天文ガイド 惑星の近況 2005年10月号 (No.67)
伊賀祐一
2005年7月の惑星観測です。前半は梅雨ということもあって天候に恵まれず、後半は梅雨明けでもっとも気流の安定した夏空を期待しましたが、残念ながら良い気流に恵まれませんでした。夕方の観測となった木星の観測は、日没時には高度も低く、15人から24日間で86観測(そのうち海外は5人で22観測)と低調でした。朝方の南東の空で高度を上げている火星の観測は、37人から30日間で435観測(そのうち海外から22人で213観測)と大幅に増加しています。

木星:2005年7月
木星は観測シーズンの終わりに近づいていますが、大きな変化はなく、穏やかな木星面です。

@ SSTB白斑

SSTB(南南温帯縞)には全経度で7個の小白斑がありますが、そのうちの5個が100°の領域に集中しています。5個の並んだ小白斑をA1,A2,A3,A4,A5と名付けると、A1は4月20日頃にSTB白斑'BA'の南方を通過しました。続いて、A2が5月20日頃に、そしてA3が7月20日頃にBAを通過しました。この時、A2はBA通過時に加速し、A2-A3の間隔が広がりました。過去の観測から、SSTB白斑は経度方向にふらついており、そのふらつきのきっかけはBAの南方通過ではないかと考えられていますが、今回の現象はそれを実証したことになります。このふらつきの度合いが大きくなると、2002年2月に見られたようなSSTB白斑のマージ(合体)につながるようですが、現在のところではその兆候は見られません。今後8月から9月にかけてA4,A5が順次BAを通過しますが、条件が悪いので観測できないのが残念です。

ASTB小白斑の加速現象

STB(南温帯縞)の白斑'BA'は、II=286.7°(17日、永長氏)にあり、周囲を暗く縁取られているので目立っています。このBA後方35°にあるSTBsの小白斑におもしろい現象が観測されました。この小白斑は、BAとほぼ同じ9h55m24sの自転周期を持っていましたが、6月末に急に加速したことが分かりました。ちょうどこの時にSSTB白斑A4が南方を通過しており、A4-A5の白斑の間にできている細長い明部によって押し出されたように加速し、以降はSSTB白斑と同じ動きをしています。4月から5月にかけて、STBs小白斑の南方をA2-A3の間の明部が通過しましたが、この時には変化はありませんでした。結果として、STBの気流に乗っていた白斑が、隣接するSSTBの気流に乗り換えたことになると考えられます。

画像1 木星:STBs白斑の加速




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画像2 2005年7月8/11/12/14日の木星展開図 撮影/月惑星研究会関西支部

火星:いよいよ10秒を越える(安達 誠)
7月に入ると視直径は10秒を越え、10月30日の最接近の時のおよそ半分の大きさになりました。Lsが240°(火星暦では11月)を越え、暗い模様のほとんどを占める南半球は晩春をむかえています。発達した南極冠は、急速に縮小を開始しています。6月には、極冠の中にドーナツ状に淡くなった部分が形成され、周辺部がリング状に明るくなっていく様子が観測されました。

南極冠のエッジを取り巻くようにできるダークフリンジは、非常に良く目立ち、南極冠はきりっと引き締まった姿を見せていました。7月10日には、南極冠の縁にミッチェル山が南極冠から分離し、はっきりした姿を見せるようになりました。

暗い模様で特徴的なものとしては、ケルベルス(210W,+15)が久し振りに濃い斑点として見えるようになっています。この周辺は暗い模様や高地があり、変化の激しい地域だけに、今後の変化に注目したいと思います。

7月中旬、南半球の中緯度はダストのベールにおおわれ、模様のコントラストが低くなりました。このダストベ−ルの発生源ははっきりしませんでした。これは1975年(1971年の大接近後の2回目の接近で、今年と同じ条件の火星の様子が観測されました)とほとんど同じ現象で、興味深い現象です。1975年にはこのような条件の後、大黄雲が発生しているため、注意を要します。7月末には濃い模様として有名なメリディアニ(子午線の湾)も一時的に淡くなってしまいました。

火星面にはいくつかの、成層火山があります。オリンピア山のすぐ東側に位置するタルシスには3つの火山が知られていますが、そのうち最も北にあるアスクラエウス山が黒い点として見えてきました。また、7月22日にはオリンピア山もはっきりとした黒い点として観測されるようになりました。北半球の山にはまだ雲がかかっておらず、ここしばらくは、これらの火山は黒い点として見えることでしょう。この黒い点状の火山はいずれも肉眼でみるには大変ですが、画像を調べると赤い色をした斑点であることが分かります。火星の火山の特有の色合いです。

これらの山々やエリシウム(215W,+30)がどのような見え方になるでしょうか。また、低緯度地方にはこれから淡い雲が見えてきます。視直径も大きくなり、火星はこれからが面白くなります。

画像3 2005年7月の火星

撮影/E.Grafton(アメリカ、35cmSCT)、R.Heffner(愛知県、28cmSCT)、瀧本郁夫(香川県、31cm反射)、D.Parker(アメリカ、40cm反射)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)、安達誠(大津市、31cm反射)

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