5月は、視直径がいよいよ10秒台に入り、表面の模様も非常に良く見えるようになりました。肉眼でもはっきりと模様が認められるようになり、画像でも小さな表面模様まで記録された高分解能の画像が報告されるようになりました。
2001年の大黄雲の影響が、火星の表面にどのように出ているかが、観測者には非常に大きな関心事であり、雲の消長もさることながら、表面模様の変化も重要な観測となりました。今月は、まず南極冠から報告していきましょう。
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図3 2003年5月の火星面 |
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撮影/中西英和氏(愛知県)、永長英夫氏、安達 誠氏(滋賀県)、池村俊彦氏(名古屋市)
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@明るくなった南極冠
火星の季節を表わすLsが180°(南半球の春分、今年は5月6日)になる頃までは、通常、南極冠は南極雲におおわれているために明るく見えないものです。今シーズンも例年と同じように、月の初めまでは南極冠は明るく見えませんでした。一般の方に火星を望遠鏡で見ていただくと、白い雲の出ている北極地方を南極冠と間違えることすら起こるくらいでした。
南極冠は5月9日までは黄色っぽく観測されていましたが、それ以降には、ようやく南極冠が白っぽく観測されるようになりました。極冠はなんといっても火星のシンボルのような存在ですから、ようやく火星らしい顔を見せてくれるようになったわけです。また、極冠が縮小し始めると現われてくるダークフリンジと呼ばれる極冠の襟巻きのような黒いバンドも、5月中旬ごろからはっきり見えるようになりました。
A南極冠がおかしい
白く美しい南極冠も、これからは次第に小さくなっていきます。南極冠は11月頃までは観測できるでしょう。過去の観測では小さくなっていくにつれ、極冠の内部に亀裂が観測されるようになります。この亀裂は氷の割れ目のようなものではなく、氷が溶けて地表が見えているもので、山や盆地などの地形に大きく影響していると考えられています。なぜかというと、この割れ目は毎回同じ場所に出現するからです。太陽の方向を向いた斜面があれば、他の地域よりも早く溶けていくと考えられるからです。
したがって、これから亀裂がどこから見え始め、どのように拡がっていくかを追跡することは重要な観測課題となります。過去の例と比較すれば、今年の極冠の溶ける早さが速いのか遅いのかが分かります。極冠の厚み、火星大気の温度、さらに太陽活動との関連などもあり、簡単には解明できないでしょうが、重要な情報を得ることができるでしょう。
火星特集のページで紹介していますが、今シーズンの南極冠はいつもと異なったおかしな様子を示しています。本来ならばキラキラと輝いているはずの南極冠の中央が暗くなっています。しかもこの暗くなっている地域は南極冠の完全な中央ではなく、経度で0°方向(サバエウス・オーロラ方向)に偏っているようです。極冠は周囲から溶け始め、その周辺にダストが発生しやすいことが知られていますが、極冠の中央にダストが厚くかぶっているのでしょうか、それとも極冠が中央から溶け始めているのでしょうか、この原因はまったく分かっていません。今後の観測で明らかになるでしょうが、どのような変化を見せてくれるのか、目が離せない状況です。
B南極冠に光点出現
南極冠の周りにできる、暗いバンド(ダークフリンジ)が非常に顕著になってきましたが、それとともに、溶けつつある南極冠の周辺に明るい斑点が見えるようになりました。5月の終わりごろから目立ってきていますが、経度で20°辺りに見えています。
C低緯度地方の氷晶雲
ブルーの画像で、低緯度地方に幅の広い明るくなった帯のような部分が見られますが、これは低緯度地方に特有の氷晶雲です。極冠が白く輝き始めた5月中旬頃から目立つようになりました。シルチスの東側など、いつも明るくなる場所があるのですが、今後はこれらの動向にも注意が必要でしょう。
2001年の大黄雲はLs=185°(南半球の初春)とこれまでで最も早い季節に発生しました。火星にはひんぱんにダスト雲が発生していますが、それが大黄雲になるかどうかは誰も予想できないようです。しかしながら、いつでも大黄雲発生の可能性があるといえるかもしれません。日本列島はこれから本格的な梅雨になり、観測条件は極端に悪くなりますが、注意深く観測を続けて下さい。
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