天文ガイド 惑星の近況 2003年3月号 (No.36)
伊賀祐一
2002年12月は本格的な冬の気圧配置となり、晴れる日も少なく、欠測日が多くなりました。22日から年末にかけてややジェット気流もおさまり、ようやく観測報告が集中するようになりました。今月の惑星観測は、木星が19人(内海外8人)から242観測(28日間)、土星が14人(内海外5人)から64観測(24日間)、火星が4人(内海外2人)から15観測(10日間)の報告を受けました。
木星

@ mid-SEB outbreak

GRS(大赤斑)後方のSEB(南赤道縞)に活発な白斑の活動が観測されました(図1)。12月23日に永長氏(兵庫県)から、「22日UTの画像でII=143.3°のSEBに輝く白斑が見られる」との報告がありました。さらに同日夜にBAAのJohn Rogers氏からも「22日UTのJ.R.Sanchez氏(スペイン)の画像のII=143°に明るい白斑が出現している」とのメールが入りました。その後のメンバーからの観測報告では、この白斑はさらに輝きを増し、年末には暗くなっている様子がとらえられていました。GRS後方には定常的に白斑の入り混じった擾乱(じょうらん)領域が見られるのですが、今回の白斑の出現経度はこの活動領域のすぐ後方です。
図1 mid-SEB outbreak

SEBに次々に発生した明るい白斑がSEBnに潜り込む。
撮影/永長英夫(兵庫県)、中西英和(愛知県)、風本明(京都市)

SEB内部の活発な白斑の活動としては、mid-SEB outbreak(SEB中央の白斑突発現象)があります。発生源から次々と白斑が供給され、SEB内部をかなり早い速度で前進し、SEBを白斑で埋め尽くす現象です。最近では1998年3月にII=350°で発生したmid-SEB outbreakは、半年間に渡り活動を続け、過去最大の活動を見せてくれました。この白斑群は前進してGRS後方にさしかかると、GRS後方の擾乱領域とは混じりあわない特徴を持っています。

今回のSEB白斑は、14日UTの永長氏とD.Peach氏(英国)の画像で発生がとらえられ、Peach氏の画像では2個の白斑からできていることが分かりました。その前方の白斑が輝度を増すと同時に、SEBnにもぐりこむように北方に前進しています。さらに22日UTには後方の白斑が輝度を増し、その後同様にSEBnを前進しています。さらに28日UTには第3の白斑が発生源から供給されました。これらの前進した白斑は、いずれもGRS後方の擾乱領域とは混じらないようにSEBnで隔てられています。これらのことから、擾乱領域とは独立した現象である、mid-SEB outbreakの可能性が高いと考えられます。

A NTBの淡化

先月号で紹介したようにNTB(北温帯縞)が急速に淡化しています。それまで濃い1本のベルトであったNTBが、11月中旬から半月ぐらいの間に急速に淡くなりました。12月中旬にはほとんどの経度でNTBは消失しました。12月31日UTには、II=330°とII=10〜40°の3ヶ所の領域に短い暗部が残っているだけですが、この暗部は第II系に対するドリフトが-47°/月というかなり速い前進を示しています。NTBは濃化と淡化を数年毎に繰り返すベルトでしたが、1990年以降は安定した濃いベルトとして見られていましたので、今回のNTBの淡化は14年ぶりの現象ということになります。また、NNTB(北北温帯縞)のII=45〜70°にも暗部が見られますが、こちらは第II系に対して移動はしていません。

B GRSとSTB白斑'BA'

GRSはII=83°に位置していますが、GRS後方のSEBsの暗斑や、それらがGRSを左回りに回るためにGRS前方に短いストリークが見られることで、なかなか安定した経度を計測できません。また、STB(南温帯縞)の40°の長さの暗部が接近して別なストリークを作っていることも原因のようです。ただ、GRS自身には大きな変化は見られません。

STB白斑'BA'は、12月31日UTにII=319°に位置し、-12.5°/月で前進しています。11月よりもBAを取り囲むエッジが暗くなり、輝度は変わらないものの見えやすくなりました。STBの暗部がGRSを通過しようとしていて、その関係からGRS前方のSTBに新たな暗部が形成されつつあります。STBはGRSとの相互作用が強く現われるので注意が必要でしょう。

SSTB(南南温帯縞)には5個の小白斑がII=70〜160°に領域にきれいに並んでいます。これらの白斑はSTBよりは少し速い前進を示します。


図2 2002年12月31日の木星面
撮影/永長英夫(兵庫県、25cmニュートン)(拡大)

C その他

木星は2月2日に衝をむかえるために、一夜で木星の全周を観測することができます。図2は12月31日UTに永長氏が撮影した画像ですが、大晦日から元旦の朝までの木星をほぼ60°おきに並べてみました。これらの画像から作成した展開図を図3に示します。また、今シーズンの木星はほぼ真横から見ることができるために、ガリレオ衛星相互の食や掩蔽などといった面白い現象を見ることができます。

図3 2002年12月31日の木星展開図
図2の画像から作成した展開図(拡大)
土星のSTBの小白斑
今シーズンの土星には、STB(南温帯縞)に小白斑が時々見られています。自転を追跡できるような模様は少ないのですが、9月下旬にはIII=94°付近に出現した小白斑がありました。あまりにも小さいために日本の観測者はとらえることができませんでした。新たなSTBの小白斑が(III=310°)が12月22日UTに出現し、今回は中西氏(愛知県)がCCDでとらえることに成功しました(図4)。また、これとは別な小白斑がIII=230°に出現しています。
図4 2002年12月の土星

12月22日に発生したSTBの白斑が見える(矢印)。
撮影/上:熊森照明(堺市)、下:中西英明(愛知県)

火星
朝方の東空に見える火星は、2003年8月に大接近を迎えますが、まだ12月には視直径が4秒台でした。挑戦を続ける観測者もいますが、国内ではまだご紹介できるような観測は得られていません。前回の接近の2001年6月に発生した大黄雲の影響がどの程度残っているのか、気持ちがあせるばかりですね。

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