火星の視直径は16.8秒から22.3秒まで一気に大きくなり、模様の細部までとらえられました。1ヶ月後の大接近時の25.1秒が本当に楽しみになってきました。今月に起こった大きなトピックスである、ヘラスに発生した7月1日の地域的黄雲は9月号特集で、クリセに発生した7月29日の地域的黄雲は今月号の特集で紹介していますので、ここではその他の現象を紹介します。
画像1 ソリスの変化 ソリスの北半分(矢印)が7月中旬から淡くなってきている。 撮影/Don Parker(米国、40cm反射)、Ed Grafton(米国、35cmSCT)、熊森照明(堺市、20cmダール・カーカム)、Eric Ng(香港、25cm反射)、Cristian Fattinnanzi(イタリア、25cm反射)(拡大) |
@ソリスが淡くなってきた。
ソリス(90W,25S)は太陽湖と呼ばれ、また『火星の目玉』という別名を持って親しまれている模様です。この地域は、永年変化が多いことでも知られており、通常は目玉のように丸い模様が、今シーズンは南北に伸びて濃く見えています。西側(右)のダエダリアは濃化しており、北東(左下)のアガトダェモンなど周りを運河の名称を持った暗い筋状の模様に囲まれ、仲間の中では『カエル』が張り付いているようだと形容しています。
このソリスの北半分が7月中旬から淡くなってきています。画像1に、6月中旬から8月上旬のソリス付近の観測を集めました。また、画像2に、熊森照明氏(堺市)の画像から作成した淡化前後の展開図を示します。これらから、7月上旬までのソリスは南北に濃い楕円形に見えていましたが、7月中旬以降になると全体がやや淡くなり、特に北半分の淡化が目立ってきました。局所的な黄雲が起こって暗い模様をおおう場合がありますが、今回はそのような黄雲の発生は観測されていません。画像処理のいたずらによってコントラストが変わっているだけなのかと疑い、多くの画像を調べてみましたが、明らかな淡化現象に思われます。この現象は急激に起こっているわけではありませんが、今後の変化に注目したいと考えています。
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画像2 ソリスの淡化の比較 |
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2003年6月26日と8月6日の画像から展開図を作成。 撮影/熊森照明(堺市、20cm反射)
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Aミッチェル山の不思議
南半球の春(今シーズンは2003年5月頃)になると、ドライアイスの霜でできている季節的南極冠は円形を保ったまま縮小を始めます。そして、例年ですとLs=220°(7月中旬)頃から南極冠内に暗い亀裂ができて、周囲も凸凹が目立ってきます。今シーズンは観測技術の進歩もあってか、6月頃から南極冠内部に暗い濃淡が観測され、また7月初めには明らかな亀裂が見られ始めました。さらに季節が進んでLs=240°(8月中旬)頃になり日射量が増すと、ドライアイスの昇華が進みます。そして、リマ・オーストラリスの亀裂が拡がり、ミッチェル山(320W,70S)が南極冠から分離して見えてきます(画像3)。ヘラスの南西(右上)で光り輝くミッチェル山の姿は美しいものです。
画像3 南極冠から分離し始めたミッチェル山 撮影/荒川 毅(奈良市、30cm反射)、池村俊彦(名古屋市、31cm反射)、柚木健吉(堺市、20cm反射)(拡大) |
ミッチェル山は、1846年に米国Cincinnatio大学の天文学者O.M.Mitchelが発見したもので、E.M.アントニアジの命名ではノボス・モンスと呼ばれています。しかしながら、ミッチェル山は、マーズ・グローバル・サーベイヤー(MGS)の観測では山ではないことが明らかになっています(画像4)。昔は山岳に残る雪のように考えられていたようですが、NASAによると、この地域は南向きの斜面または断崖になっており、太陽光をさえぎっていることが、長くドライアイスの霜が残る理由だと解説されています。また、秋になって季節的南極冠が形成され始める時も、周囲よりも早くミッチェル山の霜がとらえられています(画像5)。夜の間に降り積もったドライアイスの霜が昼間に太陽光で昇華することを繰り返して、次第に季節的南極冠が形成されますが、断崖によって昼間も溶けずに残っているものと考えられます。
画像4 MGSのとらえたミッチェル山 1999年9月(Ls=206°)。上が南。 提供/NASA(拡大) |
画像5 MGSのとらえた秋のミッチェル山 2002年6月(Ls=34°) 提供/NASA(拡大) |
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