8月27日の大接近に向けて、視直径は12秒台〜16秒台まで大きくなっています。7月中旬にはいよいよ20秒を超え、梅雨明けに火星を見た時に、言葉にならないほど大きくなっていることに感動することでしょう。
@ 南極冠の変化
南極冠を覆う南極雲が晴れた5月中旬から、南極冠の中央付近に薄暗い部分が見えてきました(画像1)。その後、薄暗い部分は南極冠のあちらこちらに拡がり、たくさんの暗斑ができたような見え方になり、火星の観測者はこの状態に大変困惑しました。一般的には極冠は周辺から縮小して、まるで芯だけを残すようになると考えていたからです。南極冠の中央が赤味を帯びていることは、極冠の中央から溶けてきていることを意味します。ひょっとするとドーナツ状の南極冠になるではと心配するほどでした。
画像1 2003年6月の火星 上段は日本での観測、下段は世界の観測者の画像で南極冠内の模様に注目。 撮影/永長英夫氏(兵庫県)、柚木健吉(堺市)、池村俊彦氏(名古屋市)、熊森照明氏(堺市) D.Parker氏(米国)、E.Ng氏(香港)、E.Grafton氏(米国)、T.W.Leong氏(シンガポール)(拡大) |
6月の観測を集約すると、南極冠内部の薄暗い部分は、しだいに筋のようになり、どうやら南極冠が縮小する際にいつも観測される割れ目へと進行するようです。6月下旬と7月上旬の観測から、南極冠の真上から見た図を作成しましたが(図2)、南極冠の暗い領域が筋状になっていることが分かります。これは、E.M.アントニアジ(フランス・ムードン天文台)が1930年に出版した「惑星・火星」で示した南極付近の模様(図3)と良く一致しています。
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図2 南極冠を真上から見たマップ |
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作成/安達 誠
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図3 南極付近の地図 |
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出典/佐伯恒夫著、火星とその観測、恒星社厚生閣(1968)
今回観測された南極冠の内部の暗い模様について、マーズ・グローバル・サーベイヤー(MGS)の良い画像がありました(画像4)。中央付近の白い領域は、夏の時期でも溶けることなく残っているドライアイスの霜で覆われた永久南極冠です(永久北極冠はドライアイスの霜が昇華して水の氷が見える)。その周りの明るい領域は、冬の間に積もったドライアイスの霜からできている季節的な極冠です。この季節的極冠が、現在見えている大きな南極冠に相当します。季節的極冠の上空には、水の氷晶雲が覆っています(左半分)。さて、この画像の右下に暗い領域がありますが、これは季節的極冠を作る霜が早く昇華して、下の地表が見えている地域です。この地域が暗く見えるのは、MGSだけでなくバイキング2号(1976-77年)でも観測されている現象で、アントニアジの観測した南極冠の割れ目に拡がる暗い領域と一致しています。
つまり、今回観測された南極冠内部の暗い模様は、季節的極冠を作るドライアイスの霜が早く溶けて(昇華)、地表が見えていることになります。南極冠が地上から良く観測できるのは大接近の年で、1971年の観測でも同様な着色した南極冠が観測されていました。ただ、これまでの地上観測ではもう少し季節が進んで、極冠が縮小する際の割れ目として観測されてきました。今年の観測は、冷却CCDやWebCamなどの進んだ観測技術のおかげで、視直径の小さな時期でもとらえられるようになったということでしょう。
画像4 MGSによる2001年9月12日の南極付近 Ls=232°で南半球の春の季節に相当する。 提供/NASA(拡大) |
A 南極冠の光点とダークフリンジ
南極冠の端には5つの明るい輝点(20,80,180,210,330°W)が見られました。この部分はおそらく地形の影響で、ドライアイスの霜が多く積もっている地域を示していて、これから南極冠が縮小する際に、取り残されて極冠の出っ張りとして見えてくると考えられます。また、南極冠を取り巻く襟巻きのように、暗いバンド(ダークフリンジ)が目立ってきました。
B ヘラスの明化
今シーズンのヘラスはずっと暗く、わずかにヘラスの西部が明るいだけでした。暗い模様であることは太陽熱を吸収しやすいことを意味します。6月23日の観測から、ヘラスの南部が明るくなってきました。原因はヘラス盆地の内部に小規模な黄雲が発生したことによるものでしょう(特集にあるように7月1日にヘラスの北端で大黄雲が発生しました)。
C ソリスの形の変化
眼視でははっきりしませんが、画像ではソリス付近の模様が大きく変化しています。6月18日のE.グラフトン氏(米国)や6月26日の熊森照明氏(堺市)の画像では、ソリスの形はカエルがじっとしている姿を想像させます。この付近は2001年の大黄雲で大規模な砂嵐が吹き荒れた地域に一致しています。
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