見られます。
●NTB〜NNTB
NTB(北温帯縞)は全周に渡って暗い1本のベルトとして見られます。またNNTB(北北温帯縞)以北は全体として暗く、目立った模様は見られません。
新しい2002-03年の観測シーズンを迎えた木星ですが、合の間に大きく変化した様子はなかったようです。これからのテーマとしては、STB白斑'BA'はどうなっているか、STrZにダークストリークが発生するのか、EZs(赤道帯南組織)に見られる白斑状のものはGWS(大白斑)なのか、などが挙げられます。
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