天文ガイド 惑星の近況 2003年7月号 (No.40)
伊賀祐一
2003年4月の惑星観測は、木星が43人(海外15人)から430観測(28日間)、土星が4人から8観測(7日間)でした。夜明け前の火星は21人(海外7人)から143観測(25日間)の報告がありました。
木星:STrZ白斑が大赤斑と会合
先月号でお伝えしたSTrZ(南熱帯)のドーナツ状の白斑が、GRS(大赤斑)と会合する現象をとらえることに成功しました。画像1に示すように、4月15日UTに白斑は大赤斑との会合が始まり、20日UTまでの6日間で大赤斑の北側をぐるりと半周しました。
画像1 STrZ白斑と大赤斑の会合

白斑が6日間で大赤斑を半周する様子。世界の木星観測網の観測画像を使用。

3月初めにSTrZに押し出されるようにして形成された白斑は、+0.76°/日のドリフトで後退して、大赤斑前方に接近し、4月13日UTには大赤斑の直前に迫りました。15日UT以降は約10時間の自転周期に対応して、世界中の木星観測網がしかれました。これらの高分解能画像によれば、15日UTには白斑は大赤斑孔に侵入し、大赤斑の周りの反時計方向の渦に沿って進んでいく様子がとらえられています。17日UTのT.WeiLeong氏(シンガポール)の画像では白斑は大赤斑孔に沿って長く伸び、18日UTのE.Grafton氏(米国)の画像では白斑は大赤斑の真北に位置し、その後方に細長い白雲が引き続いていることが分かります。20日UTには白斑は大赤斑後方のSEBs(南赤道縞)に達し、SEBsの乱流に巻き込まれたか、または大赤斑自身の渦に巻き込まれたか、白斑は存在が分からなくなりました。日本からも15日UTの風本氏、16/18日UTの永長氏の観測を始め、数多くの観測が行われています。

大赤斑は現在では長径が18000km、短径が12000kmの楕円形をした巨大な渦で、300年前に形成されたと考えられています。STrZ白斑は大きさが7000kmで、地球の半分ぐらいのこちらも大きな渦です(画像2上)。STrZの白斑が大赤斑と会合する同様な現象は、1997年5月と2002年11月に起こっています。2000年12月にカッシーニ探査機によって観測された白斑(画像2下)は、合と重なり実際の合体の観測は得られませんでした。今回の会合現象は、世界の観測者が協力することで、会合中の高分解能の画像が数多く得られたことで、意義深いものです。今回の会合現象について、アニメーションなどで詳しい状況を以下のURLで公開しています。

http://alpo-j.sakura.ne.jp/Jupiter02/Conjunction.htm


画像2 STrZ白斑・大赤斑と地球との大きさの比較
画像/上:E.Grafton(米国)、下:NASA カッシーニ探査機(拡大)
2003年4月の火星(安達 誠)
4月は火星の季節の暦であるLsが160°から177°までの観測となりました。視直径はしだいに大きくなり、およそ8秒です。南半球はそろそろ冬の終わりに近付いてきており、もうしばらくすると南極の雲も晴れ上がり、キラキラと輝く姿を見せることでしょう。4月上旬の南極地方はまだ雲に包まれており、4月5日の新川氏の観測(画像3、第1段)のように南極冠の様子をつかむことはできませんでした。

4月を振り返って特徴的な変化として、南極地方を取り巻く地域に幅が広く暗いバンドができたことでしょう。これはいつもの事ですが、ブルーのイメージでも暗く写り、南極の周辺部が晴れていることを示しています。これから先、急速に晴れ、はっきりした南極冠が見えてくることでしょう。

画像3 2003年4月の火星

撮影/新川勝仁氏(堺市)、D.Parker氏(米国)、Eric Ng氏(香港)、畑中明利氏(三重県)

4月14日にD.Parker氏(米国)から注目すべき画像(第2段)が報告されてきました。画像4に本来見えるべき模様を示しましたが、ヘラスから西に帯状にダストがかかり、模様が見えないことが分かります。2001年5月、この画像と同じようにヘラスにダストのベールがかかり (池村氏、画像5)、そしてこの1ヶ月後に大黄雲が発生しました。このダストのベールにより、大気の温度が上昇したことが大黄雲の発生の引き金になったと筆者は考えています。

画像4 4月14日の模様の見え方


画像5 2001年5月ヘラスにかかるダスト

撮影/池村俊彦氏(名古屋市)、2002/05/17 16h24mUT CM=301 Dia.=17"

ヘラスが見えなくなった時のLsの値は2001年で160°、今年は168°でした。両者の値が非常に近いことが気になります。ひょっとすると2001年のように、非常に早い時期に大黄雲の発生があるのではないかと気になります。2001年6月末の大黄雲の発生と同じLsの時は、今年は5月中ごろに相当します。

4月20日を過ぎるころになるとParker氏の画像にはダストのベールがキンメリウム(西経220°南緯20°)を帯状に覆っているのが観測されています(第4段)。これは2001年と違った展開です。2001年はヘラスから西へ進行しましたが、今年は東に移動しているかのように見えます。ただし、観測数が少なく断定はできません。このことから2003年は独自の進行をするのではないかと予想しています。4月下旬に入り、ヘラスにかかっていたダストのベールはしだいに淡くなり、本来の明るくなったヘラスが見えるようになってきました (畑中氏、第5段)。ベールの中心が移動したということでしょう。

次に、気になるダエダリア(西経120°南緯30°)です。1973年の大黄雲の発生した後に新しい大きな暗色模様が出現し研究者達を驚かせました。そのダエダリアですが、2001年の観測シーズンの後半になり、視直径が小さくなった火星面にそれらしき模様がとらえられていました。今シーズンはここにそのときの模様が再び現れていないか注目しています。残念ながら地球からは、まだ鮮明に変化をとらえた観測はありませんが、存在するのは確実なようです。2月14日のマーズ・グローバル・サーベイヤの画像では、この新しい模様がとらえられていました。今後、地球からもよい情報が得られることでしょう。Eric Ng氏(香港)の画像(第3段)は、ソリス(西経90°南緯25°)のすぐ西側(画像では右側)にやや暗くなった部分が見られます。

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