天文ガイド 惑星の近況 2003年5月号 (No.38)
伊賀祐一
2003年2月の惑星観測ですが、木星が2月2日に衝を迎え、観測者が非常に増えました。今月の惑星観測は、木星が43人(内海外14人)から373観測(28日間)、土星が15人(内海外3人)から49観測(21日間)でした。夜明け前の火星は6人(内海外2人)から14観測(9日間)の報告がありました。今月はサロンで紹介する新しい機材に挑戦された方が多かったようです。
木星

@ mid-SEB outbreak

2002年12月中旬にmid-SEB outbreak(南赤道縞中央の白斑突発現象)がII=143°で発生しました。発生源に生まれた輝く白斑はSEB内を急速に前進します。また、発生源では連続して白斑が供給されます。今回の発生源はGRS(大赤斑)のすぐ後方にあり、定常的な擾乱領域と活動が区切られている必要があります。最初のoutbreak発生から、12月に2次の白斑が発生し、さらに1月に3回の発生が見られました。2月にも明るくはありませんが、発生源から白斑の発生があったようですが、次第に擾乱領域の活動と区別が難しくなってきました(図1)。
図1 mid-SEB outbreakの2月の様子

月惑星研究会への報告画像から筆者作成

SEBは全体的には濃いベルトになりつつあります。SEBs(南組織)はII=240〜60°まで後退する暗斑群で埋められ、SEBn(北組織)はoutbreakの影響なのか、発生源の直後のII=150〜50°まで濃いベルトに見られます(図2)。


図2 2003年2月9/10日の木星面
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射、PICONA)、柚木健吉(堺市、20cm反射、ST-5c)(拡大)

A SSTB〜STB

SSTB(南南温帯縞)にはII=10〜90°の範囲に5個の小白斑がきれいに並んでいます。もう一つ、II=220°に別な小白斑が見られます。STB(南温帯縞)の白斑'BA'は、II=300°に位置し、直後に丸い小暗斑、さらにすぐ後方のSTBsに小白斑を伴っています。II=250°にも丸い小暗斑があります。唯一STBのベルトとして残っていた領域が、大赤斑の南側を通過していきました。大赤斑を南に迂回するかのように、STBが湾曲し、そしてベルトが細かな暗斑に分解しています。

B NEB北縁の白斑'Z'

NEB(北赤道縞)は比較的全体が一様な、赤味のあるベルトです。NEB南縁には青暗いフェストーン(festoon)が数多くあり、2月には時々丸い形状をしたfestoonも出現しました。NEB北縁には、6個の赤茶色のバージ(barge)がII=20,100,200,235,255,340°にありました。図3は過去3シーズンのNEB北縁のバージを黒丸で、NTrZ(北熱帯)の白斑を白丸でプロットしています。図中に'Z'と示しているNTrZ白斑は、寿命が長いことと、他の模様に比べて前進速度が速い特徴を持っていますが、過去に前進する際にNEB北縁のバージを食いつぶして消失させています。この'Z'白斑がII=260°に位置し、まさにその前方のバージに接近しています。これから短期間の間に、バージが次第に見えなくなるかもしれません。

図3 NEB北縁のバージとNTrZ白斑'Z'
月惑星研究会への報告画像から筆者測定(拡大)

C NTBの淡化と北温帯流-B

1989年から14年ぶりにNTB(北温帯縞)が淡化したためか、北半球には見える模様が少なくなってきました。2月末で、II=240-250°とII=310-330°に細い暗部(bar)が見られます。この2個の暗部の動きは、平均的な第II系に対してかなり高速に前進しており(-45°/月)、北温帯流-Bと呼ぶ約9時間54分40秒の自転周期を持っています。

火星(安達 誠)
2月末に視直径は6秒を越えてきました。最も小さな時の4秒弱の火星を眺めていると、この6秒の火星は大きくなったなと思います。しかし、肉眼では依然として模様の検出は難しく、大きな模様の存在が分かる程度です。 画像では、厳しい条件ながらいくつもの報告が寄せられています。最近のCCDカメラと処理などの発達はすばらしく、現在までに火星の模様のおおまかな姿がとらえられています。1973年の大黄雲の発生の後、南半球のソリスのすぐ西に位置するダエダリアが暗い斑点となって出現しましたが、今回もこの部分に大きな変化が期待されています。しかしながら、現在の所、この部分を良い条件で記録したものはまだありません。 全体として目立った大きな模様の消長はありません。しかし、視直径が小さいながらも小規模な雲が観測されています。1月2日にイギリスのダミアン・ピ−チ氏はエリシウムのすぐ北に雲をとらえています。エリシウムは高地になっており、しばしば山岳雲が出現する所ですが、そのすぐ北側に雲が出現して、まるで「ひょうたん」のような明部ができています。その1ヶ月後にも同じ部分に雲が残っていました。砂嵐が1ヶ月も同じ所に留まることはなく、これは白い雲だったようです。 火星では現在、南極冠が形成されようとしています。これから先、しだいに南極がこちらの方に向いてきて、白く明るい極雲が見えてくるようになることでしょう。
図4 2003年2月の火星

撮影/Damian Peach(カナリー諸島28cmSCT ST-5c)、安達 誠(滋賀県31cm反射)、池村俊彦(名古屋市31cm反射PICONA)、伊賀祐一(京都市28cmSCTToUcam Pro)

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