8月になり、火星は夜半前に東の空から昇ってくるようになりました。いよいよ観測シーズンの本番です。明け方には南中し、地平高度は65°にもなります。今シーズンは高度も高く、安定した気流での観測が可能になります。視直径は12秒になり、模様は容易に確認できるようになりました。
@南極冠の様子
Ls(火星の季節を表す太陽黄経)は、8月半ばに270°になりました。これは火星の南半球の季節でいえば夏至に相当します。南極冠は、この季節の進行に合わせて縮小し、肉眼では見えにくくなってきました。南極冠の中心は極点になりますが、縮小してくると、極点では見えなくなり、中心の位置は違った場所に見えます。それは地形の影響により、中心が極点からずれるためです。正しい位置は、西経60°付近にあり、この経度が正面に来た時に南極冠は最も良く見えることになります。それとは反対の位置にあるキンメリウム方向から見ると、南極冠は、見かけ上非常に薄く見えてしまい、気流が良くないと見えないことすら起こります。南極冠が消失したと、早合点しないように注意したいものです。
画像1 2005年8月の火星 撮影/D.Moore(アメリカ、25cm反射)、畑中明利(三重県、40cmカセグレイン)、D.Peach(イギリス、40cmSCT)、池村俊彦(名古屋市、31cm反射)、安達誠(大津市、31cm反射)、R.Heffner(愛知県、28cmSCT)、D.Parker(アメリカ、40cm反射)(拡大) |
A暗い模様の様子
さて、視直径が大きくなると、模様も良く見えるようになります。前回の接近(2003年)以降、1火星年経って、私達の知っている2003年の模様の様子とは微妙に違う、暗い模様の変化がとらえられるようになりました。まず、サバエウス(西経340°、南緯10°)のすぐ南側にあるデューカリオニスが暗くなっています。2003年にはこのデューカリオニスの東側は砂嵐のために暗化しましたが、今回はこの地域全体が暗くなっています。おそらく、この間に砂嵐が起こったのだろうと思われます。
また、肉眼では目立ちませんが、ヘラス盆地の南側に、今までとらえられたことのないリング状の模様が見られました(画像1-B)。この模様は、最近のWEBカメラでとらえられています。これは、おそらく過去にも見えていたと思われますが、イメージが淡く、眼視では全体が暗い暗斑状に見えるのみです。そのため過去には記録がないものと思われます。
今月もニクス・オリンピカ(オリンピア山)が赤い暗斑としてはっきりとらえられています。一方、緯度がオリンピカよりも南にある、アルシア・シルバは、先月とは異なり、白雲がかかった白いスポットとして観測されるようになりました(画像1-A)。大気の水蒸気が北に移動してきていることを示しています。今後、ニクス・オリンピカにも山岳雲がかかり、白く見えるときがくることでしょう。1999年にも同じような様子が観測されています。過去の記録を調べることは大変重要な作業でしょう。
B白い雲
雲と言えば、アキダリウム(西経30°北緯50°)付近が濃い白雲におおわれている様子がとらえられています。この付近はこの時期になるといつも濃い霧を見せてくれます。時折、白いスポット状になった雲の発生することがありますが、しばしば見られる現象です。これは、火星の世界の台風のような雲の発生に相当します。こういった雲は大気の運動と大きく関係してるため、砂嵐の発生につながる可能性がありますから、注意して観測したいものです。
Cダストベール
8月19日に、アルギレ(西経30°南緯50°)盆地が淡いダストのベールにおおわれている様子が観測されました(画像1-C)。どこまで拡がるか注目されましたが、8月25日の観測では、このベールの拡がった地域は縮小し、収束して行くのが確認されました。
Dフィルター観測
柚木健吉氏(堺市)は、ブルーの画像で波長が450nmよりも長い光の通らないフィルターを使い、火星の観測をされるようになりました。この方法は火星の地表の模様を写さず、大気中の水蒸気の分布を調べることができる貴重な観測です。450mよりも短い波長で撮影すると、火星の表面には模様は一切写らない状態になります。ですから、そのような状態で模様が出れば、すなわちそれは、雲を表しているのです。これからは、こう言った情報が増えることを期待しています。
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