天文ガイド 惑星の近況 2003年4月号 (No.37)
伊賀祐一
2003年1月の惑星観測ですが、冬場の気流の悪さと寒さとの競争でした。それでも木星は2月2日に衝を迎えますので、21時ごろから観測が可能となり、観測者も増えて観測数も増大しました。今月の惑星観測は、木星が30人(内海外9人)から399観測(31日間)、土星が18人(内海外6人)から56観測(19日間)でした。火星は海外の2人から5観測(4日間)の報告があっただけでした。シーイングが良いこともあるのでしょうが、海外の観測者の質の高い画像に圧倒されています。
木星

@ mid-SEB outbreak

2002年12月に発生したmid-SEB outbreak(南赤道縞中央の白斑の突発現象)の活動は、大赤斑の後方に今月も見られました。mid-SEB outbreakは、II=140°付近の発生源から白斑が次々と供給され、SEB内を前進しています。大赤斑の後方には定常的な擾乱(じょうらん)領域がありますが、SEBnの暗部やストリークで区切られているために、今回の活動はmid-SEB outbreakの発生と考えられます。

図1に示すように、12月14日UTに発生した白斑は輝きを増し、SEBnに潜り込むように前進しました。画像からではEZs(赤道帯南組織)に吹き出しているようです。12月23日UTにはさらに発生源から新しい白斑が供給されました。2003年1月に入ると、4日UT、20日UT、28日UTと、ほぼ10日周期で新しい白斑が供給されています。これらは特徴的なmid-SEB outbreakの現象ですが、第1次の白斑の活動ほど輝度のないものでした。1998年3月に発生した同現象の模式図を図2に示しますが、前回はII=350°が発生源で、大赤斑後方までの経度差が240°もあり、半年間の活動期間と合わせて過去最大クラスのものでした。今回の出現は大赤斑後方での発生であり、大赤斑後方の擾乱領域がどのように影響を受けるのか注目しています。

図1 mid-SEB outbreak

撮影/永長英夫(兵庫県)、風本明(京都市)、T.W.Leong(シンガポール)
図2 1998年のmid-SEB outbreakの模式図


A NTBの淡化と北温帯流-B

NTB(北温帯縞)は全周で淡化し、またNNTB(北北温帯縞)も今シーズンは淡くなっているので、北半球には目立った模様は見えなくなりました(図3)。NTBは11月中旬に突然淡化が始まり、1ヶ月後には完全に全周のベルトが消失しました。何かのきっかけがあったのではないようで、全周に渡ってすーっと消えていきました。実に14年ぶりの現象です。

NTBは、かつては数年周期で淡化と濃化を繰り返すベルトでしたが、1990年以降は濃いベルトの状態を保っていました。そしてNTB南縁には、北温帯流-Cと呼ぶ木星面最速のジェット気流(9時間46-47分)に乗った模様が頻繁に観測されました。この北温帯流-Cの模様が、2001年以降は見えなくなっていて、活動パターンに変化が起こったものと思われます。

さて、淡化したNTBの緯度には、2ヶ所で短い暗部(BAR)だけが見られます。図3でII=310°とII=10°にあり、それぞれの長さは10°と25°です。この2個の暗部は、-45°/月というかなり速いドリフトを示していて、9時間54分40秒の自転周期を持っています。この自転周期は第I系と第II系の中間の値で、北温帯流-Bというジェット気流に属するものと思われます。北温帯流-Bは過去に観測された平均の自転周期では9時間53分8秒ですが、これよりはやや遅いものです。堀川邦昭氏によれば、過去に8回観測されてはいるものの、1945年以降は観測例はないという貴重な現象とのことです。


図3 2003年1月11/12日の木星展開図
撮影/永長英夫(兵庫県)(拡大)

B SSTB白斑の近年の動き

SSTB(南南温帯縞)には5個の小白斑が見られますが、1月にはちょうど大赤斑の南側に位置しています。最近のSSTB白斑の動きを図4にまとめてみました。2001年11月頃には7個の小白斑が、経度165°の範囲に分布していました。後方の4個の小白斑はかなり接近していましたが、最も後方の2個の小白斑はさらに接近し、2002年3月にマージ(合体)し、一つの白斑になりました。中段の画像はマージ直前のもので、お互いの白斑が左回りに回転をしている様子が見られます。

今シーズンの初めの2002年10月には、SSTB白斑は5個になり、さらに経度が90°の範囲に狭まっていました。合の間に後方の2個の小白斑のマージが起こったのではないかと思われます。図5は、9時間55分05秒という特殊な経度でプロットしたSSTB白斑の動きです。後方の白斑が前進速度を速めて、白斑間の距離が短くなっていることが分かります。また、これらの白斑は、意外に経度がふらついているものです。


図4 SSTB白斑の動き
月惑星研究会への報告画像から作成(拡大)

図5 SSTB白斑のドリフト図(拡大)
火星(安達 誠)

@ 今シーズンの火星観測

月惑星研究会には、内外から火星の観測が寄せられています。視直径はまだ5秒程ですが、優秀な光学系とCCDカメラの組み合わせですでに火星面の模様がとらえられています。肉眼での観測では、冬の気流の悪さも手伝い、模様をほとんど見ることができません。ほとんどの情報は海外からの画像によっているのですが、早く国内で良い条件になることを願っています。

現在、ソリスからシレーンまでの地域を除き、およその様子をつかむことができました。特に目立った模様の変化は観測されていません。また、大黄雲の後には暗色模様の変化が期待されるのですが、今のところ大きな変化はないようです。期待している人には残念な結果かもしれません。しかし、ソリスからシレーンまでは良い情報に恵まれていないので、まだ変化なしと決めるわけにはいきません。

A 8月の大接近に向けて

2001年に起こった火星の大黄雲は、惑星を観測している人にとってはまだまだ記憶に新しいものです。今年の大接近を心待ちにしている人にとって、気になって仕方がないことがあります。それはなんと言っても新しい模様の出現です。

1973年、火星に大黄雲が発生しました。この時は1971年に発生した翌シーズンで、2回連続の発生となり、火星観測者を興奮の渦に巻き込みました。黄雲は見る間に火星面を覆い、まるで金星のように模様のほとんど見えない不思議な世界をつくり出しました。

大黄雲の発生の様子もすごかったわけですが、その後にもっと不思議なことが起こりました。それは、ソリスとシレーンの間にあるダエダリアと呼ばれる地域(120°W,-30°)に大きな暗斑が出現していたのです。それまで火星の地図が多くの観測者によって作られてきましたが、全体的に見て大きな模様の変化は見られませんでした。淡い模様の変化はしばしば報告されていましたが、こんなに大規模な暗斑の出現は記録になかったのです。

2003年の観測シーズンは始まっています。「火星に新しい模様はできていないだろうか」と、 多くの研究者が火星を見つめています。

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