天文ガイド 惑星の近況 2005年5月号 (No.62)
伊賀祐一
2005年2月の惑星観測です。今月は全国的に天気に恵まれず、中旬と下旬に観測欠側日が続きました。さらに、今冬は本当にシーイングにも恵まれず、観測者泣かせのシーズンでした。

1月14日に衝を終えた土星の観測は、27人から27日間で386観測(そのうち海外は17人で144観測)でした。衝を4月4日にむかえる木星は、27人から25日間で301観測(そのうち海外は16人で102観測)でした。10月30日に準接近となる火星は、池村俊彦氏(名古屋市)とZ.Pujic氏(オーストラリア)の2人から3日間で5観測の報告がありました。3月に入るとようやく視直径が5秒を超えてきます。

木星:2005年2月
今年に入り、Zac Pujic氏(オーストラリア)から観測報告を受け取っていますが、その高解像度画像(画像1)に驚いています。季節も違いますが、それにしてもシーイングがとても安定しているのでしょう。今年の木星は南中高度も低く、その点でも南半球のオーストラリアは優位でしょうが、国内の観測者はうらやましい限りです。今月はPujic氏の画像を中心に、木星面の特徴を紹介します。


画像1 2005年2月15/18日の木星
撮影/Zac Pujic(オーストラリア、31cm反射)(拡大)

@ STB白斑'BA'

STB(南温帯縞)にただ一つ存在する永続白斑'BA'は、2月15日UTにはII=350.9°(Pujic氏画像)に位置しています。経度方向の大きさは11°あり、暗い縁取りに囲まれていますので比較的見えやすい対象です。右上の拡大図を見ると、白斑の形状はきれいな楕円形ではなく、五角形に近い印象です。白斑自体は反時計回りの渦なのですが、北側と南側にある東西のジェット気流が複雑にからみあっているために、暗物質の流れがいびつに見えています。

STBは、この'BA'の直後から80°ほどのベルトが見えています。しかし、STBは淡いながらも細いベルトが全周に見られます。

A STrZのドーナツ状暗斑

STrZ(南熱帯)のSEB(南赤道縞)の南縁に近いところで、II=60°にドーナツ状暗斑があります。12月末に出現したものですが、大赤斑の前方40°付近には良く見られます。一方、SEB南縁にはSEBsジェット気流があり、この気流に乗った暗斑が急速に後退しています。これらの暗斑群は、STrZ暗斑の北側を通過し、そして大赤斑まで到達するものがしばしば見られます。その一つの暗斑が、1月末に大赤斑に到達し、たぶん大赤斑の周りの渦に巻き込まれています。2月18日UTの画像では、さらに別なSEBs暗斑が大赤斑の前方にあります。この暗斑も2月末に大赤斑に達し、大赤斑の渦に巻き込まれていく様子がとらえられました。

B NEBの複雑な動き

NEB(北赤道縞)は、2001年以来の拡幅期をむかえています。北側に赤みの強いベルトが広がっているのですが、実際には太いベルトは南北で分断された気流に属しています。2月15日UTの画像で、南半分は右へ、北半分は左への気流となっています。その2つの気流の境界が本来のNEBnなのですが、ここに赤茶色の暗斑barge(バージ)が生まれています。さらに、この境界の南側に白斑が発生し、それが東西に引き伸ばされて白い斜めのrift(リフト)が生まれます。このリフトはかなり速い速度で前進しますので、前方にできたbargeを追い越し、その時にbargeを崩していきます。こうして、いくつかのbargeが生まれては、riftによって消失していく様子がとらえられています。


画像2 2005年2月20/21/22日の木星展開図
撮影/月惑星研究会関西支部(拡大)

土星
土星の観測に精力的に取り組んでいる柚木健吉氏(堺市)と瀧本郁夫氏(香川県)は、自転に伴って移動する白斑や暗斑の検出を行っています。2月4日UTには瀧本氏がIII=20°にSEBZの白斑を、2月8日UTには柚木氏がEZsのI=130°に白斑を検出されました。しかしながら、これらの模様は非常に淡いもので、眼視での検出はむずかしいでしょう。

今シーズンの南半球高緯度のSSTBの赤みが強くなっているという池村俊彦氏(名古屋市)の報告や、土星の衝効果によってBリングが明るく輝いた現象についての柚木健吉氏の報告は、カラーページで紹介しています。

画像3 2005年2月の土星

撮影/柚木健吉(堺市、20cm反射)、瀧本郁夫(香川県、31cm反射)

火星
10月に準接近をむかえる火星の観測が始まりました。まだ視直径が5秒にも満たない大きさですが、これからが楽しみです。火星では南極の上空を覆っている南極雲が輝き、その下で南極冠が形成されている季節に当たります。

画像4 2005年1月2月の火星

撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)、池村俊彦(名古屋市、31cm反射)

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