天文ガイド 惑星の近況 2005年12月号 (No.69)
伊賀祐一
2005年9月の惑星観測です。10月23日に合をむかえる木星は、福井英人氏(静岡県)から9日間で15観測の報告がありました。早ければ11月中旬には新しいシーズンの観測ができるでしょう。10月30日に準大接近をむかえる火星の観測は、56人から30日間で1545観測(そのうち海外から31人で604観測)でした。朝方の東天の土星の観測は、8人から8日間で15観測(そのうち海外から2人で3観測)でした。

9月の火星:雲が見やすくなった(安達 誠)
火星暦では夏至を過ぎ、南極冠はますます小さくなってきました。それに伴い、大気中には二酸化炭素だけでなく水蒸気量が増加するため、あちこちで白雲が目立つようになってきました。白雲は大きく分けると3種類あります。
1. 朝方や夕方の欠け際に出る霧
2. 高山にかかる山岳雲
3. 低緯度地方の空に出る氷晶雲
これらのうち3の氷晶雲は、今期の火星では見えにくい年に相当します。

北半球にアキダリウムと呼ばれる暗い模様があります。北半球の火星面の中でもっとも大きな暗い模様ですが、常にこの部分では白雲が見られるようになっています(画像1のD)。局部的に明るい部分が記録されますが、これは、火星の世界の台風のような大規模な低気圧の発生を示しています。


画像1 2005年9月の火星
撮影/畑中明利(三重県、40cmカセグレイン)、D.Parker(アメリカ、40cm反射)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)、D.Peach(イギリス、40cmSCT)、柚木健吉(堺市、20cm反射)、安達誠(大津市、31cm反射)、松本博久(鳥取県、31cm反射)(拡大)

@欠け際の雲

朝は、朝霧を中心とした雲です。水蒸気量の多い南半球の欠け際は、この時期、いつも白っぽく観測されます(画像1のB)。北半球は、それとは対照的に黄色っぽい色になって観測されます。特に朝霧については、観測のときに注意すると、南半球が白くなっている様子が肉眼でも良く分かりました。

A高山にかかる雲

火星面には、高山にかかる山岳雲がよく見られます。有名なものはニクス・オリンピカですが、今シーズンはまだ白い姿は観測されていません。それよりも南に位置している、成層火山のアルシア・シルバの雲がはっきりとらえられています(画像1のC、画像2)。この画像は、アルシア・シルバの雲が、火星面の12時を過ぎる頃からしだいに明るさを増して行く様子を鮮明に写し出しています。今シーズンは、肉眼でもこの雲の存在を確認することができました。北半球にはこの他に、オリンピア山やエリシウムの高地などがあり、ここも白雲が出やすい地域ですが、9月にはまだ見ることができませんでした。


画像2 2005年9月18日の火星:アルシア・シルバにかかる山岳雲の発達
撮影/ 池村俊彦(名古屋市、31cm反射)(拡大)

Bヘラスのサークル模様

今シーズンはヘラスの南部にサークル模様が見えています。特に、強調処理した画像や、IRの画像では鮮明に出ており、気になっている方も多いと思います。このリングは特にIR で撮ると鮮明に写ります(画像1のA)。今シーズンは海外からの報告も含めて、この模様が鮮明に記録され、面白い姿をしています。パッと見ると、クレーターのような印象を受けますが、地形図と比較対応してみると、この位置にクレーターはなく、リング状の模様と地形が一致しないことが分かります。ヘラスは盆地ですが内部はかなり複雑で、こういった地形と、砂漠の砂との関係からリング状に見えているものと思われます。

過去の観測を探してみると、古くは1924年のアントニアジのスケッチや1936年のスライファーの写真にそれらしきものが記録されています。また、ピク・ド・ミディ天文台の画像(1988年)にも鮮明に出ており、今シーズンになってできたものではないことが分かりました。

Cこれからの留意点

Lsの値がどんどん大きくなり、ダストストームが発生しやすい季節になっています。いつ何時、大規模なダストストームが発生するか分かりません。注意深く、火星の監視活動を続けてください。

カラーの画像を撮影されている方は、今までにない明るい部分がないか注意して下さい。また、モノクロで撮影できる方はブルーやグリーンのフィルターを使って撮影して下さい。ダストストームはグリーンのフィルターではっきりと写るようになります。

●第29回 木星会議(旭川)

9月10日/11日に、北海道・旭川市科学館で第29回木星会議が開催されました。木星会議は北海道で初めての開催となりましたが、全国から42名の参加者が集まり、2日間にかけて熱心な討論が行われました。会場となった旭川市科学館「サイパル」は7月23日にオープンしたばかりの新しい施設です。

最初に「2004-05年の木星面のまとめ」を堀川邦昭氏と筆者で行いました。今シーズンの木星面では、@大赤斑前方に長く留まったSTrZのドーナツ状白斑とSEBsジェットストリームに乗った後退する暗斑群の動き、A久しぶりに観測されたSEBnジェットストリームに乗った高速前進暗斑群、BSTB白斑'BA'とSSTB白斑の関連する変化、C拡幅期をむかえたNEBと内部のリフトの活動、などの現象が特徴として取り上げられました。また同時並行で、安達誠氏が「初心者のためのスケッチ入門」を行い、WEBカメラによる実際の木星動画を見ながらのスケッチ指導を行いました。

特別講演として国立天文台の渡部潤一先生から「惑星探査とその展望」と題した講演がありました。火星探査機のとらえた最近の火星のトピックス、土星探査機カッシーニからの最新報告、ディープ・インパクトからの壮大な宇宙実験など、アマチュアにとって興味深いテーマをご紹介いただきました。

翌11日は、5つの演題の研究発表がありました。富田安明氏は、インターバル・タイマーを作成し、それをWEBカメラでの惑星自動連続撮影に適用された自作例を紹介されました。三品利郎氏は、高層天気図を活用することで、シーイングの良いタイミングをつかむ手法と実例を発表されました。筆者は、大赤斑の経度・緯度計測から近年の大赤斑は90日よりは短い85日周期で振動していて、それは緯度方向の振動と関連することを発表しました。堀川邦昭氏も同じテーマでの発表ですが、近年の大赤斑も1969年のソルバーグの論文とほぼ同じ90日周期で振動していることを発表しました。田部一志氏からは、木星大気の構造を理解するために木星表面の流れを追跡する必要性が発表されました。

今年の会議では、平林勇氏をコーディネータとして、パネルディスカッション「木星観測の現状と課題・将来の方向は?」が行われました。4名のパネリストから最近のメーリングリストなどで議論されている観測技術に関する問題や提言などが発表されました。

2005年9月10日(土)
・2004-05年の木星面のまとめ(堀川邦明、伊賀祐一)
・スケッチ入門(安達 誠)
・講演「惑星探査とその展望」(国立天文台:渡部潤一先生)
・懇親会大雪地ビール
2005年9月11日(日)
・惑星観測の為の自動撮影装置(冨田安明)
・シーングの良い日、悪い日
〜如何にして好気流を掴むか〜
(三品利郎)
・大赤斑とSTB白斑の振動(伊賀祐一)
・木星表面の流れを追え!(田部一志)
・大赤斑の運動に関する考察(堀川邦昭)
・パネルディスカッション −木星観測の現状と課題・将来の方向は?−
コーディネーター (平林 勇)
アドバイザー (田部一志)
眼視観測:スケッチ (安達 誠)
撮影:全般 (伊賀祐一)
撮影:単色光 (福井英人)
観測のまとめ (堀川邦昭)


画像3 第29回 木星会議 記念撮影(旭川市科学館)(拡大)

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