最接近を過ぎ、火星はしだいに地球から離れてきました。月初めには視直径は20秒もありましたが、月末には17秒になりました。
画像1 2005年11月の火星 撮影/池村俊彦(名古屋市、31cm反射)、安達誠(大津市、31cm反射)、R.Heffner(名古屋市、28cmSCT)、P.Lazzarotti(イタリア、32cm反射)、 永長英夫(兵庫県、25cm反射)、D.Peach(イギリス、35cmSCT)、C.Go(フィリピン、28cmSCT)、熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)(拡大) |
@ ダストストームの影響
10月に発生したダストストームは、月初めは火星の1/3近くをおおうまでになりましたが、時間の経過と共にしだいに拡散しています。拡がった地域にはダストのベールがかかり、模様のコントラストが悪くなっています。晴れてきた火星面を詳しく観察すると、砂嵐のため、模様の変化した部分が見つかっています(画像2)。とりわけ、アルギレ盆地はダストストームの発生前とくらべると、明るくなりました。
今回のダストストームの発生に伴い、暗色模様の変化が見られますが、完全に晴れなければ詳しい姿は分かりません。いつまでもダストストームの影響が残っているため、このまま確認できないままシーズンを終わる可能性も出てきました。
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画像2 模様の変化 |
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撮影/ 柚木健吉(堺市、20cm反射)、福井英人(藤枝市、25cmミューロン)
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A ブルークリアリング
火星の表面模様の観測で、非常に面白いものに「ブルークリアリング」という現象が知られています。火星の表面は、450nm(ナノメータ)以下の波長で撮影すると、のっぺらぼうの姿に写ります。これは火星大気によって短波長ほど太陽光線を強く反射してしまうからです。そのために、火星表面のいかなる模様も等しく反射し、吸収されない波長域なのです。
実際にこの波長域で撮影した画像は表面の模様がでてきません。しかし、火星大気の中に水による氷や水滴がある場合は、それらが明るく記録され、火星大気の中における水の分布を記録することができます。したがって、火星の大気を研究する上で、この波長域での観測は、重要な情報を私達に与えてくれます。
ところが衝の前後に、写らないはずの地表の表面模様の写る時があるのです。そこで、これによって表面模様の見える現象をブルークリアリングと名付けています。今シーズンも、いつもと同じようにブルークリアリングが起こりました。国内では柚木健吉氏(堺市)が最初の観測を行い、現在も観測を継続しています(画像3)。最初に記録されたのは11月7日でした。どの程度の見え方になるか、また、いつまで見えているのか、まだまだ分からないことが多い現象です。また、衝からずいぶんたってから出現したこともあり、まだまだ注意をしていきたいと思います。
なお、ブルークリアリングの観測には、通常のB(青色)光では地表の模様が淡く写りますので、フィルターを組み合わせるとか工夫をして、厳密に450nm以下の波長域にする必要があります。柚木氏の観測は、ブルークリアリングにターゲットを絞って観測を継続された成果であり、貴重なデータとなりました。
画像3 ブルークリアリング 撮影/ 柚木健吉(堺市、20cm反射)(拡大) |
B 永久南極冠
火星の極には永久極冠があります。冬場にドライアイスの霜が堆積した季節的極冠が、春から夏にかけて融けて、夏場にも融けずにずっと残っているのが永久極冠です。永久北極冠は水の氷からできており、永久南極冠は軌道の関係から気温が低いので水の氷とドライアイスが混じっているといわれています。今シーズンは、10月頃から非常に小さな永久南極冠が観測されています。10月に起こったダストストームの影響を受け、地球からは黄色っぽく観測されています。気流が悪いと見えないことが多いのですが、気流が良い時には肉眼でも確認することができました。
今見えている南極冠はこれ以上小さくはなりませんが、いつになるか分かりませんが、南極上空をおおう南極フードができるはずで、これを観測することが新しい段階での観測となります。
C 北極フード
北極点は、一日中太陽の当たらない状態が続いており、その下ではこれから北極冠が作られていくことになります。北極冠が形成される過程を記録する事は、地球からはできませんが、北極フードの成長過程を研究する上で、北極付近の雲の観測は重要な観測となります。極をおおう雲は、時には、極の上を横断することもあるため、形成に関わる情報を一つでもたくさん得たいところです。
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