天文ガイド 惑星の近況 2003年6月号 (No.39)
伊賀祐一
2003年3月の惑星観測ですが、木星が50人(海外23人)から486観測(30日間)、土星が12人(海外4人)から26観測(15日間)でした。夜明け前の火星は8人(海外2人)から18観測(8日間)の報告がありました。木星は夕方から観測できるようになり観測数が増し、また新しいToUcam Proビデオカメラでの撮影によってシーイングに悩まされながらも品質が一段と良くなりました。
木星

@ STrZ白斑が大赤斑に急接近中

3月初めにSTrZ(南熱帯)に形成された白斑が、急速に大赤斑(GRS)に接近していて、大赤斑との会合が注目されています(図1)。SEBs(南赤道縞南組織)のII=200°付近から後方では、暗斑やドーナツ状の白斑がジェットストリームに乗って後退しています。これらのうちで、3月7日UT頃にII=20°でSTrZに露出したドーナツ状の白斑が形成されました。この白斑は3月25日頃までは+1.9°/日という速い速度で後退していましたが(図3左)、3月末には+0.76°/日まで次第に減速して、3月29日UTにII=63.5°に位置しています。大赤斑孔の前端まで10°まで迫っており、このままのドリフトが続くと4月中旬には大赤斑に達すると予想されます。この時、STrZ白斑は大赤斑の周りの巨大な反時計回りの渦に取り込まれ、大赤斑の北側をぐるりと回りこむものと思われます。
図1 大赤斑に急接近するSTrZ白斑

撮影/永長英夫、風本明、熊森照明、E.Grafton、E.Ng、D.Peach、C.Pellier、T.WeiLeong

STrZ白斑が大赤斑と会合する現象は1997年5月に観測され、STrZ白斑は大赤斑前端に達すると、約2週間で半周しました。また、昨年の2002年10-11月にも会合が観測されましたが、この時は白斑自身の後退速度が非常に遅かったためか、約2ヶ月ほどかかっています。今回の白斑の後退速度は速く、会合が起こると短期間で大赤斑の周りを移動するのではないかと思います。巨大な渦どうしの会合現象というまたとない機会ですので、世界的に注目されています。

A STB白斑'BA'の淡化

STB(南温帯縞)の白斑'BA'は、3月31日UTにII=284.9に位置しています。ところが、3月中旬からBAの輝度が極端に淡くなっています(図2)。それまではBAの周りを暗部が取り囲み、BA本体の輝度は低いものの、比較的容易に見つけやすいものでした。しかしながら、3月10日UT頃からBAの周りの暗部が薄くなり、BA自身もやや赤味がかって輝度がなくなっています。BAの直後で目印になっていたSTBの暗部も縮小し、丸い暗部になったことも見つけにくさの要因になっています(図3右)。このBAは、1939年ごろに生まれた3個の永続白斑が順次合体を繰り返して、2000年3月に1個になったものです。すぐに消失することはないものと考えていますが、要注意です。
図2 淡化しつつあるSTB白斑'BA'

撮影/永長英夫、風本明、熊森照明

B NTrZ白斑'Z'

先月号でお伝えしたNTrZ(北熱帯)の白斑('Z'と呼ばれる)は、1997年から追跡されている長寿命の白斑で、この緯度の他の白斑に比べてかなり高速に前進を続けているものです。そのために過去にはNEBn(北赤道縞北組織)にあるバージ(barge)を追い越す際に、バージを消失させる現象を引き起こしてきました。その白斑Zが2月末にII=255°にあるバージの後方10°まで接近していました。しかしながら、3月に入ると白斑Zの前進速度は鈍り、逆に前方の2個のバージがやや加速しています。このために、3月下旬にはII=250°の後方に巨大なNEB北縁への湾入として観測されています(図3右)。
図3 2003年3月の木星面

撮影/左:熊森照明(60cm反射) 右:風本明(31cm反射)

C その他の現象

大赤斑後方に2002年12月中旬に発生したmid-SEB outbreakは、2月まではII=140°の発生源からの白斑の供給が見られていましたが、3月には急速に活動が衰え、太いSEBnが大赤斑後方まで前進しました。

淡化したNTBには北温帯流-Bのジェットストリームに乗る2個の暗部(BAR)が見られています(図3右)。この後方の暗部はやや淡くなりつつあります。

3月の火星(安達 誠)
火星は3月には視直径が6秒を越え、ふだん火星を観測している人には、もっとも小さい時の2倍の大きさの火星を見ることができ、いよいよ火星のシーズンがきたという気持ちになってきました。この大きさになると主な模様は肉眼でも見えるようになってきています。

月惑星研究会関西支部には、世界中の観測者から観測報告がたくさん届きます。現在はインターネットの普及にともない、24時間体制で火星の監視活動ができるようになってきました。おそらく今年は前回の2001年以上にたくさんの観測が集まると思われます。

今月の最大の関心事は、なんと言っても南極冠の姿を確認することです。南極冠が最大になるのはLs(火星から見た黄経で、火星の季節を表す値)が140°くらいの時期に当たりますから、3月はまさしく南極冠が最大になって見える時に相当します。

図4 3月の火星(視直径 6.7-7.4秒)

観測/池村俊彦(名古屋市、31cm反射)、風本 明(京都市、31cm反射)、安達 誠(大津市、31cm反射)

3月の最初の報告は天候の関係で名古屋の池村氏の3月15日UTが最初となりました(図4)。この画像では、南極に雲がかかっていることがよく分かります。良い気流ではないので模様ははっきりしませんが、南極の雲が明らかに認められます。よく見るとこの雲は東西に2つの明るいところから出ていることが分かります。一つは南極の雲。さらにもう一つは西の端から出てきた霧によってできたものです。おそらく左側(東)の明るい部分は極冠だと思われます。

3月20日UTは気流がよかったようで、池村氏の画像では南極冠がしっかり白く見えています。3月22日の観測では、明らかに南極冠がとらえられました。この大きさになると肉眼でもとらえられるということです。

南極冠はこの後次第に小さくなるのですが、Deの値が変化し、地球からはよく見えるようになりますから、かえって大きくなってきたような錯角を覚えることでしょう。暗い模様は、特に目立った変化はありませんが、南極付近のもやのせいか、この辺りの模様ははっきりと認められませんでした。部分的には濃いベルト状の暗い模様が南極冠を取り巻いているところも見られています。

このあと、火星の季節は春になり南極冠が次第に融けて小さくなっていく様子が見られることでしょう。また、2001年の大黄雲の影響を受け、新しい模様が出現しているのではないかと期待される、南半球のダエダリアの様子もはっきりすることでしょう。視直径が大きくなってくる火星の観測はこれからますます重要になります。

●第27回 木星会議

6月21/22日に福岡大学にて木星会議が開催されます。世話人は福岡大学の竹内覚さんです。詳しい情報はWEBをご覧ください。
http://www.cis.fukuoka-u.ac.jp/~takeuchi/JupiterConf27th/

前号へ INDEXへ 次号へ